報 告
平塚全農・スギ花粉症緩和イネ
隔離ほ場栽培実験説明会
『土と健康』日本有機農業研究会04年7月号より

問われる第二世代GM米
 多くの疑問――全農の組換えイネ栽培実験の説明会
       スギ花粉症GMイネに反対する会

 5月8日、午後1時から標記の説明会が平塚市にある全農の営農・技術センターで開かれた。説明会には約120人が集まり、全農および生物資源研究所側からの説明に対し、熱心な質疑が行われた。午後3時からは、併設されている隔離圃場を見学した。

 スギ花粉症に予防効果があるとする人工ペプチドを産生する遺伝子組換えイネ(以下、スギ花粉症GMイネ)の栽培実験に対しては、集まった市民、科学者、農家、消費者などから、多くの疑問と質問が相次いだ。
 説明会に集まった有志が、今後の対策を近くの公民館で考え、とりあえず、スギ花粉症GMイネに反対する会をつくり、連絡をとっていくことにした。以下は、説明会を通してわかったことや問題点である。

問われる全農の姿勢
 これまで全農は、「遺伝子組換えは使わない、安全・安心な農産物の生産を行う」と言明してきただけに、遺伝子組換えイネの実験に関わるその姿勢を問う質問が多く出された。説明会でも全農は、本来のJAグループの姿勢は変わらないとしたが、他方、遺伝子組換え技術は「将来に大きな可能性をもつ」と考えており、なかでも「健康機能性について、大きな期待なり、関心をもって」いるとも述べた。そうしたことから、スギ花粉症GM米についても、平成12年度から国の「新事業創出研究開発事業」に参画をしたという。そのなかで、全農の役割は、環境に対する安全性試験をやることになっているというのが、今回の隔離圃場栽培実験の申請に到った経緯である。

健康機能性米(食品)ではなく、コメの形をした「医薬品」

 このGM米は、「健康機能性」をもつコメとうたわれているが、本来の健康食とは正反対のものであるばかりか、食品とはいえない。スギ花粉由来の人工ペプチドがコメの中に産生するような、遺伝子組換えがなされているのである。その人工ペプチドは、アレルギーの症状が出るときに働くヒトのT細胞の働きを抑制したり、死滅させるという。このような機能は「医療」であり、医薬品の入ったコメをイネにつくらせることにほかならない。
 ところが、「健康機能性」とあえて呼ぶことで、そのような医療行為や医薬品であることがあいまいにされている。説明会では、河田昌東氏がこの点を厳しく指摘した。
要するに、健康機能性米(食品)ではなく、コメの形をした「医薬医品」なのである。そのような認識を全農も、生物資源研究所も、そして、われわれもはっきりと持つべきである。

人工遺伝子を組み込み、人工ペプチドを産生

 組み込まれる目的遺伝子は、7つ連結されたペプチド(7Crp)である。スギ花粉に由来するといっても、これは人工的につくられたものである。それが産生するペプチドも自然界にはない合成タンパクであり、これまでヒトが食べたことがないものである。しかも、遺伝子組換え作物としても、組み入れられる遺伝子カセットには、これまでも安全性問題で指摘のある抗生物質耐性遺伝子、カリフラワーモザイクウィルス、大腸菌遺伝子などが使われている。

アレルギー体質の人が食べてだいじょうぶか?

 フロアからは、自分は花粉症であるが、アレルギーについては未解明がところが多く複雑、スギ花粉だけに敏感なのではないので、同様によくわからないところの多い遺伝子組換え技術を使ったコメなど必要ないという声、また、もしも開発されたコメで他の症状がでたら、誰が補償してくれるのかという声が相次いだ。
すると、全農等との共同研究に携わる生物資源研究所の研究チーム長は、だから、研究をするのだと強調し、これまで2つの大学でマウス10匹、マウス5匹くらいで研究をしてきたが、それをラットやサルの実験、さらには臨床試験を行うには、そのための材料確保が必要、そのために全農での組換えイネの栽培も必要なのだという話をした。

