(1) | GMナタネ(キャノーラ:Brassica napus)は花粉をつけますが、自分の花粉では受粉出来ない自家不和合性という性質があり他家受粉性です。つまり、複数の個体が花粉を交換しないと種が出来ない性質を持っています。認可されたGMナタネの中には野草と同様に雄性不稔性(花粉をつけない)と稔性回復性(別の遺伝子で花粉を回復)の両方を持つものもありますが、その結果もやはり他家受粉性のようです。しかし、この自家不和合性は絶対ではなく、開花後数日たてば自家受粉出来ることも分かっていて、このメカニズムについてはまだ未解明の部分があるようです。いずれにせよ、自生GMナタネは通常立派な種子を沢山つけています。 |
(2) | ナタネの仲間(アブラナ科)は種が違っても交配し雑種を作ることができる特殊な進化を遂げたといわれています。これら雑種は外形的には種子親(ナタネの花粉を受け取った株)によく似た形態をとります。例えばこれまで私たちが豊川市内で見つけたカラシナ(Brassica juncea)とGMナタネの雑種は見かけはカラシナですがRR陽性、松坂市内で見つけたブロッコリー(Brassica oleracea)との雑種も外形はブロッコリーでRR陽性でした。これらの雑種は種子はつけるものの稔性は悪く、種子鞘には種子が不十分にしか入っていませんでしたが、これらの花には花粉がありました。これらの雑種は外形的には種子親に似ていますが、GM+であることから、GMナタネの花粉で受粉したことは明らかです。 |
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一方、2009年に初めて国道23号線で見つけた「雑種」はそれまでとは外形的に全く違い、細かく枝分かれした上、葉も花もナタネより小さく、何よりも多くの場合、種子が全くついておらず(種子鞘も極小)不稔は明らかでした。これをもってこれまでは「雑種」と判定していました。
これらの多くはGM陽性率が高く、見かけはナタネとは全く違っていても、RR+、LL+、RR・LL+もありました。 |
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植物が花粉を作るか作らないかは、細胞内のミトコンドリアにある遺伝子と細胞核にある遺伝子の相互作用で決まっていて、一般に野生植物ではミトコンドリアに花粉を作らせない遺伝子(雄性不稔)、細胞核にそれを抑制して花粉を作らせる遺伝子(稔性回復)があることが分かっています。他方、多くの栽培植物ではミトコンドリアに雄性不稔遺伝子がなく、核にも稔性回復遺伝子がないことが分かっています(収量増などの目的で品種改良したといわれる。詳細は省略)。
以上のことから、この雑種が花粉を作れないのは種子親(雌しべ:花粉を受け取る側)がミトコンドリアを持つ野生植物、花粉親(ミトコンドリアを持たない)がナタネと考えられます。これらが交雑した結果、種子親の稔性回復遺伝子が機能しなくなり、花粉が出来なくなったと考えられます。雑種の相手は、その形態からハタザオガラシやイヌカキネガラシが疑われていますが特定はできていません。しかし、花粉は遠くから飛んできますが、出来た種子は種子親の近くにこぼれ落ちたはずなので、雑種の近くに存在するアブラナ科の雑草を特定できれば、相手は分かるはずです。 |
(5) | こうした事情から、「雑種」の花粉を調べることで、雑種か否かをより正確に特定できる可能性が分かりました。これは偶然「雑種の花には花粉がない」という事実を発見したことから始まったのです。6月12日に採取した雑種の雄しべの顕微鏡写真とまとめの表を見ても明らかに雑種には花粉がない例が多く、ナタネの殆どには花粉があります。花粉の見えないナタネも1例ありますが、これはもしかしたら種子親がナタネ(雄性不稔遺伝子を持つ)で野草が花粉親の可能性もあります。あるいはナタネの未熟な雄しべをみた可能性もあり、今後検討が必要です。 |
(6) | 例外的にこの雑種にも特定の枝に種子がついていることがあります。種子の大きさも様々で、ナタネのような大きな種子もあればカラシナのような小さな種子もあります。同一の雑種株に複数種の種子がついている場合もあり、これは花粉がナタネの場合、あるいは他の雑草(種子親と同じハタザオガラシやイヌカキネガラシ)の花粉(稔性回復遺伝子を持つ)から来ている可能性があります。これらの種子を栽培してその形態などを調べる必要があります。実際、河田が昨年栽培した雑草の種子からは、形態がナタネとカラシナが生えてきました。しかし、石川(遺伝子組換え食品を考える中部の会)が栽培した雑種の種子から生えた植物は、はじめはナタネのようだったが、種子をつける時期になると雑種らしくなったそうで、今後も実験を続ける必要があります。 |