地球規模の食糧戦争

      

JOHN H. BARTON(スタンフォード大学法学部教授)

PETER BERGER(プレストン・ゲート・アンド・エリス事務所、技術と知的所有権部門研究員)

訳 河田昌東

 

農業分野における特許

農業バイオテクノロジーに特許を付与する強大な力は、その利益を受ける多くの発展途上国の人々を傷つけるであろう。 毎年ビタミンA不足で100万人以上の子ども達が死んでいる。途上国に暮らすこれらの子ども達の多くにとって米は主食である。この問題を解決するために、科学者達はビタミンAの重要な原料であるベータ・カロチンを多く含む米の品種を遺伝子組換えで作り出した。黄色い色からゴールデン・ライスと呼ばれるこの遺伝子組換えの米は、途上国の数百万人の命を救い、途上国の栄養状態を改善する。しかし、慎重に行われた研究結果によれば、ゴールデンライスの生産を望む者は、誰もが30以上の研究グループがそれぞれ別個に取っている特許に対して特許料を払わなければならない。これは農業への長期的取組を躊躇させるものである。

地球の人口は次の半世紀には50%増えると予想されている。現在の農業システムだけでは世界の食糧をまかなえないだろう。我々は環境に重大な影響を与えないで次の緑の革命を行う必要がある。最近の消費者の懐疑的な態度にも関わらず、ゴールデンライスのような遺伝子組換え作物はそうした革命への唯一の道である。多くの科学者が遺伝子組換え種子はより生産性が高く、病虫害やストレスに強く、栄養価を改善した安全な作物を提供するといっている。研究プロジェクトは、ゴールデンライスにとどまらず、ウイルスや虫害にも強い作物を提供している。乾燥や塩害に強い作物も可能である。

しかし、一般公衆の受け入れ問題以前に、遺伝子組換え種子やそれらを作り出した技術、植物自体の遺伝子の配列など特許の壁がある。技術開発を支援するために作られた特許システムは、こうした実用化にブレーキをかけるかもしれない。

最初の緑の革命は、ロックフェラー財団の支援を受けて、1940年代に始まった国際的な公的研究機構で開発された。それには16の研究センターとフィリッピンの国際ライス研究所、メキシコのコーン・小麦研究センターも含まれていた。これらのセンターは財団や各国政府、国連機関、世界銀行などからなる国際農業研究協議機関を通じて協力した。このセンターは長い間研究を指導し、あるときは独自に、またあるときは途上国各国の農業研究システムと協力して新しい作物品種を開発してきた。このセンターは知的財産権のない世界で誕生し、開発された種子や生育マニュアルは誰でも自由に使い、無償で世界中の発展途上国に行き渡らせた。このシステムは、南アジアと南東アジアで80%以上米の収量を増やし、アメリカの小麦の5分の1、米の3分の2の品種の親になった品種を作り出した。

   これらの研究機関は現在、次第に広がりつつある知的財産権の所有という問題に直面しつつある。単純に研究を遂行しようにも、関連する特許を犯すリスクを考えなければならない。これは特許システムが私的研究を応援してきた反面、新しい技術の実用化に非常に複雑で重大な問題を抱えている状況を示している。問題は特許の法的な側面にとどまらない。健全な農業にとって大切で、何十年もCGIARや途上国の研究機関とも密接に協力してきたアメリカの州立大学(land grant university)のような先進国の大学は、それ自身が今、知的財産権取得を追求している。その結果、彼らの研究テーマは発展途上国のニーズから離れていくかも知れない。その上、特許の侵害を恐れて、この国際研究機関は、途上国では特許が取られていないにも関わらず、先進国の企業が特許をもつ技術を使いたがらなくなるだろう。

 

