ジャスミン・ライス(香り米)の混乱;IRRIとの繋がり見直しを

 

ペンナパ・ホンソン

ネーション紙 

2001年11月1日 

訳 山田勝巳

 

  10月31日のバンコック・ポスト紙によると、タイはジャスミン・ライスの新品種をアメリカの管理下で自由に使えるようになるという。 タイの米輸出業者は、マニラの国際稲作研究所(IRRI)から入手した種子で行われているこの開発が、自分達の市場に脅威を与えると非難した。しかし、11月1日の別の新聞ザ・ネーションの朝刊によるとIRRIは、まだ新品種開発者との契約には至っていないようだと述べている。

 

   遺伝子保存団体は、昨日IRRIがそのジーンバンクにあるジャスミン・ライスの遺伝子を守れなかったことを非難した。市民の権利や生物多様性の活動をしているNGOバイオ・タイは、IRRIに対し、国際的に育種者に貴重視されている種子コレクションの取扱をもっと透明性のあるものにするよう要求した。

 

  IRRIは、内部研究者がジャスミン・ライスの種子をアメリカの育種家クリス・デレンとニール・ラトゥガーに対し、研究所やこの種の所有者であり寄付者である政府に正式な報告をせずに出した事を最近認めた。 バイオ・タイの代表ウイトゥーン・リアンチャムルーンは、農業省を訪れ、この問題に対処すると同時に、IRRIの職務規程を調査するよう要求した。彼は、「IRRIは先進国特にアメリカの管理下にある印象を受ける。 この査察ができないのであれば、我々が預けた貴重な稲の遺伝資源をこれ以上信託できない。」と、話す。 

 

  フィリピンにある非営利のIRRIは、貧しいコメ農家や消費者の生活向上のための手段を確立する目的で1960年に設立された。 長年に亘って支援国は人類のためにIRRIの遺伝子銀行にコメの種子サンプルを寄贈してきた。タイは、5、500種類のコメ品種を銀行に預け、IRRIでは4番目に多く種子を寄贈してきている。

 

ウィトゥーンは、「IRRIで働く研究者の多くは先進国から来ており、材料の持ち主であり提供者でもある途上国の権利には関心がない。 IRRIが所有国の権利を守るために業務規定を改善しないのであれば、農業省はIRRIを脱退し、我々の種子を全て取り戻し自国内の銀行に保管すべきだ。」と話す。

 

  ラトゥガーは、アメリカ農務省のタイ ジャスミン・ライスを遺伝子操作してアメリカで栽培する計画の責任者だ。IRRIのバンコク事務所で働くボリブーン・ソムリスは、ラトゥガーがIRRI研究者との個人的つながりを利用して正式な申請を研究所に出さずに種子を入手したと話している。

 

IRRIは、その後アメリカの育種家に対し、研究所の規定通り正式な合意書に署名するよう求めている。 この中で発見したことに特許を取ったり使用を制限したりしないよう保証書を出すことも求めていると、ボリブーンは伝えている。

 

 

 

タイ穀倉地に台風

 

ETCニュース・リリース 

RAFIニュース

2001年10月30日

訳 山田勝巳

 

  タイの香り米をアメリカが取得したことは、信頼を裏切り、農家を踏みにじり、貿易と種子条約の話し合いを脅かすものだ。 アメリカの研究者がタイの10億ドル産業であるジャスミン・ライスを握ったことは、アメリカの公的研究がアジアの貧しい農民の生命線である輸出市場を奪いかねないものだ。

貧しさを根絶するために設けられた国際研究機関によって、貴重な遺伝資源が不正に持ち出されたことは、民間研究における公的機関の役割がどうあるべきかという難しい問題を投げかけている。 皮肉にも今回のバイオパイラシー(バイオ海賊)は、この種の問題解決を助けるはずの条約が無効になる危険性がある。 ETC(前RAFI)グループが国際的影響を挙げている。 

 

