ラウンドアップ・レデイー大豆が超雑草を生む
カンサス・シテイー・スター
2,001年8月29日
スコット・カノン
訳 河田昌東
ミズーリ州コロンビア発
水アサ(water hemp)にはがっかりだ。まるで雑草のように、こんなにはびこって・・・。幅広だが巨大ではない葉っぱ、緑色から薄紅色の茎、でも決して目立たない草。
アカザ科のこのやせこけた草が、アグリ・ジャイアントのモンサントが作物に埋め込んだ除草剤耐性の力を、実験室の遺伝子操作から数年で台無しにしたのだろうか? このAmaranthus tuberculatusがそのいやな超雑草、なんだろうか?
「まさにこれが(除草剤に)非感受性なんだよ」というのはミズーリ・コロンビア大学の雑草科学者レイド・スメーダである。彼は、ミズーリ州北東部やイリノイ州中西部で見つかった水アサのある株が、ポピュラーな除草剤グリフォサートで退治できないのかどうかを研究している。
雑草は何時でも除草剤に打ち勝つ。しかし、モンサントのラウンドアップとして知られているグリフォサートは、事実上何時でも緑の植物を殺してきた。だから、遺伝子を上手く作物に組み込んでこの雑草キラーを王者にしたのだ。この組換え作物の種子を使えば農民はグリフォサートを散布し、作物を無傷で育てながらすべての雑草をやっつけることが期待できた。 事実農民はこの単純さを好んできた。こうしたラウンドアップ耐性作物品種は、アメリカの大豆畑の5分の4にまで広がっている。ラウンドアップ耐性はコーンやナタネ、綿などでも同様に使われた。モンサントはもうじきこの除草剤耐性を砂糖大根、米、麦、レタスなどにも応用する。すでにこの技術は国の食物チェーンに固く結びついている。
水アサはこうしたすべてを破滅させるかもしれない。事実、この水アサは除草剤耐性作物を沢山利用すれば、きっと除草剤耐性雑草を生じさせ、超雑草をはびこらせるだろうという環境保護論者達の予言を満足させるだろう。「何世代も除草剤に沢山暴露させれば、どんな植物だって除草剤耐性になる」というのは反バイテク環境保護者の長老科学者レベッカ・ゴールドバーグである。
モンサントは気にしていない。同社の専門家デビッド・ヒーリングはラウンドアップ耐性作物の継続的な利用で超雑草の発生が避けられない、という説には同意しない。「私は除草剤耐性の雑草が出るという人には誰にでも反論する」と彼は言った。
これまで、水アサはラウンドアップ耐性になるかも知れない、というだけだった。
コーンベルト地帯の住民にとっては、水アサはミズーリの大豆畑で最も当たり前の雑草であり、同州のコーン畑でも最も目立つ雑草になりかけている。
その遺伝学的背景はとても広い。「それは植物の国連みたいなものさ」とスメーダはいう。これが増えるということは農民が散布する薬剤に抵抗性をもつ株が現れるチャンスを増やすのだ。
1999年にミズーリ州モンチセロ近くの一人の農民と、イリノイ州サッターの別の農民が、低濃度グリフォサートでは死なない水アサにショックをうけて報告した。どちらも毎シーズンにグリフォサートを撒いたラウンドアップ耐性大豆畑だった。はじめ、スメーダはその報告に懐疑的だったが、ミズーリ・コロンビア大学の温室と野外試験で除草剤をかける実験をするためにそのサンプルを採った。どちらの場所の水アサも、グリフォサートをかけると他の雑草より高濃度で散布しても生き残った。グリフォサートはラウンドアップ、タッチダウン、グリフォミックス、グリフォスなどと言う名前で売られている。「この条件下では普通ならほとんど100%殺すはずなんだ」とスメーダは言った。
温室では、水アサの4−5%はグリフォサート濃度にほとんど無関係に生き残った。しかし、彼は困惑した。何故なら科学者が親の頑丈な性質を受け継ぐと期待した、この水アサの子孫の生存率も同様に5%だったからだ。