特許は如何にして出現したか

 1980年までは、作物に関する唯一の知的財産権保護は植物の育種の権利(PBRs)という、多くの途上国でも行き渡っていた比較的弱い形の法的保護だけであった。ある国の農林省がPBRの証書を種子の所有者に発給すれば、その種子と所有者が開発した固有の種子の品種の栽培資材の販売競争を防ぐことが出来た。しかしながら、PBRは競争者が保護された品種をもとに独自の栽培計画で新たな品種を開発するのは容認していた。

 しかし、1980年にアメリカが植物や種子のような生き物と遺伝子やその他の生物学的成分、検査資材などに通常の特許を与えはじめた。これらはいずれもPBRよりも遥かに規制が厳しかった。こうした知的財産権の拡張は新しいバイオテクノロジー企業の創生を助けた。アメリカ以外の国々も同様なルールを採用しつつあるが、それは自国の企業を守ったり、貿易関連の同意(TRIPS)の必要上のためである。ウルグアイラウンド貿易交渉の一部として1994年に発効した同意のもとで、すべての国は発展途上国も含めて、自ら植物の品種を保護する知的財産権体制に参加することになった。この合意が実施されると、ほとんどの国の企業は特定の種子や品種に対する専有権を持つことが可能になり、他者がそれを売ることを排除できる。

他の先進国と発展途上国もアメリカのリードに続き、様々な遺伝子や植物、種子、生物学的な手法などに正規の特許を与え始めている。厳密な知的財産権に各国の研究機関が殺到したもう1つのファクターは、特許をとり政府予算で開発された発明を商業化する権利を大学に与えた1980年のベイ・ドール(Bayh-Dole)議定書である。この法律は、そうした知的財産権がなければ、重要な開発に活気がなくなる、という議論で支持された。多くの大学の特許と沢山の成功した製品が生まれたにもかかわらず、これは法律上の対立をもたらし、大学同士が非常に基礎的な研究上の発明を特許侵害の理由でお互いに利用を拒む結果をもたらした。最近のNIH(国立保健研究所)の調査によれば、基礎的な研究手法や薬品に対する優先権のために科学情報の流れの遅れが深刻で,結果的に科学の進歩が妨げられている。にもかかわらず、多くの国が同様の法律を取り入れるに従い、特許権の追求はヨーロッパや日本、途上国の大学や研究機関にも広がっている。これらの研究機関は特許料は政府の財政支援が縮小しつつある中で収入源になると期待している。しかしながら、こうしてもたらされた特許はまた途上国世界の食糧ニーズに対するバイオテクノロジーの応用を遅らせ、複雑にするだろう。

 

こうした流れは特許に問題を作り出している

1の問題は、基本的な農業分野の研究における特許の数が対数的に増加しつつあることである。例えば、アメリカの米関連の特許は、1995年は年間100以下であった。ところが、1999年と2000年には年間600以上が認可された。西側で大きな商業的関心のあるトウモロコシのような作物ではもっと多くの特許があるだろう。基礎的農業分野での特許の急速な拡大の証拠はまだある。それはNature誌に掲載された最近の調査結果で、植物DNAの特許の3分の2は企業が取得したものであり、約半分は14の多国籍企業が占めている。1985年以前にはそうした特許は事実上なかったのである。今では、単に研究をするだけで非営利の農業団体は特許侵害のリスクを考慮しなければならない。

アメリカ合衆国は農業分野の特許を最も広範囲に認めている。植物体そのもの、例えば除草剤耐性ライスのようなものにも特許が発給されている。そのような品種は、単にPBR(植物の育種の権利)が適用されているような国々の大部分では恐らく特許が認められないだろう。ある植物品種に関してアメリカの特許を認めるかどうかという問題は、2000年初期にパイオニア・v.J.E.M.Agric.Supplyのケースが控訴裁判所に持ち込まれた。最高裁判所で現在審理中である。この裁判における主張は、特許を植物の子孫とその種子にまで拡張したいという典型的なものである。原告側は、他の育種家が特許で保護されている自社の種子と栽培資材を使ってはならないという明快な主張で、途上国での応用を目指す研究をアメリカ国内に限定するものである。