 だが、説明会の資料にあった図でも、遺伝子組換えをしたコメからは、ふつうのコメとは異なる量の成分が認められた。組換えをしたコメでは、新たなペプチド(7Crp)以外に、グリテリンが多くたまっている。それは腎臓病患者にはよくないといわれる成分であり、「これでは、腎臓病で、しかも花粉症の人は食べられない」と、河田昌東氏は指摘し、そのようなさまざまなことがらについての研究こそが基礎研究として必要なのではないのかと厳しく指摘した。こうした研究が不十分なまま、屋外の栽培実験へすすむべきではない。

屋外の隔離ほ場実験栽培は時期尚早

 また、このような食品とはいえない遺伝子組換え体は、その安全性審査体制も不十分である。従来の遺伝子組換え食品の安全審査基準によっては審査することができない。薬事法による審査が必要であるが、そうした作物の遺伝子組換え医薬品の安全性審査の方法も審査基準も整備されていない状態である。そうした段階であるにもかかわらず、屋外の隔離圃場での実験栽培を行うことには疑問と反対の声が出された。

隔離ほ場も実験計画も不備

 しかも、隔離圃場を見学すると、ネット様のもので覆われており、さらに開花時期に覆うとする不織布が立てかけてあったが、安全性未確認のイネを栽培するにはお粗末であった。ネット状の覆いは、小さな虫が入れるものだし、境目のところからはねずみ、スズメも侵入可能であろう。水田で使用される水は、地下浸透させるだけである。栽培後の株、残滓は土壌に鋤き込むとされ、焼却処分の措置はとられない。これでは環境影響に十分に配慮したものとはいえない。

 同時に行われるという、交雑試験についても不十分な設計である。2アールの水田の周囲に30ポットのモチイネを置き、稔った米(種子)にウルチが出るキセニア現象があらわれることをもって交雑率を計るという。30ポットという少数の実験では、交雑はないという結果がでることは目にみえている。その結果が実用化の際にお墨付になるのだろうか。

研究と実用化に一線を画すというが・・・

 全農は、遺伝子組換え技術については、「適正に評価なり、判断をする必要がある」「危惧される安全性についても、我々自身もみきわめる必要がある」、そうしたことを、「開発に取り組むことを通して、技術、情報を蓄積していきたい」と、実用化とは一線を画していることを強調した。

 現在は、基礎研究段階であり、その基礎研究をマウスやラットでさらに続けるために、ある程度の組換え米の確保が必要であるので、そのためにも隔離圃場で栽培する必要があるという。だが同時に、交雑実験など、環境影響評価のための隔離圃場実験も併せて行うことになっていると、歯切れが悪かった。

 実用化については、生産における交雑を避けられる圃場の確保、区分された流通などの確保が確実におこなわれなければやらない、また、消費者の理解が得られなければやらないと言明した。
 だが、生物資源研究所が主導するスギ花粉症GM米への取組み自体は、実用化を急いでいることがありあり。全農は、「もちろん、生産者団体なので、茨城の谷和原村で起こったような、あのような栽培(除草剤耐性遺伝子組換え大豆の作付)については、我々は、JAグループとして、断固、反対している」と述べるが、研究だけかと問うと、「実用化できるものなら、したいということだが、あくまで、研究開発」と、何とも歯切れが悪く、矛盾がでた。

遺伝子組換えイネの交雑・混入をなくすのは無理

 もしも実用化された場合に、外見で区別がつかない組換え米を、一般の米との交雑、混入が生じないようにするのは至難の業である。生産、流通、加工で区別すると言っているが、表示偽装の続出する現状でそうした分別が確保できるのか疑問も出された。

こんな説明会では納得できない!!

 説明会では、集まった消費者、平塚市民、近隣の農家、消費者団体、生協、生協組合員などの理解が得られていないことが目の前で明らかであった。それにもかかわらず、栽培実験を実施するという方向を変えず、一方的な説明を繰り返すだけであった。
 平塚市からの参加者は、「周りの農家にきいたが、そんなこと知らない、と怒っていた」、小田原からの農家は、「四月一九日に農協組合長や役員に説明があったというが、田んぼをやっている農家は、そんな時期は忙しくて出られない。きょうも無理して出てきた。準備が足りないのではないか」と厳しく非難した。

 説明会を再度開催せよ、行政を入れた説明会を開催せよという声に対して、全農は、「今日の説明会の内容を行政側に伝える」と言うにとどまった。



以上、『土と健康』日本有機農業研究会04年7月号に掲載された記事を、久保田裕子氏より提供していただきました。