世界のGMマーケットは縮小を始めた
ザ・ガーデイアン(英国)
2,001年8月28日
抄訳 河田昌東
世界のGM食品バブルは、高度成長期が10年続いた後ではじけるかもしれない。
5年前と比べれば企業は研究開発を縮小しており、利益も停滞し、各国の表示や輸入規制もきつくなり、健康に良いと約束された次世代組換え作物も数年先に遠のいた。当分大きな新たなマーケットは期待できそうにない。 逆説的だが、ガーデイアンの調査によればGMの作付け面積はアメリカでは依然として拡大を続けており、世界中で1億900万エーカー、5年前の25倍にもなっている。その上、企業は今ではほとんどすべての政府と世界機関にこの議論のあるテクノロジーを納得させている。
しかし、ウオールストリートのレーマン・ブラザーズの化学産業アナリストのリーダー、セルゲイ・ヴァスネツォフは、次のように言っている。「GM食品産業の先行きは3年前に比べて不確かだ。ほろ酔い気分は飛んでしまった。成長は確かに落ちている。GM産業界は成長率を過大に述べ、消費者の抵抗を低く見積もっている。消費者の受け入れは新規商品によるだろうが、企業はそれを達成出来そうにない。消費者の利益になる作物が出来るまでにはまだ3〜4年はかかるだろう。市場は膨らんでいないし、研究予算は5年前に比べれば5〜7%少なくなっている。」 グリーンピース・インターナショナルのGMアナリスト、ベネデクト・ヘリンもこの考えに同意する。「驚異的な成長の時代は終わった。約束は実現しなかった。主なGM作物はたった4種類栽培されているだけだ。世界市場はGMの出荷量を減らしている。」
だがGM食品企業はこうした規制のハードルや世界の世論は乗り越えられると確信している。世界のGMリーダーであるモンサントは、昨年8000万エーカー以上の土地に同社の種子を植えたが、コスト高に泣き、研究費を削減し、700人もの人々を提訴(訳注:契約に違反して種子を採取したとして)しなければならなかった。しかし、同社は多くの開発途上国で野外試験を実施し、作付け面積を11%も延ばした、と報告されている。世界全体ではGMの作付けは2000年と比べて17%増えたと考えられる。
しかしながら、その新規増加分の大半は北アメリカ国内であった。 ヴァスネツォフ氏は、GM作物が開発途上国の飢餓を緩和するだろうという国連や、化学会社、科学者による発言を酷評している。「食糧不足に直面しているなんて言いふらすのはやめようじゃないか。 飢餓は確かにあるが、食糧不足のせいじゃない。GM食品は豊かな国のためにあるのさ。GMの金は先進国に入る。闘いはヨーロッパ内での事だ」と彼はいう。
グリーンピースのベネデクト・ヘリンも同じ意見だ。 「市場がなければ貧困国向けの品種をつくろうなんてGM企業はないよ」というのが彼の意見だ。アメリカのアナリストはGM作物が10年経ってもまだ北アメリカだけで栽培され、世界の他の国々はだんだん慎重になってくるのではないかと恐れている。 アメリカは現在GMの80%を生産し、これにカナダ、アルゼンチン、中国が続く。他の10の国々での栽培はわずかなものだ。
ヨーロッパの5年間にわたるモラトリアムを乗り越えることがGM作物の発展のキーポイントだ。先月発表されたEUの草案は、在来種にGMが1%混入しても輸入を許すが、新しいGM作物の栽培を許す一方で、在来種の畑とGM品種の畑の間の緩衝地帯を3マイルに広げることを可能にした。これでは大部分の農家は撤退するだろう。企業はこの制限を緩和しようとロビー活動をしている。
アメリカのGM生産者と政府は300憶ポンドの食糧輸出産業がアメリカに取って代わる国々に土台を掘り崩されるのを恐れている。 アメリカ政府とロビイストの狙いに反して、多くの国々では今規制を強化してアメリカの農業から舵をきろうとし始めている。タイは世界最大の米の輸出国だが、GM作物の表示義務化とトレーサビリテイーをきつくする法律を作ろうとしている。巨大食糧輸入国のアルジェリアは、GM食品の輸入、生産から販売まで完全に禁止する予定である。年間110億ドルに相当する、全米の食糧輸出の20%を占める日本は、24品目に厳しい表示規制をかけたし、中国の新たな法律ではGMトウモロコシ(輸入)は数年遅れることになるだろう。スリランカでは、政府がWTO(世界貿易機関)と業界からGM作物の輸入と栽培の禁止を再開しないよう強力な圧力にさらされている。
アメリカ政府と農業団体はGMで輸出がひどい打撃を受けていることを認めている。ヨーロッパ、日本、台湾、韓国は非GMのコーンと大豆の輸入をアメリカからブラジル、中国へと大幅にきりかえた。アメリカ農務省は最近、GMの評判が悪いせいでコーンの輸出が5000万ブッシェル落ち込む、との見とおしを発表した。 一方、GM作物の試験を取り巻く法律がはっきりしために、いくつかのヨーロッパのバイテク・種子会社は研究拠点を北アメリカに移し始めている。「我々は、今年はもうGMの野外試験をドイツでやろうとは思わない」と語るのは種子会社Norddeutsche
Pflanzenzucht (NPZ)である。同社によれば、農家は(GMの)収量や利益に満足しているが、GMに対する世界的な不安がバイテク支持者達にさえGMへの疑問視をもたらしている。アメリカ・コーン生産者協会による最近のメンバー14000人の調査によれば、78%は失われた輸出を取り戻すためにGMをやめる、という。
GM作物栽培に対する敵意がヨーロッパでピークに達している一方、アメリカでは消費者が勝利しつつある。6月に行われたABC放送の世論調査によれば、消費者の52%はGM食品が安全でないと答え、GMを信頼するとこたえたのはたった35%に過ぎなかった。たった1年前のギャロップの世論調査ではこれが逆で、51%は健康に問題ない、と答えたのだ。
政府や科学者達が推進してきた、期待された「道徳的」GM作物もまた市場にでるには何年もかかる、と報告されている。開発途上国の人々のためにビタミンAを沢山含むようにしたシンジェンタ社の頭痛の種の
「ゴールデン・ライス(黄金米)」が自給農家に利益をもたらすのは今後4年間は無理だろう。何故なら、このイネは今のところ温暖な気候でしか生きられないからである。
モンサントはGM小麦を2年以内に導入しようと準備を進めているが、海外輸出を優先しているアメリカとカナダの農家は慎重になっている。カナダ農民連盟とカナダ小麦協会を含む200以上のカナダのグループが輸出へのダメージを恐れてGM小麦の栽培試験中止を求めている。
過去数ヶ月に、国連はGM作物が開発途上国を助けることが出来ると表明し、EUは新規栽培のモラトリアムを停止する最初のステップを踏んだ。英国はGMの商業栽培準備に30箇所以上の野外試験栽培を許可した。ニュージーランド政府はGM作物を強くバックアップしている。