反GMイネ生産者ネット#192
あいち生協 月刊『歓びの木』9月号より
トピックス
特集:遺伝子組み換え食品
愛知県農業総合試験場で行われている、除草剤耐性イネの開発について、6月に「遺伝子組み換えイネの研究・開発の中止を求める署名」を取り組み、7月にはストップ!遺伝子組み換えイネ全国集会が行われました。(報告は8月号)遺伝子組み換え食品は、作物の研究・開発はもちろん、私達の食卓に確実に広がっています。昨年4月には表示の義務化が一部食品ではじまりましたが、遺伝子組み換えの問題をもう一度考えてみます。
@遺伝子組み換えって?
生き物はその姿や形・性質などを親から子へ伝えながら生きています。そのことを「遺伝」といいますが、これを担っているのが「遺伝子」です。動物も植物も細菌もほとんどの生物は、仕組みは多少違いますが細胞の集まりです。細胞の役目や形・生物の種類や性質を決めるのは全て細胞に存在する「遺伝子」です。遺伝子は細胞の核の中にあって、DNA(デオキシリボ核酸)という物質でできた2本の螺旋状のものです。このDNAの違いがタンパク質の種類の違いになり、生物の形や特徴・性質の違いになります。遺伝子組み換えは、細菌などの遺伝子の一部を切りとって別の生物の遺伝子に組み入れる技術を使い、
●除草剤耐性…特定の除草剤に枯れない性質を持つ作物
●害虫抵抗性…害虫がその作物を食べると死んでしまう
●日持ち向上性…例えば熟したトマトがいつまでも腐らない
●食品添加物(キモシン他3種類)
などの性質を持った作物や添加物を作ることをいいます。そして、その作物を使った食品を遺伝子組み換え食品と言います。従来の品種改良が「交配」によるものに比べ、遺伝子組み換えは、人工的に遺伝子を組み換えることにより、生物の種類(種の壁)を超えて生命を操作することなのです。
遺伝子組み換えの方法はパーティクルガン法をはじめ、いろいろあります。いずれの方法も必要な所に必要な遺伝子をキッチリ組み込むことができる方法ではありません。遺伝子組み換えの成功率は100個から10万個に1個ぐらいです。多くの細胞の中からわずかに成功した細胞を選別するために、抗生物質の効力をなくす目的の遺伝子と連結して組み換えます。そして多量の抗生物質の中に入れ、生き残った細胞だけを育てます。
A遺伝子組み換え、何が問題?
◆食品としての安全性も?
「元の遺伝子と組み換えた遺伝子双方とも安全性に問題がなく、組み換えた遺伝子によって作り出された目的のタンパク質の安全性にも問題がなければ、元の作物と実質的同等と見なす」…これを推進派は安全性の根拠にしています。FAO(国連食糧農業機関)・WHO(世界保健機関)や専門家の間でも、実質的同等性の解釈は統一されていません。なぜこれが安全性の根拠になっているのか、どこにも根拠がありません。
挿入された場所によってその遺伝子の働きに支障を来たす可能性があります。今まで眠っていた別の遺伝子が突然働き出す可能性もあります。挿入した遺伝子によっては、種の違いから予期しない働きをするものもあります。未知のタンパク質は分析対象とならないので、思わぬ副産物があっても徴量なら検知できないでしょう。安全性に確実な保障はないのです。
◆私たちへの直接的な害
組み換え作物は、抗生物質耐性の性質を持っているので、抗生剤投与を受けている人命を危険にさらす可能性があります。また抗生物質耐性遺伝子が体内のバクテリアの遺伝子と組み換えを起こし、体内に耐性菌が出現する可能性もあります。(すでに大腸菌で実験報告があります)
アレルギーについては「既知のアレルゲンがみつからない。タンパク質は胃液・膵液により無害なアミノ酸に分解され、未分解のタンパク質が残っていても、大きすぎて腸内では吸収されず排泄されるので問題はない。」と言われています。しかし、乳幼児の未発達な腸管や、成人でも腸管から(BSEのプリオン・タンパク質も分解されず体内に入ります)未分解のタンパク質が体内に入り、アレルゲンになる可能性は十分に考えられます。アレルギーは長期の観察が必要で個人差もあり、体中どこで反応するかわからず、未知の部分が多いので、不測の事態も起こり得ます。