その他、事実上すべての遺伝子組換え綿と大豆を対象にすることを目指した合衆国のAgracetus特許のような、植物品種のグループ全体に対する非常に広範な特許がアメリカとヨーロッパで存在する。この特許は、もし発効すれば、Agracetusを獲得したモンサント社にこれらの作物のすべての遺伝子組換え品種を支配する権利を与えることになる。

しかしながら、植物の育種家にとって最も重要なことは、農業の遺伝子技術で使われる特定の技術的手法に関する特許である。例えばハイブリッド米を作り出す技術は、大部分中国で開発された。ハイブリッド種子は中国の米の大半を占めている。中国国営種子会社の初期の特許はもはや効力を持たないが、同企業は合衆国でそのテクノロジーのある分野で特許を取得した。その特許は多くの新作物品種の開発に有用な研究手段を育種家が使うことを禁止している。この特許はハイブリッド種子を作る他の方法でも効力を持つ。

植物に遺伝子を挿入するのに最も普通に使われている手段のひとつである遺伝子ガン(パーテイクルガン方)についてもアメリカの特許によって研究に更なる制限が加えられるかもしれない。これはコーネル大学に与えられた特許だが、同大学はその利用権をジュポン社に与えたからである。同様に、モンサント社は植物遺伝子の発現を促進するためにしばしば導入されるDNAの一部である35Sプロモーターの特許をもっている。もし、育種家がそうした手法を利用できなかったり、利用するために特許料を払わなければならなかったら、彼らが優れた種子を作り出すには大きな困難と多大な費用がかかることになる。

 

遺伝子とDNAに対する特許

 今では遺伝子それ自体が特許の対象になっていて、典型的には単離した遺伝子や、その遺伝子を含む様々な組換えDNA、それで形質転換した植物、種子、その植物の子孫などが対象である。自然にある遺伝子を含む植物は何も新しいことは無いので特許の対象にはならない。しかし、その遺伝子を使って何かをしたり、それを使って作ったもの、人工的な遺伝子構成物、種子、その子孫などは無断利用が禁止される。その一例に、穀物に耐病性を与えるXa21キナーゼという酵素の遺伝子に対するカリフォルニア大学の特許をあげることが出来る。遺伝子の同定に国際イネ研究機構(IRRI)での仕事は重要だったので、大学はその遺伝子を使うIRRIの権利を保護するように仕組んだ。しかし、その他いくつかの遺伝子の権利は、それらが利用できるというコメントなしに個人の手にゆだねられた。これは、植物に抵抗性を与えるウイルスの外皮蛋白質をコードする遺伝子を植物に挿入する特許のケースである。

 また、同じ事はバチルス・シュリンギエンシス(Bt)テクノロジーの特許の多くにも当てはまる。この技術では昆虫を殺す毒性蛋白質を作るバクテリアの遺伝子が植物に挿入される。Btの特許がルーズだったために、数百ものしばしば重複する特許が生じ、沢山の訴訟の種になってきた。例えば、少なくとも四つの企業がBtコーンに関する特許を主張し争っている。研究者がこれらの特許権をかいくぐって抜け道を見つけ出し、新たな研究をやろうとしてもそれはほとんど不可能である。遺伝情報は商業上の秘密を名目に保護されている。このシステム下では、遺伝子に関する大量のデータベースや遺伝子地図を作り出す企業が、合意の上でのみその情報にアクセスするのを許可し補償の対象にするかもしれない。

このモデルは重要な国際的非営利協力のモデルの基礎でもある。例えば、コメは世界の貧困にとって非常に重要であり、かつそのゲノムが他の穀類と比べて小さいので、ゲノム配列解明の努力が日本,韓国、中国、アメリカ、EU、ロックフェラー財団など、国際コメゲノム配列ワーキンググループを通じて行われている。その情報は公共のデータベースに登録され、参加者はその配列に特許を取らないことで合意している。モンサント社は自社の配列を開発し、そのコメ・ゲノム配列情報を開発途上国で公の育種に利用できるよう合意した。シンジェンタ社とミラッド・ジェネテックス社は、この1月にコメのゲノム配列解読を完了し、その情報とテクノロジーを発展途上国の補助金農業に提供すると約束したが、その遺伝子配列は公の場には出されなかった。その上、多くの重要なコメの遺伝子には特許が取られた可能性があり、他のゲノムやコメの病原体のゲノムが利用できるかどうかは明らかでない。

