遺伝子組み換え生物に関するアメリカ生態学会の声明
2001年5月
ESA理事会で承認
訳 河田昌東
8000人の生態学者を代表して、アメリカ生態学会はバイオテクノロジーの慎重な利用を支持する。遺伝子組み換え生物(GMO)は持続的な農業、林業、水産業、およびバイオレメデーション(訳註)において役割をになう潜在力を持っている。しかしながら、GMOを環境中に熟慮の上放出しようと、あるいは無分別に放出しようと、ある環境下においては負の生態学的影響をもたらす。例えば、成長速度の早い遺伝子組み換えサーモンを放出すれば本来の魚類を危険にさらし、あるいは害虫駆除のためにウイルスの組み換え体を作れば、非標的昆虫に予期しない影響をもたらすかも知れない。GMOのリスク評価はその組み換え体自体に焦点を当てて行われるべきだが、同時にある種のGMOは従来の動物や植物の育種によって作られる生物よりもより慎重な吟味が必要なことも認識しなければならない。GMOの長期的な生態学的影響を商業化に先立って予測し研究することは極めて困難であるので、アメリカ生態学会(ESA)はGMOを環境中に放出することにたいし、注意深い取り扱いをすべきであると勧告する。
GMOは健全な環境管理を損なうことなくイノベーションを推進する科学的規制政策に基づいて評価され利用されなければならない。その経過は一般にも公開されなければならない。GMO利用に伴う環境リスクは、適切なリスク参照、例えば在来の育種のようなものに対比し、当該の形質を導入される生物の生態学、形質それ自身、そして組み換え生物が導入される環境などを当然考慮して評価されなければならない。
リスクを伴い、それゆえに精密な吟味を必要とする遺伝子操作生物は、環境に与える影響に関して不確実性のあるようなケースを含んでいる。それらをあげれば:
◆(導入される生物の)形質と宿主の組みあわせについて事前にほとんど経験がない。
◆組み換え生物は人間の干渉から逃れて生き残る。
◆組み換え体と非組み換え体の間で、遺伝子の交換が起こりうる。あるいは、
◆ある環境下では、導入された形質は自然の生物種よりもGMOを有利にさせる。
環境リスクの事前評価は、以下のようなあり得る負の生態学的影響を最小限にするために必要である。
◆新たな、あるいはそれまでよりも強い害虫や病原菌を作り出す。
◆関連する遺伝子組み換え植物や動物との交配を通じて、既存の病害虫の影響が強化される。
◆土壌生物や無害な昆虫、鳥、その他の動物などの非標的生物に害をおよぼす。
◆生物の社会に破壊的な影響をもたらし、
◆種の多様性や種内の遺伝的多様性に取り返しのつかない損失や変化をもたらす。
アメリカ生態学会(ESA)は科学に基づいたGMOのリスク評価、組み換え体の試験、そして環境への放出の適切な基準つくりを勧告する。当学会はGMOの開発において、中立の立場で、すなわち有益な生態学的影響をもって助けとなる科学的情報の提供に寄与する。
(訳注:バイオレメデーションとは、化学物質などで汚染した土壌などを生物を使って除染回復させること)