遺伝子汚染が世界を席巻する

バイテク作物が増え、消費者は選択を失う

 

ディビッド・バーボーザ 

ニューヨーク・タイムス

2001年6月10日 シカゴ発

山田勝己 訳

 

組み換え作物は、付きまとう不安にも関わらず急激に拡がり、消費者は避けることが不可能になってしまったと農業専門家は話す。

 去年世界の最も肥沃な一億エーカーに組み換え作物が作付けされ、4年前の25倍の面積にもなってしまった。

 風で飛散した花粉で種子が汚染され、闇栽培がこの面積を更に広げ、取り返しがつかないほど世界中の食糧流通に入り込んでしまっている。

 

「遺伝子はすでに放たれた。GMOを根絶する政策を採ると明日決めたとしても、非常に長くかかるだろう。数10年ではないにしても何年もかかる。」とアイオワ州立大学のニール・E・ハール農業経済学教授は言う。

世界最大の食料輸出を担うアメリカ北部と南部にあるバイテク圃場の殆どは大豆とトウモロコシだが、組み換えで殺虫性を持ったり、除草剤耐性を持つ作物は中国、インド、オーストラリア、南アフリカなどの国々でも実験栽培されている。

禁止された国で闇栽培されたり、食糧として禁止されたり、有機農産物等全くGMフリーと思われるような所にも現れている。急速に取り入れられ拡散して、安く大量に供給するために、作物の遺伝コードを変えることの安全性を議論している間にも、世界人口の殆どは組み換え農産物を食べる以外に選択がなくなってきている。

 

その現れが去年のスターリンク混入事件で、アメリカや日本で広範に回収騒ぎになった。スターリンクの害は証明されていないし、バイテク食品が人間に危険だという証拠はない。しかし、この事件はアメリカのコーン作付け面積の1%にも満たないものが、農場から農場へと広がり、国中の穀物流通システムを汚染し、世界の食糧に混入することを示している。

 

種子会社、農家、加工業、食品メーカーが、この6ヶ月で10億ドル以上費やして根絶しようとしたが、多くの専門家は何年も掛かると言っている。

バイテク作物の広がりは貿易、規制、法律に全く新たな問題提起をしていると指摘している。GM作物を制限している大国は近い将来方向転換をせざるを得ないだろう。需要を満たすだけの非組み換え食糧が得られなくなるためだ。

 スターリンク事件では混入と花粉の汚染で複雑な状況を作り出したため監督機関は、GMの定義を新たに作る必要に迫られている。大手食品会社や企業農家は、農家や消費者の生産物が汚染されていると思い込んでいるため、法的にも公共関係にも難題を抱え込んでいる。

 

アメリカでは至る所組み換え作物だらけで、FDAは「全く安全」と判断している。 

しかしヨーロッパとアジアの一部では懸念を持っており、輸入を止めたり、減らしている。懐疑的な人は、自然に干渉すると種に予期せぬ変化を起こしたり、野生生物に被害を及ぼしたり、除草剤耐性の「スーパー雑草」のように新たな問題を起こしてしまうと言っている。又殺虫性を持ったり、異種遺伝子を持つものを長い間食べ続けた場合の健康への影響を懸念している。

業界はバイテクを取り入れるか入れないかの議論を先制解決するために、意図的に世界市場をGMで溢れさせたのではと疑っている評論家は多い。

 

反対派はスターリンクでGM推進の流れを変えられると期待した。事実、広がりは取り返しのつかない事を証明したようで小麦、ジャガイモ、サトウは失速させた。 

アメリカの食品会社は、安全だし避けるにも拡がりすぎて対応出来ないと言い訳して組み換え作物を使い続けている。同時にアメリカの消費者で気にしている人が殆ど居ない。

 

アメリカ穀物の国内、海外とも大部分は、飼料として使われており、これまで家畜に組み換え飼料を使う事に対する酪農家や大企業からの反対はあまりない。

 