 

こうした特許の流れは、 農業バイオテクノロジーの巨大な集積と平行して起こっている。 五つの大企業、アヴェンテイス社、ダウケミカル社、ジュポン社、モンサント社、そしてシンジェンタ社が今では農業特許の膨大な書類束を管理している。これらの企業は、小さなバイテク企業を買収し、その企業が開発したテクノロジーを手に入れ、化学や薬学企業を吸収合併してその生産能力や市場に参入し、世界中の種子企業を買収して新たな製品への対応能力を拡大してきた。その過程で、彼らは広範な知的所有権の束を手に入れた。産業の集積が進むにつれて農業研究の量は縮小しつつある。その減少は、一部はバイオ食品への環境問題や消費者からの批判によるかもしれないが、企業の合併による開発努力の減少に由来するだろう。過去数年間にこれら巨大企業のいくつかが実際に途上国市場に関心を持ち始めている。その関心の最も強いのは大豆と主要な穀物(トウモロコシ、小麦、コメ)であり、途上国市場には巨大な輸入潜在力があるが、最近までコメの種子は基本的に非商業製品と考えられ、公的な機関から無償あるいは非商業ベースの低価格で提供されてきたが、そのコメにも巨大企業の関心は拡大されてきた。緑の革命ではIR−16やIR‐64といった優良品種が国際コメ研究機構(IRRI)の資金提供のもとに開発された。参加研究機関は自由に新品種や新しい育種資材を主な東アジアの国々の国立研究センターに移動してきた。そして、その国立研究機関は、その国の生育条件に適した品種を開発し、生産システムを農家に提供した。こうした公的な品種がアジアでは優勢である。しかし今は企業がこれに参入しつつある。 現在ジュポン社に買収されたパイオニア社はインドにおける研究プログラムを確立した。Mahycoのような個人のコメ育種家もそこには出現した。モンサント社はインドの科学研究所と共同研究を行った。日本タバコ産業は、コメの種子に興味を示した。そして、カーギル社の途上国部門はすでにモンサント社にとられる前に雑種米の育種計画を開始した。世界中の特許の検索の結果、これらの農業メジャーが、中国とブラジルを含む巨大な発展途上国の世界で、彼らの知的財産権を保護しようとし始めていることが分った。これらの国々がアメリカで利用可能な法的保護のペナルテイーを充分にかけなくても、重要な研究手法や研究手段、遺伝子などについて、少なくともそれらの国々のいくつかでは特許の対象になりそうである。

 発展途上国にコメの種子を提供しようという企業の関心は、そこで相当な市場の成長があることの反映である。アジアの主要な二つのマーケットで生産されているコメのトータルな価値は、多くの企業調査を誘発したアメリカのトウモロコシの価値を容易に上回るものである。このことは直ちにコメの種子市場の大きさを意味するものではない。何故なら収穫されたコメは一般的に種子として使われるからである。企業の開発は何らかの形の特許、例えば知的所有権やコメを不稔にする「ターミネーター・テクノロジー」で保護される雑種や植物など、に左右されるだろう。それを実現するのは困難が伴うかもしれないが、アジアのコメの潜在力は企業がやってみたいと思うには十分巨大である。5つの巨大多国籍企業が今、農業特許の大多数を支配している。こうした企業はまた農薬販売にも熱心である。除草剤耐性に必要な遺伝子を国産の作物に導入することで、企業は除草剤でも巨大な市場を作り出すことが出来る。中国はすでに除草剤について応用可能な知的所有権を持っている。インドは独占的な販売権を設定し、その法律によれば2005年までにフル特許を得る必要がある。多国籍企業がアジアのコメ種子のような市場に参入するとき、恐らく現在利用できる種子よりも良質の種子を持参するだろう。それは良いことだ。多くの科学者は除草剤耐性植物が他の除草方法よりも環境に良いと言っている。しかし、企業の種子は多分大きな市場のためだけに開発されるだろう。 つまり、市場性の小さな零細農家のために品種改良をするまでには長い時間を要するだろう。

