ブラジルの市民陪審がGM種子を拒否
ガーディアン
2001年5月1日
ジェイミィ・ウイルソン
抄訳 山田勝己
アントニオ・ロペスは、地域の種子銀行を管理している。
彼の妻と7人の子供が住む1部屋の、今にも崩れそうな離れ家で、5本のドラム缶入れて種子を保存している。
アントニオは、ブラジルの北東セアラ州の乾燥した奥地に40ヘクタールの土地を作っている。
人里離れた村に生活するこの地域の農家にとって、アントニオの種子はネズミと湿気から守られた命そのもので、種は死活問題を意味する。
遺伝子組み換えされた品種の種は、この国では激烈な論争を起こしている。ブラジルはヨーロッパにとって非組み換え大豆の大きな供給源としては最後の砦だからだ。
テスコやアスダといったイギリスのスーパーもこれを当てにしている。
アメリカやアルゼンチンといったEUへの大豆輸出国は、大部分をGMに切り変えたので、今やブラジルはGM企業のターゲットになっている。
ブラジルがGM化すればヨーロッパにとって輸入先が無くなる。しかし、非常に貧しい農家にとってはスーパーマーケットでの選択の自由では済まない。GM種子が買えなければ大農家に席巻されて、種取りや種子交換、殺虫剤の選び方、収穫の仕方などの伝統が失われてしまう。
ブラジル北東部の町フォルテレサで先月初めての市民陪審が開かれGM作物を公判にかけたのは、こういった状況でのことだった。
市民陪審は、18世紀のグローセスターシャーやウォセスターシャーに遡る。そのころはパンの値段が高くなりすぎたときに開かれていた。
アクションエイドの思惑通りに進めば、ブラジルの貧しい農家がGM論争の中心として彼らを奮起させることが出来る。
GMのことを知らない農民と消費者が無作為に選出され、先端科学者を含む専門家のGM賛成・反対の議論を聞く。2日間の噛みつき合うような議論で、農民は6人の証人からGMのメリットを聞き、6人の証人から問題になりそうなことを聞いた。結果は満場一致のGM「反対」だった。にもかかわらず、反GM闘争は一部負けたと感じている。
リオ・グランデ・ド・ソルは、大豆の主産地で左翼政府がGMフリーを維持しようと頑張っているのだが、既に75%がGM化しているアルゼンチンからの密輸種子でかなり汚染されている。その上、世界最大のバイオテク企業モンサントはブラジルのGM解禁に備えて60%の種子会社を買収してしまっている。また、バヒア州には、GM種子と一緒に使う農薬を作る工場の建設を開始した。
農民組合と他の反GM圧力団体は、ブラジル政府が工場の建設に9000万クルズエラ投資したこと、バイオセーフティ法を変えることは憲法違反だと非難している。
ブラジル消費者保護組織IDECとグリーンピースは、ブラジル政府を相手に環境調査がされていないという理由で連邦裁判所に訴えて勝訴した。このおかげで当分はGMフリーの保証が出来たが、GM解禁になるのもそう遠くないのではと懸念されている。
モンサントとブラジル政府は、農民の知識不足を良いことにGMをごり押ししようとしていると反対者が非難している。
モンサントは市民陪審に参加するよう何度も声をかけられたが参加を拒否している。
アクションエイドは、これから12ヶ月間にアマゾンからブラジリアにかけて更に4回のGM市民陪審を開く予定で、議論の輪を広げることとGMを受け入れるとしても農民に知識が無くて受け入れるという事の無いようにしたいという。