モンサントの「潜水艦特許」

 

RAFIニュース 

4月27日

山田勝巳 訳

 

 モンサントとシンジェンタが主要な遺伝子マーカー技術を独占。 モンサントに2001年1月16日に与えられた新しい特許は、実験室で組み替え植物の細胞かどうかを識別するのに使われる重要な技術を完全に独占する権利を与える物で、組み替え技術者の意表をつくこの特許は、公的機関の研究を頓挫させる恐れがある。

 

US特許6,174,724号は抗生物質マーカーを使う組み変え技術の事実上全てをカバーしている。色々と議論のある技術ではあるが、事実上商業化されたGM作物のほとんど全てに使われている。この特許はアメリカでのみ有効である。

 

「この技術は広く使われており、研究者にとっては悪夢だ。 まるで電話番号を探すのに使うイエローページを突然モンサントが特許で押さえたようものだ。 今まで誰でも使えると思っていた技術が、これからはモンサントの専有物で、それに代わるものはシンジェンタのものしかない。」とRAFIの研究部長ホープ・サンドはいう。

「公的機関の研究者が、組み替え作物を自由に扱う能力にとどめを刺すようなものだ。」とロックフェラー財団の食品安全部長ゲーリー・トーニセンは話す。

 

モンサントの問題の特許「植物細胞での発現に適したキメラ遺伝子」は、非常に悪質な「潜水艦特許」だと特許専門家は話す。既に競争企業が広く使っている技術で、突然独占が言い渡され、特許料と使用料を要求できるし、さもなければ使うことを拒否できる。  

強大なモンサントが競争相手に魚雷を撃つのはこれが始めてではない。例えば、アグレボの除草剤耐性大豆計画が中頓挫したのは、モンサントのCaMV35Sプロモーター特許が出たためだと見られている。

 

モンサントが最初に抗生物質耐性マーカーを申請したのは1983年だった。世界中の研究者が極普通に使うようになっていくなかで、何回も延期され、最近表面化するまでは、秘密にされていた。  

スタンフォード大学法学部の知的所有権専門家のジョン・バートン教授は、極めて広い範囲を対象とする一連の最も基本的なバイオテク実用技術の特許であるから、「研究ツールが特許化したらどうして良いのかは大きな問題だ。」と言う。

 

 巻き起こる論争 

 何故、抗生物質耐性マーカーがこれほど広範に使われるのか。 何故問題なのか。

 遺伝子工学は、不正確な技術だ。抗生物質耐性マーカー、又は選択マーカーは、植物の細胞に新しい遺伝子がうまく組み込まれたかどうかを知る安価で簡単な方法として日常的に使われる。研究者は通常、対象となる遺伝子とともに抗生物質耐性遺伝子を使う。組み変えが上手くいったかどうかを見分けるために、全ての細胞を抗生物質に曝すと、抗生物質耐性を持つものだけが成長し続ける。マーカー遺伝子があれば、新しい遺伝子もあるというわけである。この技術は「負の選択(negative selection)」と呼ばれている。

抗生物質耐性マーカーを使うことには異論がある。 マーカー遺伝子が環境中に放出され、土や食品中に入ってくると抗生物質が効かなくなったり、病原性の微生物が抗生物質耐性を持つようになる。 

EUでは昨年GM作物に抗生物質耐性マーカーを使うことを禁止した。これは商業的GM作物から耐性マーカーを閉め出すことを目指したものだが依然として広範に使われている。

 

シンジェンタの代替技術―ポジテク特許

 2000年3月にシンジェンタは、植物細胞の形質転換と選択を、抗生物質耐性マーカー遺伝子を用いずに可能にする新たなマーカー遺伝子方式を発表した。 

この方式は、植物細胞に炭素源のマンノースを利用できる能力をつけるものである。マンノースを含む栄養源を代謝できる植物細胞だけが生き残るという「正の選択」技術である。

 RAFIの調べたところ、このシンジェンタの特許は、非常に広範囲で事実上正の選択技術のほとんどをカバーしている。(US特許5,767,378とWO9420627A1は、デンマークのDaniscoo(砂糖会社)の発明だったがこれがノバルティスの前身であるSandozに即売却され、シンジェンタのものとなっている。)  

シンジェンタは、ポジテクを「広く解放し」、産業や学術研究者が「簡単なライセンス契約」で使えるようにする、また「低開発国の貧しい農民には使用料なし」にすると言っているが、その中身は、「似ても似つかない」もので、公共機関の研究者は自分の研究成果に対し、シンジェンタが第一の権利を持ち、かつ第三者と共有することを禁じた「材料引き渡し契約(Material  Transfer Agreement, MTA)」を結ばなければならない。

このMTAライセンス契約は、公共部門の大部分の研究者を事実上シンジェンタが利用できるようにするものだ。モンサントも潜水艦特許でこれをやるのだろうか。  

シンジェンタも特にゴールデン・ライスが不発に終わったため他の巨大遺伝子企業同様、道徳的な正当性を得ようと躍起である。だから貧しい低開発国の農民に使用料を課さないというのだが、低開発国はこの特許を認めていないし、自国の特許でないものは自由に使えるものだ。モンサントとシンジェンタは、独占特許を使って今ある全ての実用マーカー選択技術を調べ上げた。その上、MTAは、科学技術の発展がもたらすうま味を吸い上げる強力な武器である。  

 

科学アパルトヘイト:

RAFIのシャンドは、「バイオテク企業は、公共のためとずっと言い続けてきたが、研究テーマは貧しい農民の為とか環境に優しいからではなく、巨大企業のために独占的に設定されるというのが実態だ。」と言う。

組み替え作物を作出する全ての技術は、知的所有権で幾重にも包囲されている。DNAを植物細胞に挿入する技術も色々な特許で所有されている。皮肉にもこれらの技術は税金を使って公的機関で発明されたものが多く、それが公共の研究成果をもっと多くものにしようとする私企業に独占的にライセンスされてきた。

 

統合への秒読み:

巨大企業五社は、基礎技術をいやになるほど広範に含む特許で、誰がどんな値段で使って良いか決める権利を法的に保証されている。

    五大遺伝子企業:ファーマシア(モンサント)、デュポン、シンジェンタ、アベンティス、ダウが農業バイオを支配している。

    四大工業商品作物(コーン、大豆、綿、菜種)が、2000年の商業GM作物の100%占める。  

    三カ国(US、アルゼンチン、カナダ)が2000年の作付面積の98%を占める。  

    二つのGM特性(除草剤耐性とBt殺虫性)が昨年の全GM作付面積4420万ヘクタールを占めている。

    二つの実用的マーカー選択特許がモンサントとシンジェンタに所有され、農業バイオの基礎技術を封じ込めている。  

    一社(モンサント)のGM種子技術が94%のGM作付けを占めている。

 

1.最近US特許法が改正され、潜水艦特許戦略を減らせるようになった。例えば、2000年9月29日以降に申請された特許は自動的に18ヶ月後に公表される。

2.シンジェンタの2000年5月23日付けの広報「ポジテクは抗生物質耐性マーカーの代替法をもたらす。」はインターネットで見られる。http://www.info.novartis.com/media/index.html

 

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