 より重要なことは、少数の企業による特許権によって、多国籍企業が遺伝子組換え種子を独占し、競争者を排除し、公的なセクターさえも排除するという非常に深刻な可能性が存在することである。したがって、種子の価格も現在より高くなるだろう。結局、公的セクターが特許技術にアクセスし、あるいは少数の作物や零細農家のための新しい技術開発のために、特許で保護された品種を使おうとすることは不可能になったり、少なくとも非常に高価で困難になるかもしれない。

 

我々は如何に対応出来るか

過度に制限的な知的所有権の危険に対して3つの対応が考えられる。各国がその国の特許に関する法律を変え得ること。公的および私的セクターが協議し、新しいバイテク技術を利用可能にするためのグローバルな特許システムを作ること。そして公的研究機関がケース・バイ・ケースで技術に関する特許を取ること、である。

 

特許法改正

 発展途上国は一般に1994年のTRIPS合意に応じている。ここでは全ての国々が出来るだけ緩い保護基準を採用すること、典型的にはPBRだけに依拠して作物の保護にコミットしているのである。これは(現存の)特定の品種は保護するが、新しい遺伝子導入のようなバイテクの進歩や新しい形質転換手法の開発を進めるわけではない。従って、多国籍企業だけでなく国内企業でさえ、自国政府にもっと強力な知的所有権保護を採用するよう圧力をかけようとする。しかしながら、発展途上国はそうした法的変更によって自国の農家や育種家、種子会社、研究グループなどへの特許による制限が増加することを恐れ、後ろ向きになったり、あるいは多国籍企業に多大な便宜を図りさえする。途上国各国はこのジレンマを自国の特許システムの微調整で解決できるかも知れない。例えば、「明確な」発明でなければ特許申請が出来ない、という強力な基準をつくれば特許数の増加率は低下するだろう。アメリカで申請中の多くの特許は、法律家が判断する特許法上の「非明確性」要求に適合し特許が与えられないかもしれないが、それは多くの科学者や技術者にとっては「明確なこと」である。規制を強化すれば現実に「非明確」で重要な技術開発には影響を与えないだろうが、巨大企業が数多いマイナーな発明の特許で他を縛ってしまうリスクを減らすことは出来よう。さらに、ある企業が科学の分野で広範に他をブロックできるリスクを減らすには、特許の認可範囲を狭くすることでも対応出来る。ある発明が極めて有用だということの証明を、抽象的な概念でなく、(具体的で)強い要求にすれば、特許で広範囲の研究が先取りされるのを防ぐことが出来る。そうすれば特許が取得されている発明の実験的な利用、特に育種過程における特許資材の利用を認める条項が成立可能であろう。あるいは、後発の開発者が妥当な特許料を払えば、先発の開発者の特許を利用できるような独立ライセンス・システムもありうる。こうした問題はアメリカ以外にも開発途上国を含む多くの国々で適用される。世界知的財産保護機関とか世界銀行のような組織がスポンサーとなって、そうした特許法の変更が研究開発の必要性と研究者、特に貧しい人々のために仕事をしている研究者らが先行の研究者らの仕事を土台にして仕事をせざるを得ない、という事実とうまくバランスするかどうか慎重に研究し、議論しなければならない。

