“業界の未来がかかるバイテクコーン” 組み換え食品の未来はアレルギー研究次第

 

Marc Kaufmann

ワシントン・ポスト 3月19日

全訳 山田勝巳

 

グレイス・ブースは、同僚達との昼食でチキン・エンチラーダを食べ終わると同時に、ほてりと痒みを覚えた。唇が腫れてきて激しい下痢が起き、間もなく呼吸障害が出た。同僚達は救急車を呼んだ。

ブース、35歳は職場のカリフォルニア青少年センターから近くの病院へ急送された。

明らかにアナフラキシー・ショック症状だった。医師は急いで抗アレルギー薬を注射し、ベナドリルを服用させてIVに置いた。処置は功を奏し5時間後に退院した。

数日後、ブースはスターリンクと呼ばれる遺伝子組み換えコーンが含まれているタコスの皮などのコーン製品が、全米規模で回収されていて、このコーンが人に危険なアレルギーを起こす可能性があるとして飼料としてのみ許可されているのを知った。

 ブースの食べたトルティーヤにはコーンが入っており、また他の食品はすべてアレルギーテストが陰性だったので、彼女はFDAに連絡を入れ、スターリンク・アレルギーかもしれないと伝えた。

ブースは昨年秋にスターリンク・コーンを食べてアレルギー反応が出たと思われる数十人の1人だ。この事件は現在FDAと連邦の疾病予防センター(Center  for Disease Control and Prevention)で調査されている。

調査結果はバイテク食品の未来を大きく変える可能性がある。疑いを持たずに食べた人が間違いなくこのコーンのアレルギーであると研究者達が判断すれば、既に問題を抱えている農業バイテクは更なるダメージを受けることになる。

遺伝子操作作物が環境を破壊し、人に健康被害をもたらすことが懸念されてきたにもかかわらず、それが実際に起こるという証拠がほとんどなかった。スターリンクに対するアレルギー反応は、操作食品によって健康被害が出る初めての記録例になるだろう。

企業の研究者は、スターリンクは重度はおろか軽度のアレルギーも起こすことはないから安全だし、食用(飼料としてだけでなく)として既に数年前に許可されるべきだった、という。

FDAの係官はアレルギー反応のテストを開発するのに何ヶ月も掛かったが、それが出来たと考えていると発表した。未だ全部の試験や再確認を終えていない。また、研究者はテストは最終的な回答にはならないと警告する。しかし、係官は、CDCが昨秋集めたブースのような人の血液サンプルが必要となるところまで来ているという。

「このようなテストが開発されたのは初めてで、これが全てだとはいわないが抗体の存在はアレルギー反応のある可能性を示すし、抗体がなければアレルギー問題がないことを再確認する方向に大きく進むことになる。」

 もし、Cry9Cの抗体が血液サンプルの中に見つかれば、皮膚接種試験、更にスターリンクの入った食品をアレルギー患者に食べてもらう「毒味」も行われる可能性がある。

ピーナッツにアレルギーのある人は避ける食べ物を知っているが、遺伝子操作したタンパク質は表示がないので避けることが出来ない。この問題が表面化したのは、1995年にブラジルナッツの遺伝子を入れた大豆がアレルギー反応を起こすことが分かったためで、大豆が市場に出る前に発見されたのでこの研究は中止された。

スターリンク・コーンは食品に入らないことになっていたのだが、これがシステムとして機能しなかったのは関係者全員が認めるところだ。

開発者のAventis は、今後のコーンについては販売許可を返却したが、既に穫れたものについては市場を混乱させないように(事実損害賠償を言う者がいて)許可を申請している。 Aventis社の研究報告では、加工食品中のスターリンクはアレルギー反応を起こすほど多くはないし、Cry9C蛋白はタコスなどの加工段階で破壊されるのでアレルギー反応は起こせないと出ている。

EPAの専門家パネルは、スターリンク蛋白がアレルギー反応を起こす可能性は「中位」だが、食品中のコーン含量が限られているので、人間が刺激感応力を持つ可能性は「低い」と数週間後に結論した。但し、EPAには、スターリンクに対するアレルギー反応のテストが開発され、報告書の評価が終わるまで、Aventisの要求を保留することを推奨した。 FDAにはこのような報告が48件出ており、CDCはこのうちの11月の諮問委員会前に来た35件に焦点を絞っている。スターリンクのCry9Cは熱に強く消化液中で安定であるためアレルギーを起こすことが疑われている。 蛋白質の分子量もアレルギー反応を起こすものと一致しているとパネルは言う。    

スターリンク問題では、Aventisその他を過失と食品用に許可されていない製品を作ったり売ったりして消費者を騙したとして、シカゴの集団訴訟を含む訴訟がいくつか出ている。

検眼士で原告の一人Keith  Fingerは、ブースのように重症のアレルギーを起こしたと報告している。彼は、9月、夕食にトルティーヤと豆とご飯を食べて、15分後にひどい腹痛と下痢を起こした。その直後に全身が痒くなり、舌が腫れてきて呼吸困難になった。アナフィラキシー・ショックの症状だ。

至急、抗アレルギー薬を注射するように医者を呼び、ベナドリルを飲んで次第に症状が収まった。手遅れになっていたら死んでいただろうと言う。数日後スターリンク・コーンのことを知り、トルティーヤにコーンが入っていたか確認しに戻った。入っていた。そしてFDAに届け出た。数週間前、彼は、Aventisの弁護士にアレルギー反応が出るかどうかスターリンクの入った食品を食べようかと持ちかけた。弁護士は初め興味を持ったものの断った。

「今のところは、僕のような人間がスターリンクにアレルギーがあるか知りたいだけなんだ。食べ物の中の訳の分からないもので、アレルギーが起こるなんて思うと恐ろしい。早いとこはっきりしないとね。」

と言っている。

 

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