遺伝子組換えイネ(Sub29系統)の 屋外試験に係る公開説明会のご案内 | ||||||||||||
当センターでは、岩手県が設置する試験研究機関のバイオテクノロジー応用化研究を支援促進するため、岩手県からの委託を受け遺伝子組換え技術等バイオテクノロジー基礎的研究を実施しています。このたび、遺伝子組換え技術により岩手県独自の低温抵抗性イネ(Sub29系統)を開発し、県内で初めての屋外試験を計画しております。 つきましては、県民の皆さんに屋外試験内容についてご理解を頂くため、その研究経過や試験方法等についての説明会を開催しますのでご案内いたします。 記
※お問い合わせ先 管理部研究主幹(小田原) TEL 0197-68-2911 1 研究概要 センター開所以来5年間にわたって本プロジェクト長を担当してきた中村郁郎主席研究員が、平成10年3月に千葉大学に転出した。その後任に寺内良平が着任した。研究員も入れ代わり、松村英生、齋藤宏昌両研究員が平成10年度から着任した。新体制になった本プロジェクトは、従来の研究の継続発展とともに、新しいテーマに新しい手法で取り組むことを目指す。岩手県から本プロジェクトに与えられた委託課題は(1)優良品種へのいもち病等耐病性付与による品種母本の作出、(2)優良品種への耐冷性・直播適性付与による品種母本の作出、(3)優良品種への耐倒伏性等の付与による品種母本の作出の3課題である。いもち病耐病性付与については抗菌性タンパク質遺伝子を、耐冷性付与については活性酸素消去系タンパク質遺伝子をそれぞれイネに導入することにより実用品種母本の育成をはかっている。一方、実用化開発研究を支える基礎的研究にも力を注ぐ。基礎的研究として、いもち病菌感染侵入過程の解析、突然変異体および遺伝子発現プロファイリング技術を用いたイネ有用遺伝子、プロモータの探索を実施する。 2.オリゼマチン遺伝子導入イネの作出 岩手における水稲主要品種である「ササニシキ」「かけはし」において、いもち病に対する耐病性付与による品種母本の作出を目的として、耐病性関連遺伝子をアグロバクテリウム感染法により遺伝子導入をおこなった。 1)合成キチナーゼ導入イネの解析 クモノスカビ(R.oligosporus)由来キチナーゼ遺伝子を植物用にコドン改変した合成キチナーゼ(NRK)遺伝子を導入したイネ形質転換体140系統が得られた。PCR解析及び合成キチナーゼ遺伝子をプローブにしたサザンブロット解析*をおこなったところ、調査した10個体中10個体ともNRK遺伝子が導入されており、各系統1〜2コピーの遺伝子を有していることが確認された。さらに、クモノスカビのキチナーゼの配列情報に基づいた2種類の合成ペプチドより作成された抗体を用いてイムノブロット解析*をおこなったところ、10個体中5個体において内生イネキチナーゼ(30kD)よりも大きいクモノスカビ由来のキチナーゼ翻訳産物が確認された。翻訳産物量の少ない系統については、遺伝子導入は確認されていることから転写以降でサプレッションが生じていることが示唆された。各再分化植物体は稔性を有し、それぞれの個体よりT1種子を得た。得られたT1種子をハイグロマイシンで発芽時における選抜をおこなったところ、各系統よりハイグロマイシン耐性個体が分離し、後代にも導入遺伝子が遺伝されることが示された。ハイグロマイシン耐性個体として分離してきたT1各系統を育成し、T2種子の分離試験により選抜したホモ系統、さらに異なる耐病性関連遺伝子を導入した個体との交雑体を用いて、いもち病菌感染試験をおこない、いもち病抵抗性品種母本を選抜する予定である。 2)オリゼマチン導入イネの解析 イネ塩ストレスcDNAライブラリーより得られた抗菌ペプチド、オリゼマチンのcDNAをトウモロコシのユビキチン1遺伝子プロモーター*に連結して、アグロバクテリウム感染法により水稲品種「ササニシキ」に遺伝子導入をおこなった。オリゼマチン遺伝子を導入した90系統(当代)の植物体は、PCR解析及びサザンブロット解析の結果、オリゼマチン遺伝子が導入されていることが示され、また各系統1〜2コピーの遺伝子を保持していることが示された。さらに推定アミノ酸配列に基づいた2種類の合成ペプチドより作成した抗体を用いてイムノブロット解析をおこなったところ、30個体中25個体において細胞間隙への輸送シグナルがプロセスされたと考えられる22kDの翻訳産物のシグナルが検出された。また第2世代種子をハイグロマイシンで発芽時における選抜をおこない、分離された耐性個体についても同様にオリゼマチンのタンパクが産出されていることが確認された。現在、第2世代の植物体より得られた種子を用いてホモ系統を選抜中である。今後これらのホモ系統を用いていもち病菌感染試験をおこない、いもち病抵抗性品種母本を選抜していく予定である。 