バイテク企業は、このゲームでの勝利は間近と見ている。 

アメリカ、ブラジル、アルゼンチンで世界のコーンと大豆輸出量の90%を占めている。アメリカとアルゼンチンからの船荷は殆どバイテクだし、ブラジルにはバイテク大豆のブラックマーケットがあるのは公然の秘密となっている。

もし、ブラジルがバイテク生産を法的に認めれば、ヨーロッパやアジアの2大輸入地域は、非組み換え大豆の必要量を賄える国が無くなる。ブラジルの環境保護者達はバイテクに反対しているが、アメリカの業界筋は、ブラジルの意見は分かれているもののバイテク容認に傾いていると見ている。

 

アメリカ大豆協会のボブ・キャラナン広報担当は、「最後のドミノが倒れるのは間近。だから環境保護者達が騒いでいる。最後の砦だと分かっているからね。」と話す。

 

バイテク企業にとってはとてつもない勝利になる。モンサント、アベンティス、シンジェンタ、その他の企業は、この作物を作り出すのに何十億ドルも費やしてきた。

国連や他の独立団体では世界の健康増進と飢餓問題の解決策として奨励している。

UBSワーバーグでバイテク業界を追っているアナリスト、アンドリュウ・キャッシュによれば、ヨーロッパでは、主たる組み換え作物であるモンサントのラウンドアップ・レディ大豆が既に避けようがないほど拡がってしまったため、受け入れざるを得ないという。 

「ヨーロッパは、『食を乞う者は選べない』という農業の現実的教訓を初めて学ぶことになった。つまり組み換え大豆か無しか、しかない」と1月に書いている。食品会社は、既に非組み換え穀物を得るのが難しくなっている。 

アーチャー・ダニエル・ミッドランドやカーギルのような穀物業社は、分別とGM検査に別料金を課している。

 

しかしこれも困難になってきている。種子コ−ンとバイテクコーンの交雑と収穫物の不完全な取扱とによって、過去何十年も大量供給を無分別に担ってきた世界的食品流通の中ですっかりごちゃ混ぜになってしまった。

 

世界中の食品会社が、意図せぬ遺伝子組み換え作物を微量に検出しており、中西部の農家は組み換え作物の花粉が風で飛んできて隣接する在来コーンに吹きつけていると文句を言っている。「GMフリー」と表示された有機農産物でさえGM検査で陽性反応が出ている。有機農家は、バイテク産業に対し汚染による損害賠償を求めて現在集団訴訟を起こすべく検討している。

10年から15年有機栽培でやってきたコーンに汚染が出ている。どんなに壁を高くしたってあれを閉じ込めることは出来ない」と話すのはNature's Path Foods代表のアラン・ステファンで、ブリティッシュ・コロンビアのデルタでパンとシリアルを生産している。

 

花粉の広範な飛散が意味するところを無視し、バイテク作物の闇取引を推進さえしているのではと、GM業界側に、悪意を感じている反対者もいる。「汚染の広がりでGMが既成事実化するように願っているんだろうが賠償責任が奴らをやっつけてくれるよ。ベルト地帯の有機農家や在来種栽培農家に汚染が出て来ているので農業ベルト一帯で訴訟が起こるだろう。」とバイテクにずっと批判的だったジェレミー・リフキンは話している。

 

世界最大のバイテク種子企業は、花粉が飛散する事、更に自ら売っている在来種の種も100%GMフリーを補償出来ないことも認めている。

 

農業に不運は付き物だという。「作物を作っているところでGMが承認されれば当然問題は起こる。我々の種子の基本在庫は純粋だが、偶然の混入は常にある。つまり、花粉の飛散や物理的混入で意図せず微量にあるということだ。」と世界最大の種子企業パイオニアハイブレッド社の副社長 ディーン・エーストリックはいう。 

 

種子企業は、この混入があるので、流通、表示、そして法的問題を避けるために、規制を緩めるよう多くの国に呼びかけている。

 

Purdue Universityのジャンヌ・ロメロ・スヴェルソン農学教授は、「ゼロ許容というのは、全く現実的ではない。100%純度を言うなら今すぐ食べるのを止めるしかない。」と話す。

 

 

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