スターリンクの安全性における問題点(アメリカ環境保護庁EPAの指摘)
まとめ 河田昌東(2000.11.15)
申請書の内容 |
EPAの判断 |
理由その他 |
1)アレルギー性 |
否定出来ない 受理 |
耐熱性:90度C 10分以上安定 消化性:人工胃液、腸液で4時間以上安定 他のアレルゲンとの非類似性は参考にならない 糖鎖のあるなしは参考にならない |
2)腸管への吸着 標的昆虫の腸管壁には特異的に吸着しかし、 ネズミの腸管には非特異的に吸着 (だからアレルギー性はない) |
参考 |
実験データがきたなく、申請者と同じ結論にはならない この実験の意味は不明。アレルギー性との関連は不明 |
3)マウスへの急性毒性はない(静脈注射) |
受理 |
静脈注射から14日間の飼育で異常なし |
4)マウスの飼育実験(30日)0.21~2.1gCry9C/L 臨床症状に異常なし。 病理学的には、高濃度摂取では表皮組織と内臓に 「やせ」の症状(10/12) 摂取グループに心臓表面に出血(低濃度5/12) (高濃度9/12) 組織学的検査ではどの器官にも異状なし 消化管の免疫科学的検査ではCry9C蛋白質の 結合なし。 小腸、脾臓などのリンパ組織の顕微鏡像は正常 高濃度摂取グループでは明らかな脂肪含量変化あり、 脂肪組織の縮小が見られた。28日飼育個体の血液中 ケトン濃度上昇。 脂肪代謝の異常による毒性あり。 |
受理 |
飼育試験は要求されていない |
5)経口による急性毒性試験 Cry9C蛋白質を3.76g/Kg経口摂取14日間 死亡例なし オス(1)2〜5日の間に脱毛 メス(1)活動低下、糞量減少、歩行不安定。 オスは全部体重増加。 メス(2)は体重増なし(0〜7日) メス(3)は体重増なし(7〜14日) メス(1)体重増なし(0〜14日) |
受理 |
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6)Cry9C蛋白質の加工段階による安定性 組み換え体ではCry9C蛋白質の発現量は0.0685% (乾燥重量)。しかし、対照の非組亜換え体でもCry9C 蛋白質が検出されている(イリノイ州産) |
参考 |
実験がおかしい。対照の非組み換え体での検出に疑問、 改善の余地あり |
7)安全評価の新しい手法の開発 コーン抽出物のラットへの皮下注射、42日後の 血清がCry9C蛋白質に対して強い抗体反応 |
参考 |
実験条件の詳細がない。 |
8)職業被曝 スターリンクを扱う工場の1980人の社員の手紙 「アレルギーになった人はいない」 |
受理 |
今後も注意深くアレルギーなどの発生を監視せよ |
10)雌ブロイラー飼育試験 飼料摂取量、体重増加、胸肉重量など計測 組み換え体群と非組み換え体群でわずかに差あり |
不要 (審査の役に立たない) |
飼料中のCry9C蛋白質の濃度を量っていない |
11)コーン・アレルギー患者の免疫反応 組み換え体コーン、非組み換え体コーンの間に 違いなし。 |
Btコーンのアレル ゲン性を示すものでは ない |
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Cry9C
Food Allergenicity Assessment Background Document by EPAと付属文書(June 7,2000)より
(注)「受理」は申請書の実験結果と解釈を妥当とする判断。
「参考」は申請書の実験または解釈に問題があり、判断材料にしない。
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解説 (河田昌東)
アメリカ環境保護庁(EPA)は今年1月頃から、何度もスターリンク・コーンの安全性に関する専門家会議を開き、消費者団体の科学者に意見を求めるなどの検討を行ってきた。これらの検討結果の現段階でのEPAの判断を筆者がまとめたのが上に示した表である。この検討結果には現在問題になっている、スターリンクのアレルギー性だけではなく、様々な問題点が浮かび上がってくる。以下に筆者のコメントを加える。