 移動する米: アメリカ農務省は、タイ固有の香り米であるジャスミン・ライスの試料を不適切に受け取っている、と種子を扱っているフロリダの研究者は伝えている。この試料は、受け取り側が特許を取ったり他の方法で独占をしてはならない事を義務づけている材料引き渡し確認書(MTA)を作成せずに、1995年の12月に国際稲作研究所から入手している。

 

 フロリダ大学、アーカンサス大学、農務省の農学者達は、アメリカで栽培できるジャスミン・ライスの品種開発に取り組んでいる。これは商業的に成功すると、アメリカのグルメばかりでなく世界中が、アメリカ産のジャスミン・ライスで、10億ドルに達するタイの輸出需要のほぼ全てをまかなえるようになる。タイは、米の最大輸出国でジャスミンの香りがする米はプレミアムがついている。ジャスミン・ライスは、タイの農民が何代にも渡って育成してきたもので、その市場はタイの農村社会にとって欠かせないものになっている。

 

 ジャスミン米の研究用種子は、国連の食料農業機構(FAO・ローマ)の信託協定に基づいてIRRIが保管している。協定では、信託された遺伝資源に対する知的所有権は禁止されている。信託協定は1994年の10月に発効し、ジャスミン・ライスは1995年の12月にアメリカへ送られている。ETCグループの研究所長ホープ・シャンドによれば、送られた時点では、標準的手続きが決められていなかったという。この種子は、米の育種用系統種の一部として出ており、IRRIのジーンバンクから直接出されたものではない。いづれにしても信託協定の違反で関与した研究者は、至急MTAを遡って履行すべきで、そうすることで合意していると聞いている。

 

MTAに署名し特許を取らないと合意するだけでは最終的問題解決にはならない。IRRIとアメリカの研究者は、貧しい農民の生計を脅かさないような社会経済的影響に関するより厳格な倫理問題、及びどうしたらこの問題を真っ正面から取り組めるのか探求すべきだ。

 

 WTOで台風の目になるか?この信託が冒されたことで、農民とタイ政府が揺さぶられており、アメリカ・タイの関係を不安に陥れるものだ。バンコクでは殆ど毎日デモ行進があり、地元の報道も大きく非難の声を挙げている。9月中旬フロリダ大学は、意識せずにタイの品種から育種されたジャスミン・ライスのアメリカに於ける生産がいかに有望であるかを発表して論争を巻き起こした。

 

 バイオ海賊と生物安全問題を広く取り上げた歴史を持ち、一般に尊敬されている市民団体タイ公民権と生物多様性ネットワーク(バイオ・タイ)はこのニュースを地元の農民とタイ政府に持ち込んだ。バイオ・タイは、不法に密輸されたジャスミン米があるという情報を入手している。「これがどんな意味を持とうと事実は事実で、タイの農民と国の経済が脅かされたと言うことには変わりない。」とシャンドは言う。

 

 WTO隔年閣僚会議がカタールでもうすぐ(9月9-15日)開かれる時期に合わせたようにアメリカとタイの対立が起きている。この会議は、1999年のシアトルでの崩壊以後最初の大きな出来事である カタール会議では新貿易ラウンドを設置したい意向だ。 農業問題が交渉の重点項目で、カタールには農業団体が沢山集まり、海賊版ジャスミンも重要な議題になるのは必須だ。

 

  もし、WTOの今のルールが適用されると、タイはいつかタイの原種を使った海賊ジャスミンの特許侵害で訴えられかねない。WTOの新たな貿易交渉の中では、信託合意に違反して移動したものを含む海賊遺伝子材料を使った特許に対して差別的に取り扱う各国の権利が完全に保証されなければならない。

 

 米をローマへ:ジャスミン米のような物資が特許を取ることを、難しくするか取れなくするための法的拘束力を持つ条約を交渉している各国が集まるFAO宛に、既に今回の件は知らされている。 食糧農業植物遺伝子源国際協定と名付けられるこの条約は、地球温暖化や急速に変化しつつある農業環境や規制の中で食糧の確保と改良のための研究細胞が世界の科学界を移動する場合のルールを作ることになっている。

