成人の骨髄細胞が移植なしで心臓を治す
ISISレポート
メイ・ワン・ホー
2001年8月24日
訳 山田勝巳
血液供給不足で傷ついた心臓が、患者自身の骨髄細胞で治療できることを研究者が実証した。これで胚幹細胞研究が必要だというのが嘘だとはっきりした。 Dr.メイ・ワン・ホーが報告。
突然の心臓動脈の血栓により血液供給が止まると、心臓の心筋細胞と血管の急速な死をもたらす。 この心筋梗塞は、心臓病に共通の症状だ。 ある程度の心筋細胞が増殖し新たな血管が形成されると実証されても、再生は心臓の生きている部分に限られている。 梗塞部や死んだ部分は元には戻せないで、時間と共に瘢痕細胞が形成される。 死んだ組織を心筋細胞や骨格筋細胞の移植で交換しようとしたが、損傷部分の修復は上手く行かなかった。
これ以前に行われたマウスの実験では、ニューヨーク医科大学と国立保健研究所の研究者は、心臓の損傷部の境界部に骨髄細胞を注射した所、筋肉や血管の細胞に違いが見られた。 しかし、この外科手術は多数のマウスを殺し、移植の成功率はたったの40%だった。 この結果研究者は、心筋梗塞を誘発する前後に骨髄細胞を過剰生産する刺激を与える「健康な組織を侵さない」方法を検討するに至った(1)。
この目的で、マウスに毎日サイトカイン(細胞活性に影響を与える低分子)を2回、幹細胞因子(SCF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を注射し、循環する幹細胞の数を2―300倍にした。
サイトカイニンを与えたマウス群の手術後の生存率は73%だったのに対し、与えられなかった対照群は20%だった。 サイトカイニンを与えられた群の損傷を受けた心臓部には明らかに修復の跡が見られ、新しい心筋と血管が形成されていたのに対し、対照群では瘢痕が見られるのみだった。サイトカイニン投与群の心臓は、対照群より機能が格段に良かった。
これ程多くの動物に心筋梗塞を起こす事については議論があるだろうけれども、実験の結果は印象的に写る。 さらに、不思議なことに対照群の実験動物の数がたったの15―52と少ない。 これは恐らく、研究者達が48時間以内に死亡したマウスを除外して“手術のトラウマの影響を最小限にするため”だったのかも知れない。 だが、骨髄細胞を過剰生産するストレスで死んだのは、サイトカイニンを注射したためではないのか。 健康な細胞を侵す方法は他にいくらでもあるはずで、不必要なストレスの強い介入はなくするよう、より真剣に努力する必要がある。
この方法を臨床試験に推奨する前に、サイトカイニンの効果を明確にすることが極めて重要だ。
1. Orlic D, Kajstura J, Chimenti S, Limana F, Jakoniuk I, Quaini F,Nadal-Ginard
B, Bodine DM,
Leri A
and Anversa P. Mobilized bone marrow cells repair the infarcted heart,
improving function and survival.
PNAS
Early Edition http://www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.181177898