もう1つの道は、各国が独自の公平な競争ルールを開発し利用することで種子提供分野における独占にたいして強力な防護を維持することである。個々の開発国の管理を超えた、企業による部分的独占は地球規模で現在起こりつつあるが、それらの国々はまだローカルな企業の支配を封じ、独占の動きに対応して強制的な許認可権を行使できるかもしれない。こうしたアプローチに対する主な壁は、関連する政策形成が技術的に難しく、いくつかの国では必要な政策を決定し、施行するためのスタッフや材料がないことである。特許庁や他の官庁の間の教育および専門性取得プログラムによる助けが必要である。その特許が植物にどのような影響を与えるかに関して育種家自身にも意見を聴取しなければならない。

 

グローバル・ライセンス

2の取り得るアプローチは、発展途上国の各諸機関にたいし、企業セクターによる全て又は多くのテクノロジーに関する許認可権限を与えることである。新たな組織または許認可機関を設立し、必要な認可の法的権限を与えて開発途上世界のニーズに見合った認可を与えるようにする。デジタル・ビデオ・デスク(DVD)関連の特許を持つエレクトロニクス企業共同体はすでにそうした対策を発展途上国内で取っており、同様のことはアメリカ作曲家協会、作家協会、出版協会なども音楽やレコード作品に対する統合著作権にたいしてそうした経済メカニズム提供している。恐らく、発展途上国許認可権限は最貧国や中規模所得国家の零細農家にだけ与えられるであろう。市場がこのように分割されない限り多国籍企業が従順に従うことはないであろうことに注意する必要がある。何故ならこの許認可権は発展途上世界で彼らにとって最も利益の上がる市場を脅かすことになるだろうからである。この市場分割は数年前まで考えられていたほど容易ではない。何故ならブラジルやメキシコのような国は次第に商業的に重要なマーケットと多くの零細農家を抱えるようになっているからである。しかし、このアプローチはキャッサバのように商業的関心を引かず、市場も気候や土壌条件で分割されるような条件のあるところでしか可能でないだろう。

真の問題は、企業セクターがこうしたキャッサバのような品目以外でも同様の許認可権を他に与えようとするかどうかである。結局、これら企業の多くは財政的に不利益をこうむり、彼らがこれまでやってきた農業分野における研究開発の投資を回収できるかどうかを懸念している。これまで広範な特許システムで支えられてきた開発モーチベーションはここには存在しないからである。例えば、製薬企業は最近SNP(スニップ:単一ヌクレオチド多型)共同体を作り、大量の遺伝子塩基配列をいつでも誰でも研究用に使えるように公開ドメインに配置した。したがってこれら企業は各種のSNPを同定するための研究手段を共有し、それを自由に利用出来るようにするための法的な手続きをとったのである。こうしたクロス・ライセンスの動きも特許情報収集の促進意欲もまだ農業バイテク分野には存在しない。特許収集は現在,種子販売開発会社の横断的統合や再編を通じて前より容易になっている。今日、グローバル特許のもっとも大きなモーチベーションは巨大種子企業が自由な活動を手に入れるために独自にクロス・ライセンスが必要だと決断することかも知れない。いくつかの半導体企業はこの種のクロス・ライセンスに同意したが、彼らはめいめい他の企業が取得した多くの特許を侵害していたのだった。もし、同様な特許の相互侵害をしている巨大農業バイテク企業群がそうしたクロス・ライセンスを形成したら、それに参加しない他の企業や、恐らく国際的な公的セクターに対するアンチトラスト法の検討対象になりかねない。特許に対する公的な資金援助も可能である。多くの資金提供者や研究支援機関が、開発途上国のための技術の特許取得に対し、資金の受け手を誰にするかで彼らの資金を調整出来るかもしれない。その上、現在の環境問題や農業バイオテクノロジーに関する消費者の懸念に直面して、主要な企業は彼らの企業イメージ悪化を心配し、積極的に公的関係を作り上げるために開発途上国での特許を推進しようとしている。

 

