県議かしわぐま光代氏による、
遺伝子組み換えイネについての議会での一般質問
02/06/26


以下、その要旨
県農業総合試験場における遺伝子組み換えイネの実験について
モンサント社との共同研究は中止し、厚生労働省に認可申請すべきでないと考えるがどうか。
開発は多国籍企業に“お墨付”を与えることになる。日本国内への影響ははかり知れないがどう考えているか伺う。
主食である米の遺伝子組み換えが通れぱ、米以外の農作物全ての遺伝子組換え作物化の口火を切ることになるが、県の認識はどうか伺う。

国民はBSE問題によって食の安全に対する国の危機管理の危うさを嫌というほど思い知らされた。未知の分野に足を踏み入れるリスクは大きい。生産者・消費者に対する不利益・損害を与えることになれば開発した県にも責任が生じる。県の考えを伺う。

以下、質疑応答
    質疑については(黒文字)
    応答については●(青文字)で表記しました。
かしわぐま光代氏

食の安全について(遺伝子組み換えイネ)
 30億人の人口を抱えるアジアの主食は「お米」です。命の糧(かて)である米を作ってきたアジアの農村が、そして農家の暮らしが大きな転換点をむかえている、と言われています。
 1960年代後半から、アジア各国の米の生産量は飛躍的に増大しました。米の品種改良と、肥料と農薬を大量に投入することによって始まった「緑の革命」と呼ぱれる農業の近代化です。
 貧困と飢餓からの脱出をかかげて「縁の革命」は姶まりました。しかし、この革命は確かに飢餓は軽減できたものの、肥料と農薬の大量投入によって、生態系が破壊され、土が疲弊し収量が落ちました。
 肥料代、農薬代、機械代等々の諸経費がかさみ農家の暮らしを圧迫し、豊かになるどころか、逆に借金が増えてしまいました。農業の近代化「緑の革命」に陰りが見えています。

 「バック・トゥ・ネイチャー」これはマイケル・J・フォックス主演の映画の題名ではありません。「バック・トゥ・ネイチャー」これはインドネシア政府の農業に対する新しい指導方針だそうです。
 韓国では、環境農業育成法ができました。この法律は自然農法を行う農家には補助金を出す、というものです。環境と生命を守るためには農民と消費者が1つになることが大切だと、農林部長官が提唱し、今、国を上げて取り組んでいるそうです。
 アジアの国々が自然生態系を無視した近代化農法に見切りをつけ、新たな試みを始めました。

 ところで、私は2000年の6月議会において、遺伝子組み換え作物の危険性について、述べさせていただきました。特に県農業総合試験場と日本モンサント社共同で開発している遺伝子組み換えイネ「祭り晴」について問題を提起いたしましたが、この除草剤耐性イネの開発が最終段階を迎えており、もう1度、この開発の中止を求めて質問させていただきます。

 遺伝子組み換えは、作物の長い進化の過程においても決して生まれることのない改造品種であり、県当局がお答えになっているような品種改良とか、自然界で起こる突然変異でもありません。このイネが作付けされることになれば花粉の飛散などにより自然生態系に計り知れない悪影響を及ぼすぱかりでなく、食の安全がおぴやかされ、また、イネ生産農家のあり方が大きく変わり、日本の食科政策の基盤が崩れることになります。日本政府や県の対応を見ておりますと、アジアの国々が緑の革命の反省に立って農業政策を転換しているのに比べ、相変わらずの経済優先、生産者・消費者は二の次といった政策からぬけ出せずにいることを歯がゆく思います。

 さて、県当局もご存知の様に、来たる7月6日、名古屋市において「遺伝子組み換えイネ」の開発をストップさせようと全国のイネ生産者、販売者、消費者の団体が結集し、また、10万人を越えるであろうと思われる請願署名が神田知事に提出される予定となっています。

 そこで、愛知県が環境と生命を守るため、勇気を持って決断していただくよう期待しつつ質問いたします。
質問の1点目は、食の安全性に問題があり、生態系に悪影響を及ぼす遺伝子組み換えイネ」のモンサント社との共同研究は中止し、厚生労働省に認可申請すべきでないと考えますが、県当局、知事のお考えを伺います。
 質問の2点目、県の農業総合試験場での開発、という事実こそが大きな意味を持っています。なぜならば日本の公的な機関が“お墨付き”を与えたということになります。多国籍企業の思惑に手を貸すことになります。アメリカ国内ではすでに遺伝子組み換えイネの商業生産を待つばかりと聞いております。米国からの安価な遺伝子組み換えイネの輸入がもたらす日本国内への影響は計り知れないと思います。いかがお考えでか伺います。
 質問の3点目、日本人の主食である米の遺伝子組み換えが通れぱ、米以外の農作物全ての遺伝子組み換え作物化の口火を切ることになります。食の安全について最も敏感であるべき行政として、この点についてのお考えを伺います。
 質問の4点目、安価な遣伝子組み換え米が流通段階で不正混入することは答易に想像できます。市場の大混乱は、BSE以上ではないでしょうか。私たちはBSE問題によって計り知れない恐怖を味わい、また、食の安全に対する国の危機管理の危うさをいやと言うほど見せつけられました。人間の英知を越えた未知の分野に足を踏み入れることのリスクはあまりにも大きすぎるのではないかと思います。
 消費者に対しては、食の安全に対して、生産者に対しては生産基盤の崩壊や、流通段階でおこる混乱など様々な不利益、損害を与えることにでもなれぱ、当然、それを開発した県にも責任が生じます。その点についていかがお考えですか、伺います。