スメーダは農家が色々な除草剤を組み合わせて使う必要があると考えている。このことはラウンドアップ・レデイー作物以外のものを作付けすることを意味する。「ラウンドアップ技術はすばらしい、それを失いたくはないのだが」とスメーダは言った。
デラウエアでは、雑草科学者のマーク・ヴァンゲッセルが通称、雌馬の尻尾と呼ばれ、科学的にはConyza
canadensisに分類されるヒメムカシヨモギがグリフォサート耐性になったようだと感じている。彼が1999年に州内で始めて耐性の報告を受けとったとき、そんなはずはない、と思ったとヴァンゲッセルは認めている。驚いたことに、グリフォサートを増やしていっても、「この雑草の成長を遅らせることは出来るが殺すことは出来なかった」。「農家はラウンドアップを25年間も使ってきたが、これまで耐性は出なかった」とヴァンゲッセルは言う。しかし、5年前にラウンドアップ・レデイー作物が導入される前の10年間は状況が違っていた。 グリフォサートは雑草の種類や栽培時期に合わせて他の除草剤とローテーションを組んで使われていた。しかし、新しく遺伝子組換えされたラウンドアップ耐性大豆が出てくると、グリフォサート以外の除草剤を使う理由がなくなったのだ。
農学者のいうには、問題は除草剤に弱いものを殺し続けると、土壌中の栄養素や水、光などに対する競争が少なくなり、ラウンドアップの雨にされされるランダムな突然変異の競争もなくなる。「これは、雑草管理に毎年毎年グリフォサートに頼ることへの警鐘だ」とヴァンゲッセルは言った。
モンサントはそうした報告を疑いの目でみている。同社のグリフォサートの特許は2000年9月20日で切れたが、この除草剤を販売し続けているし、ラウンドアップ・レデイー種子の特許は維持している。ラウンドアップは他の除草剤よりも環境にやさしい。例えばアトラジンなどは一度散布されるとその後何年間も土壌や水に汚染をもたらす。グリフォサートの使用はそれに対して数日で消えてしまう。
モンサントの専門家ヒーリングは、マレーシアのヤエムグラ科の雑草とオーストラリアのライグラス(ホソムギ)がグリフォサートに耐性を持つことは認めている。しかし、それはラウンドアップ耐性作物の利用とは無関係だ。両方とも遺伝子組換え種子は使っていないしグリフォサートは他の除草剤と同様に使われている。 彼によれば、同社は現地でもラウンドアップを他の除草剤と混ぜて使うように指導している。雌馬の尻尾と水アサについては、ヒーリングは認めたがらない。同社は水アサがラウンドアップに耐性を示さない、というデータを読み、雌馬の尻尾はいくつかの実験を待っている。
雑草専門家らの一致した意見は、もし水アサがラウンドアップに耐性を示さなくても、いずれ他のアメリカの雑草が耐性を持つようになるだろう、という。ヴァンゲッセルや他の専門家は雌馬の尻尾がすでに耐性を獲得している、と強く主張している。だから、農家は毎年除草剤を変えるか、超雑草で被害を受けるリスクを負うかどちらか決めるよう迫られている。「ラウンドアップ・システムの単純性はそんなに長く続かない」と除草剤耐性と世界の穀物誌の共著者のデール・シャナーは言う。「最も単純なシステムは長続きしない。自然はそこから抜けだす方法を持っている」
もし、ラウンドアップで超雑草発生が避けられないとしたら、今が瀬戸際だ、と他の専門家も認める。 「大量のラウンドアップが使われているのだから、もし雑草が容易に耐性を獲得出来るとすれば、もっと頻繁に見ても良いはずなのだが」というのはノースダコタ州立大学の雑草科学者マイケル・クリストファースである。