◆生態系を混乱させる
組み換え作物はその遺伝子が近縁種との交配などによって、生態系に広く拡散する恐れがあります。現に、花粉飛散によって、生物に影響が出て生態系が乱されているとの報告が出てきました。
例えば、遺伝子組み換え栽培トウモロコシが6割を越えているアメリカでは、20%以上の混入が確認され、流通段階の混入ということでは説明できず、花粉による交雑が指摘されています。
◆農家は米企業の言うがままに
農家にとっては、種子は毎年買わなくてはならず、農薬とも抱き合わせです。そのためにターミネーター・テクノロジー(第2世代の種子の発芽を不可能にする技術)が開発されました。また、現在組み換え作物の花粉の飛散により、近隣の農家が遺伝子汚染され、モンサント社(農薬・遺伝子組み換え作物開発企業)に遺伝子の盗難で訴えられるというばかげた裁判がカナダで起こっています。このように、先進国の特定企業による種子の支配や価格の決定などの農業支配が起こります。
「食糧危機を救う」と銘打って出てきた遺伝子組み換え作物ですが、作物によっては収量が減ったり不発芽種子が生じたり、新規の病害の被害にあったという報告がみられます。農薬使用量の増加により、残留農薬が増えたという報告もあります。
◆不完全な表示と追跡
遺伝子汚染により私たち消費者の食物の選択は、その表示と追跡可能性(トレーサビリティ)の確保に頼るしかありません。しかし、昨年からはじまった表示の義務化は、遺伝子組み換え農産物が原料の中で、重量で3番目まで多く含まれていて、重量の5%以上に限られています。(あいち生協の表示基準とは違います。)また、一番多く使われている飼料には基準がなく、輸入された遺伝子組み換え農産物の1割程度しか対象になっていません。更に、地球全体に汚染がひろがった時は、その選択の自由すらなくなってしまうのです。
◆審査体制の問題
日本での組み換え作物の開発から商品化までは
@文部科学省
実験の指針→実験室・導入する作物と遺伝子の特性をチェックする→温室:従来の作物との成分性質の比較
A農林水産省
環境への安全性に関する指針→隔離圃場:他生物への影響、雑草性・近縁種への交雑性をチェック→一般圃場での栽培
B厚生労働省
食品の安全性→食品としての栄養成分・アレルギー等安全性のチェック→商品化
以上のような流れで行われます。審査を行う資科は申請者の提出した書類のみであり、第三者機関による試験ではありません。更に、組み込まれたタンパク質も急性毒性試験だけで長期的な慢性毒性については免除されていたり、人ヘのアレルギー性をみる臨床試験がされていないことなど、安全性の審査自体に問題があるといえます。
Bどんなものに使われているのか?
〜食卓に登場しているもの〜
1996年秋に、遺伝子組み換え作物の輸入認可が下り国内流通が始まりました。具体的には大豆・とうもろこし・ナタネ・じゃがいも・綿で、日本で流通しているのは海外より輸入されたものです。
大豆は豆腐や納豆・みそ・しょう油など食卓ではお馴染みのものですが、それだけに留まらず大豆油としてマヨネーズやマーガリン・サラダ油に加工されています。また、脱脂大豆からはかまぼこ・肉マン・カップ麺・ソーセージ等に姿を変化させています。
とうもろこしは最もわかりづらく、そのまま食べたりコーン油として使われたりする以外にもコーンスターチからソルビトールという添加物になり、ハム・パン・竹輪・ケーキ等に使用されます。また、クエン酸やブドウ糖に加工され、ドリンク類やジャム・アイスクリーム等に使われます。
ナタネは食用油やドレッシング・スナック菓子の一部にも使われます。ジャガイモはお馴染みのポテト加工品(ポテトチップス・フライドポテト等)で出まわっています。綿からは綿実油などに加工されます。また、これらの作物の多くは家畜の飼料に使われています。肉や卵・牛乳などに姿を変えて私たちの食卓に上ることになります。
以上のように、遺伝子組み換え食品はすでに私たちの食卓に数多く出まわっています。特に日本では、これらの食品の自給率が非常に低く、大多数を輸入に頼っているので食卓に上る可能性は高くなっています。
C今、遺伝子組み換えイネは?
