アメリカにも狂牛病の危機が起こる
8月29日
ウォールストリート・ジャーナル
ホルマン・ジェンキンズ・JR
訳 山田勝己
15年前にイギリスで狂牛病が発見されてから「1頭も罹っていない」というのがアメリカビーフ業界の誇りだ。
見つかっていないということは、良く見ていないと言うことでもある。 ヨーロッパでは、症状のある牛が出たら検査する体制から、ある一定年齢以上のものは全て検査することになった。狂牛病は留まるところを知らない。
フランス、ドイツ、スイスでは100頭以上、イタリアでは23頭目が見つかり、デンマークでは2頭目、スウェーデンとギリシャで1頭、チェコで2頭見つかっている。 原因と考えられているプリオンの尿検査が可能になりそうだ。そうなると検査は安く簡単に出来るようになる。
良く見れば見つかるだろうから、多くの専門家が信じるように狂牛病が既に拡がっているとすれば、消費者のパニックと経済的被害の前触れと言うことになる。 牛肉業界はかつて、1頭でも出た場合36億ドルの牛肉輸出がなくなり、国内でも鶏肉や豚肉、さらには大豆バーガーに殺到することになると予測している。
しかし見よ!麻痺現象か窮鼠猫を噛むか、ドイツでは最初の1頭で40%消費が落ちたが、101頭目では20%消費が伸びている。
ゆっくりだが、痛みを堪えながらもよそ様では狂牛病という現実を受け入れ始めている。アメリカもそろそろその時期に来ているのではないか。
イギリスの経験がこの病気の大方の見方を決めているように見えるが、イギリスは独自の様相を呈してきている。 これまでの見方ではイギリスで人の脳症が増えてこなければならないが、現実にはそうなっていない。
英国産動物飼料が何百トンも80カ国に向けて1996年まで輸出されていた。アメリカにも12トン来ている。 これまでのシナリオで行けば既に人知れず牛の飼料に入り込んでいるはずだ。 アメリカでは毎年4500万ポンドの、つい最近まで感染源であるとされる脳や脊髄を含むこと意味する「機械的に回収された」牛肉が消費されている。
当初からイギリス人の羊への偏愛を強調する専門家もいて、最近の発見の下では、これが影を大きくしている。 オレゴン州ほどの面積に工業国では見られない密度で4200万頭の羊と1000万頭の牛を飼っている。 アメリカでは、700万頭の羊と1億頭の牛を飼っている。 重要なのは、イギリスでは羊の処分が5倍早く、一人当たりラムやマトンを12倍多く消費していることだ。
狭いめいっぱい開発された国で大量の死体を処理するため、イギリスは蛋白質再利用に極度に傾いた。 ギリシャでもマトンは大量に消費するが、ビーフはフランスからの輸入だ。 フランスでもイギリスと同じくらいラムを消費するが、その2/3は輸入だ。 唯イギリスのみが羊と牛を共食いさせながら支えてきた。
最後とも言える鍵は、羊はBSEに汚染されたものを僅かでも食べると狂牛病に感染するという予期せぬ発見である。 これを受けてスクレイピーで死んだ3000頭の羊の脳を調査したところ、実際にBSEで死んだ羊がいるという強力な証拠が見つかった。 特に興味深いのはBSEに感染した羊の脾臓に感染源が見つかっていることだ。
これはBSE牛には見られないことだ。 羊のスクレイピーは多くの内臓に波及することが分かっている。
この発見は、2種の間にはより複雑な現象が起きていることを示唆している。 狂牛病は、昔からあるスクレイピーに感染した羊を餌にした牛が始めだと一般的に説明されている。 しかし、新たな可能性として、BSE変種に感染した牛を食べた羊にうつり、ビーフではなく、そのマトンを食べた人にうつったことが考えられる。
当然そのようなシナリオは、BSE感染のあるほかの国には当てはまらないが、イギリスの特異な循環を説明するには必要である。病気としての狂牛は世界中で点在している可能性がある。 僅かに人間への伝染を伴う伝染性の狂牛は、イギリスの飼育に特有のものかも知れない。
イギリス政府は、ラムを食べた人間が狂牛病にかかるかどうかは明言していないし、牛に培されたBSEが人の食品の中に入ったのが羊のせいかどうかは勿論まだ明確にしていない。 だが、ビーフを食べたが故に人が狂牛病にかかったというのも(事実として報道されることが多いが)単なる推測に過ぎない。
今のところ救いと言えるのは、一般に信じられているほど科学は狂牛病について分かっていないということだろう。これまでの対策は、危険性が良く分かって取られているというよりも、「何かしろ」という政治的要求や最悪の事態を想定して取られたものだ。 英国医学ジャーナルは、最近、現状の無知について、「紛れもない事実は、牛海綿脳症はクロイツフェルトヤコブ病変種の原因であるという1点だけだ。」と結論している。
これはおもしろい大事な点だが、何を意味するのか。 人間版の狂牛病は恐ろしい病気だが、1920年代から知られ毎年数千人が犠牲になってきた散発的に起きているクロイツフェルトヤコブ病ほど恐ろしいものではない。 散発的が意味するとおり、研究者はどのようにして病気に罹るのか全く分かっていない。 CJDは、人と動物の間で長い間行き来していることは分かっている。
ワシントンの屠場のリビー家は、遅かれ早かれ出るとは思いつつも、10年来狂牛病がアメリカに出ないことを祈り続けてきた。 3600万頭が毎年屠殺されているが、農務省は1990年以来12,000等の脳を検査した。 いずれ出るのであれば、そろそろ真剣に最初のケースを探し出す時期ではないのか。