ブッシュ政権はEUのGM食品表示法に噛み付く
ワシントンポスト(2,001年8月26日)
アラン・シプレス/マーク・カウフマン
抄訳 山田勝己
ブッシュ政権の上級官僚はEUに対して、アメリカに新たに年40億ドル掛かり、新ラウンドの世界貿易交渉の開催を妨げる遺伝子組み換え食品の規制を撤廃するよう圧力を掛けている。 先月EU委員会で承認された規制は、WTOに反してアメリカの製品を差別するものだとアメリカは度々非難してきた。
欧州委員会のGM表示の決定は、ヨーロッパでのGM食品に対する不安が大きいことを示している。 この決定は、既に温暖化や兵器交渉、その他の貿易交渉で難航している米欧の関係を更に悪化させるものだ。
国務省次官のアラン・P・ラーソンは、規制が差別的な貿易障壁で関係州の利害に重大な支障を来すと話す。 報復措置については触れなかったが、WTO違反であると指摘している。 例えば、アメリカ産の大豆油は表示が求められ、組み換え酵素で作ったヨーロッパ産のチーズは表示が要らない。 アメリカがWTOへ提訴するかどうかは決めていないが、ヨーロッパにとって長い裁判のあげくに屈辱的な厳しい判決が下ることも予想される。 アメリカは、今年末に予定されている貿易交渉の障害にならないように、法律が発効する前に修正するよう要求している。
今回の表示義務化によるアメリカの損失は今年始めに決着したバナナや牛成長ホルモン問題の比ではないと言う。欧州委員会の新基準は、全てのGM食品は「遺伝子組換え体」を使用している旨表示するよう求めている。 更に全ての原料の生産地を記録するよう規定している。 アメリカの穀物取扱では分別が殆どなされていないため、これを実現するためには多額の費用が必要になる。 ヨーロッパの輸入規制で殆どの食用コーン製品は禁止され年約3億ドルの損失だという。 新たな法律が2003年に施行されれば、飼料としてのコーン、大豆も輸出できなくなる。
ブッシュ大統領は農業州の出で、農業関連の支持も大きい。業界関係者は、ブッシュ政権がこれまでになくはっきりと業界の利害を代弁してくれていることを歓迎している。 しかし、ヨーロッパでは、安全ではないとしてGMを望まない欧州市民に、アメリカがそれを押しつけるものだと苛立ちを見せている。 狂牛病などによる健康危機で食品の安全に神経質になっている欧州では組み換え作物に対して極めて批判的だ。
「一方的なアメリカの押しつけの典型例だ。 アメリカの消費者と、組み換えを認めないヨーロッパの消費者では基本的考え方が違う。 表示は消費者に選択を与え、食品の信頼回復を諮るものだ。 アメリカが被ると発表した損失は大げさで実際には年28億ドルだ。」とワシントン駐在のEC代表トニー・バン・デヘーゲンは言う。
米国では、実質的同等性が幅を利かせており、国内でも表示を求める声があるが、推進側がこれを強力に阻止している。 EUではこの3年間新たな組み換え作物を認めていないため、審査を再開するようアメリカに強く圧力を掛けられてきた。 新法が施行されれば審査は行うがアメリカの希望とは相容れない内容となっている。
アメリカの業界は、表示義務と追跡性を言う一方で欧州産のワインやチーズを除外するのは、大きな貿易障害となると話している。 ヨーロッパの規制は、種子のように直接組み換えられたものと、酵素など組み換えが間接的に関わる製品を区別しているため後者が適用外になっている。
ワシントンで大手食品企業の代理人になっている弁護士のマーク・マンスールは、政府の諮問に対し早急にWTO提訴に踏み切るよう、またバイオセーフティ議定書の支持も取り下げるべきだと勧告している。
今後欧州議会の中で審議されるが、更に厳しい規制も予想される。 環境グループは、「アメリカは世界に組み換え食品を無理矢理食わせようとしているがそうはいかない。」と、製品全体の1%以下であれば表示が要らないという但し書きを削除するよう要求している。
サウジ・アラビアとスリ・ランカは組み換え食品の輸入を禁止する方向で動いており、メキシコは厳しい表示法を検討している。
ラーソンによれば、途上国にはヨーロッパの指針がモデルとなり、技術の恩恵が遠のくと話す。 バイテク推進者は貧しい農民が収量を上げ、病害虫を防ぎ、疲弊した土壌でも栽培できるようになると言っているが、反対者は、民間の多国籍企業が持つ営利目的の商業生産者向種子技術が、貧しい農民の恩恵にはなり得ないと反論している。