植物にガンを作る細菌が人間の細胞にも感染する
Reuters Health News
2001年1月31日
ニューヨーク発
Emma Patten
(抄訳)
植物に瘤状の腫瘍を作る土壌細菌は生物界を飛び越えて、腫瘍形成DNAを人間の細胞にも挿入できる、という新たな研究結果が発表された。Agrobacterium tumefaciensという土壌細菌は、宿主の植物細胞(のDNA)に自身のDNAを挿入し、腫瘍形成を開始させる。この細菌はこれまで植物に腫瘍を作る細菌として知られてきたが、研究者達はこのDNAが人間の細胞にも挿入出来るかどうか調べた。
ニューヨーク州立大学のDr.Vitaly CitovskyとStony Brookおよび共同研究者らは、この細菌が人間の細胞にも結合し、植物細胞と同じようにそのDNAを人間の細胞にも挿入する事を発見した。この細菌が植物同様人間に対しても危険かどうかは分からないが、しかし「確かに人間の細胞へのDNA挿入が実験室では観察出来た。自然界でも類似のことが起こるかどうかは未解明だが」とこの研究者らはProceedings of Natinal Academy of Science (訳注:アメリカ科学アカデミーの機関誌。最も権威のある科学雑誌の一つ)の最新号で述べている。
「我々の実験は実験室で行われた」Citovsky博士はロイター記者に語った。「自然界ではAgrobacteriumが危険だとは思わない。しかし、この細菌を大量に扱う仕事をする人々、例えばこの細菌が沢山感染した植物を扱う研究者や農業関係者は、取り扱いを慎重にすべきだ」と彼は云った。
この研究の意味するところは、細菌と動物の間でも遺伝子が伝搬出来るということである。
もう一つの意味は、Agrobacterium と植物細胞の相互作用に働いている基本的な生化学的、及び細胞の反応はおそらく同様に動物界にも存在する、という事である。
「現在、Agrobacteriumは知られている唯一の生物界を越えたDNA伝達の例だが、他にも同様の可能性があることは否定出来ない。データが無いだけだ。一度あることは二度あるものだ」と彼は語った。
Proceedings of National Academy of Science: Early Edition 1 to 6
“Genetic transformation of Hela cells by Agrobacterium”
by Talya Kunik, Tzvi Tzfira, Yoram Kapulnik, Yerdidya Gafni, Colin Dingwall and Vitaly Citovsky
原論文は:www.pnas.org/cgi/doi/10.1073/pnas.041327598 で閲覧出来ます。
(訳注:著者は慎重に言葉を選んでいるが、この論文は遺伝子組み換えに大きな危険性の存在する事を示唆している。ほとんどの遺伝子組み換えで外来遺伝子の挿入にAgrobacterium tumefaciens を使っており、その挿入DNAの位置に目的の外来遺伝子を導入している。従って、外来遺伝子は原理的には全て人間のDNAに入り込む可能性を示すからである。)