公的セクターの研究の権利

すでに述べたように、公的農業研究機関は永年にわたって開発途上の国々に多大な利益を与えてきたし、最近まで知的所有権システムで生ずる問題なしに(それらの国々での)バイテク研究遂行を可能にしてきた。生命科学は今やそれほど単純ではなくなったので、公的セクターは開発途上国内で企業セクターと共存するための新たな方策を見出さなければならない。この文脈でいえば公的セクターは目指す目標を再考しなければならない。1つの選択肢は、研究対象を作物の種子からもっと上流の問題に移行し、より環境上持続可能な農業技術の開発に集中することである。それによって企業セクターと協力できるだろう。もう1つのアプローチはテーマをキャッサバのような持続可能な作物や陸稲のような商品作物品種に集中させ、基本的に農家の生存にアッピールすることである。

しかしながら、コメやトウモロコシのような基礎作物については、企業セクターが開発した最新の種子のように利益が得られないとしても、高品質の公的セクターの種子を利用できる状態を維持することが大切である。これらの種子は企業セクターの種子の価格を低く押さえる競争相手として機能し、それによって貧困農家が高級な多国籍企業の技術を妥当な価格で利用できるようにするのである。 公的セクターと企業セクターは農業バイオテクノロジーが発展途上国でも利用できるようにグローバルな特許システムについて協議しなければならない。幸い、この問題に関してはいつも摩擦があるわけではない。最も重要な特許の多くはこれまで発展途上国だけで登録され、途上国内での研究開発や国内農業に直接影響を与えにくい状況にある。多くの発展途上国はすでに特許を取った開発に対して、ある種の研究形態ではそれを自由に利用できるように特許法に免税措置を講じており、それによって公的セクターの研究が特許侵害にならないようにしている。また、企業セクターにとって最も重要なターミネーター特許や特定の交配系統に関する特許の多くは、基本的に公的セクターとは無関係である。さらに、多国籍企業は貧困国における公的関係によって仕事が制限されることによるコストを懸念するであろう。公的セクターが企業セクターの特許技術を必要とするとき、現在最良のアプローチは、例えばIRRIやCIMMYTが栽培している公的セクターの品種に、企業が持っている耐病性のBt遺伝子を導入するように企業との協力プログラムを通じて行うことである。企業セクターは新しい遺伝子とそれに付随する技術を提供する。公的セクターは(現地にとって)重要な品種とその品種にアクセスために大切な栽培条件、病原体、農業条件などの情報を提供する。

今日、こうした協力には二つの形態がある。まず最初にIRRIやCYMMYTのような典型的公的研究機関は特定の企業から特殊な技術を取得する。企業は公的関係構築がそのモーチベーションになり、直接のメリット小さい。しかし、企業はグローバルな資金提供者がこの目的で立ち上げた資金を通じて利益を得られる。先進国は自国の企業に対してこうした形態の間接的な補助金を特別に与えようとする。こうした合意のもとでは、協力の成果は開発途上国に対し無特許での利用を認め、あるいは適切でかつ先進国マーケットを排除できる特許料を設定し、あるいは企業の商業目的を保護する条件に限って先進国市場で利用できるようにする。