 

 IRRIのような国際的研究機関とその60万種以上の種子バンクはこの条約で管理されることになる。従って今回のIRRIのFAOとの信託合意違反は極めて間が悪いことになる。これまでの外交官としては珍しいことだが、先月アメリカは、これまでの姿勢とは違って、科学的遺伝細胞の自由な移動によって得られる金銭的利益を、種子を提供する国と分け合うつもりはないので、条約の合意済みの項目に関しても再交渉するつもりだとFAOに警告してきた。

 

 更に、アメリカは、材料の純化とか分離など、比較的簡単な工程を経ていればどんな細胞でも事実上の特許を取る権利を要求している。日本もこれに近い強硬路線を取ろうとしていると伝えられている。 ジャスミン事件や他の日本が絡んだスキャンダルは、ヨーロッパや途上国(77カ国と中国)の理解が得られない状態で、この条約はアメリカ等との衝突は避けられないと見られている。

 

 貧困の根絶?

 ジャスミン事件は、より広い問題を提起している。国際農業研究所の主な使命は単に科学を使って農業を改善するだけでなく、科学という手段で食糧を確保し貧困を根絶することにある。 協定に従おうと従うまいと、アメリカ農務省もIRRIも、アメリカがジャスミン細胞を手に入れると言うことは、アメリカへのタイの年間3億ドルの輸出市場を潰すものであり、ジャスミン米のヨーロッパなどへの輸出の強敵となるこ

とを意味していることは承知の筈だ。

 

 波紋を呼ぶ塊茎(tuber): これは単独で起きてきたことではない。何ヶ月か前、ペルーにあるIRRIの姉妹研究所国際ポテトセンタ(CIP)は、ヤーコンという高い商業価値を持つ塊茎品種をペルーの腐敗職員が日本へそのまま引き渡すのを承知しながらフジモリ政権に引き渡さざるを得なかった。アンデスの研究者が在来作物を輸出できるように品種開発をしていても、遥かに優れたリソースのある日本が、輸出市場を破壊しようとしているのだ。ポテトセンターは、海賊行為を容易にする以外に対応できなかった。この時点でCIPは、日本政府に対してヤーコンはFAOの信託合意の対象になっていて、知的所有権の対象にはならないと通告すべきだった。さもなければ、貧しいアンデス農民の貧困を根絶するよりむしろ、貧困を緩和するはずのこの地域の宝を強奪するものだ。

日本がFAO条約の一員としてまた良き地球市民であろうとするなら自主的にヤ−コンをアンデスに戻し善意を示すべきだ、とETCグループのシルビア・リベイロは主張する。

 

 委任監視;国際農業研究センターは今週ワシントンの世界銀行で会合をすることになっている。食糧供給が、僅かな多国籍企業や企業合同などによって牛耳られてきている中で、善意の科学者達は、研究所の構造的・財政的問題で混乱しており、国際農業研究諮問団体(CGIAR)は、更にGM汚染、略奪的特許、ジャスミンやヤーコンに見られるような倫理的海賊行為と取り組まなければならない。最低限、研究者は信頼を裏切る行為は即座に止めて、企業合同は、貧困を生み出すような研究は辞めるべきだと、アンデスやタイの農民は呼びかけるべきだ。CGIARはFAOに対して次回の委員会の席で提起される広い問題を討議するよう求めるべきだ。

 

詳細についてはワシントンDCで開かれるCGIARの年次総会か、ローマのFAO会議に参加しているETCグループに連絡して下さい。

      又は、タイ市民権と生物多様性ネットワーク(バイオ・タイ) tel: 6622952-7953

                                  fax: 6622952-7371

                                                             biothai@pacific.net.th

浸食、技術と集中の運動団体ETC(Erosion, Technology and Concentration前RAFI)は、カナダに本拠をおく国際市民社会団体です。 ETC(エトセトラグループと呼ぶ)は、文化と生態学的多様性と人権の向上に取り組んでいます。

 

 

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