3 グルタチオン−S−トランスフェラーゼ遺伝子導入イネの作出 活性酸素消去系酵素遺伝子の一つであるグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)は、除草剤パラコートへの耐性や、低温などの各種ストレスに対する耐性の向上に関与することが知られている。我々は、いもち病菌感染ストレスcDNAライブラリーより単離した2種類のGST(PSL29、PTL163)について、低温抵抗性付与を目的としてイネ(ササニシキ)への導入を図っている。プロモーターとしてubiquitine(ベクター*略称Sub)プロモーターのほか、発芽時期特異的であるα-amylase(ベクター略称Sam)プロモーターを用いてベクターを構築してアグロバクテリウム感染法により導入を行っており、これまでのT0個体育成状況はSam163:83個体、Sub163:40個体、Sam29:2個体、Sub29:87個体である。Sam163導入個体のうち数系統のT1種子を用いて低温発芽性検定を行ったところ、一部を除き原品種ササニシキより良好である結果が得られた。今後はT2ホモ個体を選抜・育成し、低温発芽性をはじめとした低温抵抗性検定を行う予定である。 4 いもち病抵抗性および直播適性関連遺伝子の単離 遺伝子導入によりイネに有用な形質を付与する上で、新規な有用遺伝子の単離が必要である。いもち病抵抗性あるいは直播適性に関与するような新規の遺伝子を大量に単離、同定することを目的として、新たな遺伝子発現解析技術であるSerial Analysis of Gene Expression(SAGE)法の導入・確立を行った。SAGE法は試料において転写されている遺伝子から15bpの断片(tag)を抽出し、大量にその配列を解析してtagの出現頻度を明らかにすることで、遺伝子発現量をデジタル化して示す方法である。この方法により、数千以上の遺伝子の発現を一挙に明らかにすることが可能であり、試料間の比較によりいもち病感染時あるいは冠水時などで特異的に発現する遺伝子群を大量に単離、同定することができる。 イネを材料とした本法の確立のため、ササニシキ播種後5日目のSeedlingを材料にしてSAGE法による解析を行った。8014個のtagを解析した結果、それらは4790種類のtag(すなわち遺伝子)から構成されることが判明した。発現量が上位のtagについて、既知の遺伝子との相同性検索を行った。その結果、最も発現の多いtagはmetallothionein遺伝子のものであり、全遺伝子発現の1.5%近くを占めており、その他の発現量の多いtagの中にも異なる遺伝子座のmetallothionein遺伝子のtagが複数含まれていた。それ以外には、貯蔵タンパク質やribosomal DNA遺伝子のtagの発現量が多かった。これは、イネを材料とした網羅的・定量的な遺伝子発現の解析としては世界で初の知見である。今後は実際に、いもち病感染時あるいは冠水時のイネにおいて特異的に発現している遺伝子の同定に利用する。 5 いもち病菌感染機構の解明 イネいもち病菌感染の初期過程において付着器のメラニン化は必須条件である。近年、イネいもち病菌感染課程におけるメラニン生合成経路に関する詳細が明らかとなった結果、メラニン生合成阻害剤が開発され、これは「非殺菌性のいもち病防除剤」として注目されている。また、メラニン合成系の他にも菌の感染に不可欠な要因は多数存在すると考えられる。そこでいもち病菌感染に関与する病原性遺伝子を同定することにより感染機構を解明し、新たないもち病防除法の確立を目指すこととした。本研究ではイネいもち病菌の病原性遺伝子欠損変異株を得るために、いもち病菌のプロトプラスト調製および再生系の確立ならびにREMI法による形質転換体の作出を行った。イネいもち病菌の菌体からプロトプラストを調製し、プラスミド*(pCB1004)を用いてREMI法による形質転換処理を行った。その結果、hygromycin耐性コロニーが出現したことから、プラスミドがランダムに挿入されたイネいもち病菌の形質転換体が得られたものと考えられる。今後はREMI法により作出された形質転換体から病原性欠損変異株を分離する予定である。 業績リスト 1.学会発表 (1)李陶、青木俊夫、亀谷七七子、多田徹、中村郁郎 いもち菌感染により誘導される遺伝子の解析:日本育種学会第93回講演会 (2)寺内良平 DNA polymorphism at Pgi locus of Dioscorea tokoro. 国際集団遺伝学シンポジウム (3)多田徹、神崎洋之、中村郁郎、 日本型イネに由来するいもち病真性抵抗性遺伝子に連鎖するAFLPマーカー*の探索: 日本育種学会第94回講演会 (4)松村英生、高野哲夫、武田元吉、内宮博文 イネのアルコール脱水素酵素(ADH)欠失突然変異体におけるAdh遺伝子の発現解析:日本育種学会第94回講演会 2. 講演 (1)寺内良平 ヤマノイモの遺伝子資源と改良 1998年筑波アジア農業教育セミナー 3.特許出願 (1)中村郁郎 イネのOSDIM遺伝子(特願平 10-108037) |