長久手町にある愛知県農業総合試験場で、愛知県と日本モンサント社が共同で、「除草剤耐性イネ」の開発を行っています。
【これまでの経緯】
96年 県の農業総合試験場と日本モンサント社との間で除草剤(ラウンドアップ)耐性のGMイネ開発試験開始。パーティクルガン法と呼ばれる方法で、遺伝子組み換え体の作り出し選抜が行われる。閉鎖系温室での栽培試験。640の組み換え個体から190個体を選抜。
99年 非閉鎖系温室での栽培。「祭り晴」6系統を選抜。
01年 農業試験場内の隔離圃場で安全性評価試験が行われる。引き続き隔離圃場で試験 栽培。
同5月 農林水産省より一般開放圃場での栽培試験の認可が下りる。
02年 一般開放圃場で除草剤使用法の具体的栽培実験。
【これから】
開放圃場での栽培試験後は、厚生労働省に食品としての安全性審査の申請を行うことになります。皆さんにお願いした署名は、共同開発者である愛知県に対し、申請を行わないようにというものでした。
【なぜ問題でしょう】
愛知県農業試験場以外でも農水省が日本での作付けを認め、開発・研究が進んでいる遺伝子組み換えイネは、殺虫性イネ(Btライス)・対病性イネなどがあります。この他にも国外でも開発が進んでいます。
米は私たちが毎日食べる主食です。遺伝子組み換えイネが食品として出まわれば他の食品に比べてリスクは大変大きいものになります。また、周囲のイネやイネ科の作物への影響、ラウンドアップなど特定の除草剤が大量に撒かれ、土壌汚染などにつながる可能性など農業環境への影響も危惧されます。
■日本の食卓に出回る組み換え作物の割合
作付率
輸入割合 自給率 食卓に出
2001年 (2000年) 回る割合
トウモロコシ―26% ―――96%―― 0% ――25%
(米国)
ダイズ――――68% ――約75%―― 3.7%――49%
(米国)
ナタネ――――50% ――約81%―― 0.1%――40%
(加国)
綿実―――――37% ――約99%―― 0% ――37%
(豪州)
ジャガイモ――1%以下―約85%――61% ――微量
(米国・加国)
(生食用ジャガイモは輸入されていないため、加工ジャガイモのみの統計)
■遺伝子組み換え稲の主な開発状況
(農水省の指針を通過し、厚生労働省に申請を予定している稲)
モンサント・愛知県農試――除草剤耐性稲(祭り晴)
モンサント――除草剤耐性稲(カリフォルニア米)
アベンティス――除草剤耐性稲(LLライス、中粒種)
日本たばこ産業――酒造用稲(コシヒカリ、低グルテリン稲)
三菱化学・農水省――耐病性(縞葉枯病)稲(キヌヒカリ)
まとめ
遺伝子組み換え食品は私達の食卓に確実に広がっています。大豆やとうもろこしなどは、自給率が極端に低く、輸入に頼らざるを得ません。遺伝子組み換えされた米が流通すれば私たちは更に多くの遺伝子組み換え食品を食べることになり、健康への影響や日本の農業への影響も深刻なものになります。
健康や環境への影響の他に遺伝子組み換え食品の問題は国境を越えて様々な課題を抱えています。遺伝子組み換え食品をもうこれ以上、「いらない・食べない・作らない」ようにするために、何ができるか、考えてみましょう。