(1) スターリンクの有効成分であるCry9C蛋白質は、90度C10分でも壊れす、遺伝子組み換え作物の安全性で問題になる、人工胃液、腸液による分解も4時間以上にわたって起きないことが、アレルギー性を持つ可能性を捨てきれない理由である。
(2) EPAが求めているのは、「アレルギーを起こさない」確証であって、日本の厚生省や推進派が云うような「アレルギーを臆す証拠がなければ安全」という意見とは正反対である。
(3) Cry9C蛋白質は既存の食物アレルギーを起こすアレルゲン数百種類と共通なアミノ酸配列は存在しないが、そのことは、アレルギー性を持たない証拠にはならない、とEPAは判断している。理由は、Cry9C蛋白質は人類はこれまで口にしたことがない物質であり、既知のアレルゲンと共通性がなくてもアレルギーを起こす可能性はあるからである。アレルギーは人間が過去に体験した物質に対する生体防御反応であって、新しい物質のアレルゲン性を事前に判断することは科学的にも難しいからである。従って、Cry9C
以外の遺伝子組み換え蛋白質にも同じことが当てはまるのであって、耐熱性や耐消化性、既知アレルゲンとの構造相同性は判断の一つの目安に過ぎない。
(4) Cry9C蛋白質は、アレルギー可能性以外にも、動物実験で様々な障害を起こしているようだ(上の表参照)。例えば、ラットの飼育の実験では、表皮組織や内臓に「やせ」の症状が出たり、高い割合で心臓の表面に出血が確認されている。また、脂肪組織の異常や血中ケトン濃度の上昇から何らかの糖代謝の異常の存在が指摘されている。
(5) 経口による急性毒性試験では、死亡例こそないももの、オス・ラットの脱毛(1)、活動力低下・歩行不安定(1)体重増なし(6)などが見られる。こうした各種異常(4、5)は本来家畜飼料としても問題になる課題である。アメリカで家畜飼料として認可されているからといって、日本でも同様に認可するのは危険である。畜産現場での事例を注意深く見守る必要がある。
(6) ニワトリ(メス・ブロイラー)の飼育試験では、対照の非組み換え体摂取群と比べてわずかな差(内容は不明)があった、とされているが詳しいことは分からない。日本の厚生省は、現在、ラットではなくブロイラーの飼育試験を行う、と発表しているが、あえて違いの出にくい実験を選んだ可能性がある。なぜなら、EPAに出されたと同じ申請書は厚生省にも出されていて、こうした内容を政府は知っているからである。ニワトリの結果が安全だからと云って、牛や豚にも安全とは言えないことがEPAの議論には伺えるからである。
(7) 非組み換え体コーンへの混入の原因についても上の表には気になる記載が見られる。すなわち、Cry9Cの発現量の分析において、アグレボ(現在アヴァンテイス)社から提出された申請資料には、スターリンク・コーンにおけるCry9C濃度が0.0685%(=685ppm)
だが、対照の非組み換え体の分析値にもCry9Cが含まれているので、この分析値は信頼出来ない、として再提出をもとめられている。この意味は、アグレボ社が非組み換え体として採取・分析したコーンにはすでにスターリンク・コーンが混入していた、すなわち栽培段階ですでに混ざっていた可能性を示すものである。この指摘にお対してアグレボ社は、別の非組み換え体として、栽培場所の違う除草剤耐性コーンの分析値を出したが、これは場所も親株も違う、として採用されなかった。こうした事情を考えると、同社の非組み換え体自体にすでに混入があった可能性が高いと思われるのである。もちろんコーンエレベーターなど流通だんかいも可能性があるが、他家受粉性のコーンは容易に花粉をとばして遺伝子の伝搬をするので、この可能性も無視できない。
(8) さらに、Bt作物は標的昆虫に容易に耐性が出来やすく、それを避けるためにアメリカEPAは、Btコーン畑には少なくとも20%以上の非組み換えコーンを近くに植えるよう勧告・指導している。この「非組み換え体」は建前上は組み換え体と同様の扱いをするよう指導されていても、非組み換え体が高く売れる、という現状では農家が「非組み換え体」として売却するのは避けられない。
以上のように、スターリンク問題の提起したことは、アレルギー性ばかりでなく、動物飼料としての安全性、分別流通の事実上の破綻など遺伝子組み換え全般にも及ぶ課題である。