農林水産部長(小野寺健氏)
 県農業総合試験場での遺伝子組みかえ稲実験についてのお尋ねのうち、まず、モンサント社との共同研究は中止し、食品としての安全性審査も申請すべきではないとのお尋ねでございますが、この研究につきましては、組みかえ技術の習得や系統の育成を目的として行っておりますが、いずれも所期の目的はほぼ達成しつつあると認識しておりますので、ことしの研究成果を見て判断したいと考えております。
 また、厚生労働省への安全性審査の申請につきましては、昨今の食品安全性に対する関心の高まりなどに十分配慮して慎重に対応していきたいと考えております。
 次に、多国籍企業に手をかすこととなるがとのお尋ねでございますが、本県といたしましては、稲作の低コスト化を推進する上で、モンサント社が持っている除草剤耐性遺伝子の利用が最も効率的と考え、一方、モンサント社としても、稲の育種に実績を持つ本県農業試験場の技術力を評価して、共同研究を行ってきたものでございます。
 また、安価な遺伝子組みかえ稲の輸入がもたらす日本国内への影響についてのお尋ねでございますが、まだ遺伝子組みかえ稲の商業生産はされておりませんし、遺伝子組みかえ農産物の日本国内への輸入に当たりましては、国の安全審査を受ける必要がございます。加えて、現在国におきましては農業の持つ多面的な機能の維持や食料安定供給に取り組み、自給率の向上に努めているところでございます。
 このようなことから、議員御指摘のような懸念はないものと考えております。
 次に、米の遺伝子組みかえが通れば、米以外にも口火を切ることになるのではないかとのお尋ねでこざいますが、遺伝子組みかえ植物の食品としての安全性については、厚生労働省において組みかえDNAの安全性審査基準によりそれぞれ個別に厳格に審査が行われることとなっております。また、県といたしましても、食の安全性の確保つきましては最も重要なことと考えております。
 次に、さまざまな影響が出た場合、開発した県にも責任が生ずるのではないかとのお尋ねでございますが、現段階では具体的な問題は生じておりませんし、今後もそういった問題が生じないよう細心の注意を払ってまいりたいと考えております。
 以上でございます。

知事(神田真秋氏)
 遺伝子組みかえの技術でありますけれども、これは将来の食品問題などの課題を解決するものと期待をされて、さまざまな分野で研究されておりまして、本県におきましても、稲について研究を進めてきたところであります。
 こういう流れでありますけれども、米は私どもにとりましては主食でありますし、常に口に入れるものでもございますので、私はこの議場でもかねてから、この取り扱いについては慎重にやるべきだと申し上げてきたことは御承知のとおりであります。
 ところで、本年1月に取りまとめました県政モニターのアンケート、その調査結果によりますと、遺伝子組みかえ食品につきましては、県民の皆様方が「絶対食べたくない」「できれば食べたくない」という声が大変多うございまして、このような県民の皆様方の御意向は真摯に受けとめなければならないと考えておりますし、さらに、昨今の食品に対するさまざまな出来事を見るにつけ、改めて食品の安全性について一層の配慮が必要だと考えているところであります。
 したがいまして、今回の研究成果のその取り扱いにつきましては、今後、慎重に判断しなければならない、そのように認識をいたしております。

かしわぐま氏
 名古屋に500人規模の皆さんが全国からいらっしゃるそうです。前日の5日金曜日には、県の農業総合試験場に100人が見学をさせていただくことになっているんだそうです。この点についてはですね、県が積極的に情報公開に努められているという姿勢を高く評価し、お礼を申し上げたいというふうに思います。
 遺伝子組みかえ稲が着々と開発が進んでいて、聞くところによりますと、開発はするけれども商品化をしないからみたいな話なんですが、商品化を目的としない開発なんてあるのかなと思うんですね。
 ですから、周りの状況を見ながら決めていくということも、なし崩し的にといいますか、少し消費者や生産者がおとなしくしていたらどうなっちゃうんだろうなという不安があるわけです。
 食品の問題については、先ほども申し上げましたように、国の対応を見ていても、それから企業を見ていても、本当に消費者を守ってくれるんだろうかという不安がつきまとっているわけです。ぜひ県も市民の立場に立って慎重にやっていただきたいというふうに思います。
 それで、知事についてお何いします。先ほど申し上げましたように、アジアの近代化農法が行き詰まっているというお話をさせていただきました。知事は、日本の農業の進むべき道、理想的な農業はどういうものだと考えていらっしゃるのか、御質問させていただきます。
 以上です。
知事(神田真秋君)
 質問の御趣旨を正確に受けとめたかどうかわかりませんが、食品について所見をということでありますけれども、まことにグローバルな時代でありますので、食品問題につきましても広い目でとらえ、考えなければならないわけでありますが、まず第一に、安定的に食糧、食品が提供できる体制をつくること、それに加えて、最近では、安全なものであるということが重要になっているものと存じます。
 今回御質問いただきました稲の遺伝子組みかえの問題につきましても、まさにこの両面にかかわる問題であろうと思っております。農総試で研究しておりますことは、この安定的な食品供給という点で研究することは大変意義のあることだと思っておりますけれども、一方で、安全という点を考えますと、十分慎重な対応が必要だと思っておりますので、これからそういう点を頭に置きながら進めてまいります。

以上

かしわぐま光代氏のコメント

 遺伝子組み換え食品に関連した質問は、本会議、委員会、私の所属している会派等多くの機会を利用して発言してまいりました。

 この6月議会は、運動されている皆さんのお力を借り、本会議にて質問いたしました。「イネの実験を中止すべきだ!」と迫りましたが、行政は一度始めた事業はどんなことがあっても途中で止めない、というのが鉄則ということなのですね。残念です。知事は「安心・安全」が何より大切と慎重な答弁でしたが。