2の合意形態は、国際的な研究機関が企業も関心をもつ研究を開始することである。このケースでは企業は研究機関の研究を資金的に援助し、あるいは研究結果に商業的な優先権が与えられるならプロジェクトの開発を助けようとするだろう。明らかに、公的セクターの研究機関は、その設立趣旨上もそうした排他的な性格の物を開発途上国の貧困層に適用することは出来ない。しかし、それは先進国でなら適用可能である。そこでやはり、市場間の差別化が起こるに違いない。良い例がドイツの企業グリーノベーションを介して組織化された合意である。そこではスイスの公的研究機関が開発したゴールデンライスの特許が、必要な特許権と先進国および途上国マーケットの開発を統合するために(現在シンジェンタ社に買収された)ゼネカ社に権利譲渡され、途上国市場が優先的な扱いを受けることになった。こうした協力関係によって公的セクターが企業パートナーの特許権から利益を受けることが可能になる。合意を実行し、そのための強力な交渉の立場を築くために、公的研究機関はゴールデンライスの場合と同様自力で特許を取得することが必要である。これは明らかに適切な対応である。公的研究機関が特許を構築し、無意識に特定の特許を侵害するかもしれない独自の技術を使用する自由を得るための交渉手段として使うのは良いことである。交渉の切り札にするために最も有用な特許は、多国籍企業が欲しがり、特許権を最も有効に行使できる場所が発展途上国であるような特許である。公的セクターがそうした特許を沢山取得するのは困難であろうが、数は少なくとも重要な特許があればその立場を強化することは出来る。短期的にはこのステップ・バイ・ステップの、個々の研究機関による個別の合意形成が重要である。企業セクターは先進的農業バイオテクノロジーを発展途上国に適用可能にする、広義のあるいは個別の合意に達し、あるいは達することが出来ないかもしれないが、企業セクター自体が何がしかの技術を発展途上国に提供するだろう。

しかし、公的研究機関の研究については、発展途上国とそこの人間の食糧供給にとって非常に重要で、特許システムは極めて大きな複雑な問題を生じつつあり、必要な技術の発展を遅らせているかもしれない。アメリカ合衆国やその他の国々は、世界知的財産権機関や世界銀行のような機関とともに、本質的な重要な農業バイオテクノロジーのグローバルな適用を実際に推進するために、国内あるいは国際特許システムと研究、そして競争政策を如何にして整合させるか、共に描き出さなければならない。

 

推薦図書論文      

          K. Fischer et al., "Collaborations in Rice," Science 290 (October 13, 2000):279-280.

          N. Harl, "Possible Consequences of Concentration in Input Supply in           Agriculture," testimony presented to the Committee on Agriculture,

          Nutrition and Forestry, United States Senate, Washington, D.C., October 6, 1999.

          R. David Kryder et al., The Intellectual and Technical Property  Components of pro-Vitamin A Rice (GoldenRice™): A: Preliminary

          Freedom-To-Operate Review (ISAAA Brief No. 20, 2000).

          S. Thomas et al., "Plant DNA Patents in the Hands of a Few," Nature   399 (June 3, 1999): 405­406.

          B. Wright, IPR and International Research Collaborations in    Agricultural Biotechnology, presented November 16, 1999, at the    meeting on Agricultural Biotechnology in Developing Countries: Toward

          Optimizing the Benefits for the Poor, November 15­16, 1999, Bonn,

          Germany.

 

(訳注:河田)

この論文の著者らは基本的に遺伝子組換え推進である。遺伝子組換えで作物収量を上げ、今後訪れるであろう飢餓への対策とする、という主張である。しかし、これまで特許競争で推進されてきた遺伝子組換え技術が、逆に巨大アグリビジネスによる寡占化で進歩が遅れ、技術を持たない発展途上国での遺伝子組換え普及の障害になる、と考えているのである。発展途上国の零細農家にも遺伝子組換え技術の恩恵を分け与えたい、という言わば親切心が基本にあり、ある意味では良心的立場から技術の恩恵の不平等を無くそうという意図からこの論文は書かれた。 特許に伴い国際的な知的所有権によって起こる問題を整理し、解決の糸口を探る目的で書かれたものである。しかし、そのことは、アメリカを中心とする先進国の遺伝子組換え企業が、如何にしてアジアやアフリカ、ラテンアメリカに無理なく進出できるか、という新たな戦略を構築することにも繋がっている。遺伝子組換えは単に技術的問題にとどまらず、科学の発展の阻害や今後の世界農業の未来まで左右することはこの論文を読めば明らかである。遺伝子組換え反対運動の人々ばかりでなく、モンサントなどアメリカの遺伝子企業の特許を利用している日本の企業や研究機関の人々にも是非一読して欲しいと考えて全訳した。

 

 

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