反GMイネ生産者ネット#184
2002.8.15
農業情報研究所(WAPIC)ホームページより
遺伝子組み換え作物との交雑で雑草が強靭に
"New Scientist"のニュース(Weeds get boost from GM crops, newscientist.com,news,02.8.14)によると、米国の研究者グループが遺伝子操作(GE)作物との交雑により雑草が強くなり、適応性を増すことを初めて立証した。同時に、フランスの別のグループも、雑草が既に圃場実験されているシュガー・ビートの遺伝子組み換え(GM)品種と遺伝子を容易に交換することを示した。ニュースは、これらの発見は、いかなる形質を植物に導入するかについてGM作物の開発者が注意深くなければならないことを強調するものだという。また、英国の研究者は、遺伝子が野生集団の適応性を変える不安があれば、GM植物の育種を停止するのが良いと言っているという。
オハイオ州立大学のアリソン・スノーのチームは、米国で多くの農民が雑草とみなしている野生ひまわりについて実験し、それらが種子をかじる蛾の幼虫に抵抗性をもつGMひまわりと交雑すると、一層頑強になり、種を50%も多く生産することを示した。スノーは「ショックを受けた」と言っている。しかし、GMひまわりを開発したアイオワのパイオニア・ハイブレッド社は、この品種を商業販売する計画はないと言う。スノー自身は、この研究結果を提出した先週の会合で、結果の重大性を強調することには慎重であったという。彼女は、「すべてのGM作物が危険だと証明したわけではない」と言い、この遺伝子は雑草にとって非常に有益なもので、一度外に出れば長い間存続するから、用心する必要があると考えているという。パイオニア・ハイブレッド社のスポークスマンは、大豆やトウモロコシのような既存のGM作物は米国では近縁野生種を持たないし、GMカノーラ、または油料種子菜種は野生カラシと近縁であるが、遺伝子拡散は、今までのところ、特にカナダで商用の非GM菜種に見られただけだと言っている。
しかし、様々な企業がGMシュガー・ビートを開発している。フランス・リール大学の研究チームによる普通のビート圃場の研究は、GMビートがその中で育つ野生ビートと遺伝子を交換する可能性が過小評価されてきたことを示している。このチームは、"Journal of Applied Ecology"誌に、我々はすべての種類の間で遺伝子のフローがあり得ることを発見したと書いている。ビートについては両方向のフローがあり、状況は複雑化する。雑草遺伝子がしばしば作物品種を汚染し、収量を減らす。雑草ビートが除草剤抵抗性胃遺伝子を取り込めば、農民に一層大きな損害をもたらすことになる。チームのVan Dijkは、GM品
種の染色体数を倍にするといった「トリック」により遺伝子拡散の機会を減らすことはできるが、完全に排除はできない、それは「不可避」だと言う。しかし、彼は、それでもGM品種は農民を助けることができると信じているという。
2002.8.17
農業情報研究所(WAPIC)ホームページより
イギリス:圃場実験GM作物に抗生物質抵抗性遺伝子
8月15日、イギリス環境食料農村問題省(DEFRA)とスコットランド行政部(Scotish Executive)が、バイオテクノロジー企業・Aventis CropScience社から、圃場作物実験に使われている遺伝子組み換え(GM)油料種子菜種の種子に二つの抗生物質に対する抵抗性を与える遺伝子が含まれているという通報を受けたと発表した(DEFRA Mews Release:Impurities found in Aventis GM rape seed farm scale evalutions 336/02,02.8.15)。この種子は除草剤・グルホシネート・アンモニウム抵抗性のものであるが、種子の2.8%までが抗生物質のネオマイシン、カナマイシンに抵抗性を与える余分な遺伝子(nptU)を含んでいるという。
この種子は、1999年にイングランドの三つの実験サイト、2000年には六つの実験サイトで播かれており、現在はスコットランドの二つのサイトを含む14のサイトで栽培されている。今年栽培されているものは、数週間のうちに収穫される予定であり、その後廃棄されるという。
抗生物質抵抗遺伝子は、過去、組み込むべき遺伝子の移転が起きたかどうかの確認を容易にするために、遺伝子を操作する際に広く使われてきた。しかし、この遺伝子が動物や人の中のバクテリアに移転、抗生物質への抵抗性を発達させる恐れから、段階的に廃止することが要請されてきた。今回の実験も、このような遺伝子が存在しないことを前提に進められてきたものである。ただ、政府の諮問委員会(ACRE、環境放出諮問委員会)は、二つの抗生物質のどちらも、耐性バクテリアの出現のために人間の医療には広く使われてはいないから、人の健康や環境のリスクはないと言っている。しかし、「地球の友」は、この抗生物質抵抗性遺伝子は、髄膜炎など致命的な病気の治療に使われる重要抗生物質であるゲンタマイシンに対する耐性も与える可能性があると反論している(Friends of the Earth Press Release:BIOTECH BLUNDER RESULTS INGM TRIAL CHAOS,02.8.15)。
ともあれ、今回の事件が重大な規則違反の存在を明かにしたことは間違いない。DEFRAも、Aventiceを調査し、告発もあり得ると言い、開発企業が、種子が汚染されていないことを保証できないならば、GM作物の商業栽培を凍結すると警告している。しかし、問題は企業だけにあるとはいえない。4月、この企業は定期監査を受けているが、監査官はこの問題を見落としている。それだけではない。3年間にわたり問題が見過ごされてきたという事実は、規制システム全体に重大な欠陥があることを意味する。イギリスだけのことではないが、開発企業が提出するデータを鵜呑みにして、実験許可申請にメクラ印を押すだけという規制のあり方そのものが問われているのではなかろうか。イギリスでは、次週、3年間の実験計画が完了するための播種が始まる。ACREは、それに先立つ完全な調査の実施とこのような事件の再発を防ぐ措置の設置・冬季油料種子が汚染されていないことの保証と検査結果の公表・GM監査の全面見直しを政府に要請した。
政府がこれにどう応えるかは今後に待たねばならない。ただ、3年間の実験計画を完了、2004年からのGM作物商用栽培を目指す政府は、国民のGM作物に対する懐疑を解こうと、秋からの「公開論争」開始を告げたばかりである。今回の事件は、従来から決定的であった国民の政府不信に拍車をかけるであろう。そのなかで、政府は国民をどう説得しようというのだろうか。
しかし、これはよそ事で済ませられる問題ではない。企業の申請に対して書類審査だけで可否を決定してきたやり方は日本もイギリスも変わらない。安全性に関しては、開発企業のデータを鵜呑みにするのではなく、政府機関が自らの実験によって確かめる必要がある。その際、現在は企業が免れている慢性毒性や長期的影響も調査するのでなければ、消費者の不信を解くことはできないであろう(EUの新規則案は「実質同等」概念に基づく安全性評価の方法を放棄している)。環境影響に関してもそのようなシステムが必要ではないのか。そのためには、研究・分析体制の整備・飛躍的強化も不可欠である。イギリスの今回の事件を契機に、わが国のGM作物リスク管理のあり方の根本的見直しが進むことになればと念ずるものである。
詳しくは『農業情報研究所(WAPIC)』へ http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/