「3人の親遺伝子」障害の恐怖
アメリア・ヒル、2001年5月20日
オブザーバー(ニューヨーク発)
訳 山田勝己
3人の親からの遺伝子を使った不妊治療成功をを高らかに発表した医師が、生まれた15人の健康な赤ちゃん以外に、稀な遺伝障害のある胎児が2例あったことを公表していなかった。
この障害が将来子孫に受け継がれる危険性があると専門家は怖れている。 この研究には全くリスクが無いという見解にあがっている非難に対し、ジャック・コーエン医師は、「ヒステリック」だと憤る。 コーエンは1980年代にイギリスのIVFクリニックで3年ほど働いたが「アメリカで使った技術の多くはイギリスでは違法だが、だからといって非道徳とは言えない」と話す。
ニュージャージーにあるセント・バーナバス生殖医療研究所の学者達は、先月の「Human
Reproduction(人間の生殖)」ジャーナル誌で、自分達の成功を自慢している。以来この雑誌はより厳格な掲載基準を設けた。
IVFで妊娠できなかった27組のカップルがこの実験に参加し、不妊女性の卵子に、夫の精子と若い女性の卵子(の一部)とを一緒に混合した。 こうして30例中15人の赤ん坊が誕生した。母親の遺伝子は二人から来ており、全員全く健康と見受けられる。 「我々のやっていることが間違っていないというのはこの数字が示している。」とコーエンは当時話していた。発表した記事の中で、この操作が胎児にも赤ん坊にも害がないと結論している。 しかし、この時赤ちゃんは15人だったが、作り出された胎児は17だっ
たことを公表しなかった。生まれなかった胎児は、ターナー・シンドロームという染色体が全く欠損するという稀な遺伝障害で、一つは中絶し、一つは流産している。
注1: 二人目の母親からは卵細胞の細胞質のみをもらい注入した。この際、細胞のエネルギー生産工場であるミトコンドリアもいっしょに入ったと思われる。これは本来の母親とは違う母性遺伝の遺伝子を受け継ぎ、子供は細胞核に両親の遺伝子を、細胞質に二人の母親からの2種類の遺伝子を持つことになる。最後のロシア皇帝ロマノフ2世が有名な例。
注2:ターナー・シンドローム:原発性卵巣形成不全症 第2性染色体(X)が欠損し性腺の発育が遅れるなど。