三重県四日市港と周辺搾油工場付近に自生する
遺伝子組換えセイヨウ菜種の確認について


遺伝子組換え情報室 河田昌東

 
これは2004年6月29日に農水省が公表した「原材料用輸入セイヨウナタネのこぼれ落ち実態調査」の結果、茨城県鹿島港周辺に遺伝子組換えセイヨウナタネの自生が発見されたことを受けて、「遺伝子組換え食品を考える中部の会」が予備的に行った調査の結果である。

(1)
調査日:2004年7月21日
(2)
調査場所:三重県四日市港3号埠頭周辺と同市内搾油工場周辺の路上
選定とその理由:名古屋税関によれば、同税関管内の港で海外からの搾油原料ナタネ輸入を行っているのは、静岡県清水港(年間21〜22万トン)と三重県四日市港(年間約13万トン)である。四日市港の荷揚げ場所が第三号埠頭であり、ここにはカナダから搾油用ナタネが輸入され、そこから市内搾油工場へ搬出が行われているので、その周辺を調査対象とした。なお今回は秋に芽生えた個体は結実期を過ぎており、7月中旬のカナダではナタネの開花最盛期であるが日本の夏は高温過ぎて正常な個体の試料採取は困難と思われたので、来春の本格調査のための予備調査の予定であった。静岡県清水港は今回は調査しなかった。
(3)
確認された事実:
(3−1)ナタネ類の自生:
上記の通り秋に芽生えたと思われる個体はすでに枯死しており、植物体の採取は当初困難と考えられたが、現場に行くと少なからぬアブラナ科植物が生育中の状態であった。春以降に芽生えたと思われる個体の多くは開花中期から後期であるが、総じて結莢結実の状態は異常に悪く、一部は栄養成長期の個体もあった。
(3−2)採取試料と種の同定:

第三号埠頭周辺路傍には少なからぬアブラナ科植物が自生していた。形態観察から数種のアブラナ科植物を採取し筑波大学元教授、生井兵治氏に種の同定をお願いした。第三号埠頭では生育中の植物体11株(S−1〜S−11)、四日市市内の搾油工場(K社)周辺路上では生育中の3株(K−1〜K−3)が採取され、合計14株を採取した。他に、第三号埠頭周辺では枯死状態のアブラナ科植物と思われるもの2検体を採取した。生井氏にはこのうち12株の同定をお願いした。同氏によれば、日本の四日市ではカナダの夏とは異なる高温のためか、花がついていないものや花がついていても不完全だったりで、断定はできないが、K−1、K−2、S−1〜S−8はセイヨウナタネ(Brassica napus: ナプス種、カナダのカノーラもこれに入る)、S−9はラパ種(Brassica rapa: 在来ナタネ・小松菜・白菜などと同種。北米では畑の雑草として生えているという)と思われる。S−10とS−11株はセイヨウナタネ(ナプス種)、あるいはセイヨウナタネと在来ナタネ(ラパ種)との交配種の可能性もある。さらに、我々は検出手段を持たなかったが、農水省によれば鹿島港周辺の自生ナタネには、雄性不稔と稔性回復の一代雑種であるMS−RF系ナタネがあった。生井氏によれば雄性不稔細胞質利用の一代雑種後代には結莢性や結実性の低い個体が出現し、輸入種子は第二代であり、自生ナタネにはその後代も含まれる可能性が高いので、採取試料中にはこうした個体が存在する可能性もある。なおこのMS−RF系統には除草剤グルフォシネート耐性遺伝子と抗生物質ネオマイシン耐性遺伝子が組込まれている。
(3−3)遺伝子組換え体の検査:

検査はモンサント社の除草剤耐性組換えタンパク質(CP4EPSPS)を検出するアメリカのネオジェン社の簡易試験検査キットを使って行った。採取試料の青葉の一部を切り取り、試験紙でチェックした。極めて明瞭に結果が出、疑問の余地は無かった。

K−1、K−3とS−3が陽性、他は陰性であった(3/14:21.4%)。枯死植物は陰性であったが生の状態で検査しなければ断定できない。
(4)
調査結果へのコメント:
(4−1)
カナダのナタネ、カノーラは現地では厳寒の冬を越せず春播き品種だが、三重県では越冬可能と思われる。従って、結実期を過ぎた枯死個体は日本で栽培されているセイヨウナタネと同様、秋に芽生えた個体であり、開花中の個体は春に芽生えたもの、栄養成長期の個体は秋に芽生え枯死した個体に実った種子、または輸送中か荷役中のこぼれた種子が晩春から初夏に発芽した個体と考えられる。いずれにせよ、国内で栽培されているセイヨウナタネがこの季節にこの場所で生育するはずも無く、花器特性、特に雄蕊の形状から見ても明らかにカナダ由来のカノーラである。現に、我々が調査した当日もサイロからのトラックへのナタネ積み込みが行われていたが、周辺にこぼれた種子を数羽のハトがついばんでいた。こうした情景は恐らく日常的に存在すると思われ、管理は極めて難しいと思われる。
(4−2)

検出したモンサント社の除草剤耐性CP4EPSPSタンパク質は、その遺伝子がナタネではカノーラに組込まれ、カナダ産ナタネの約30%を占めることから、今回検出された遺伝子組換え体3体は、カナダ産カノーラまたはその交配種である。また、今回我々は検出しなかったが、陰性だったものの中には、生井氏の示唆によれば、結実性の悪さなどからアベンテイス社のPAT遺伝子(除草剤グルフォシネート耐性)と抗生物質ネオマイシン耐性neoを持つ、雄性不稔・稔性回復の一代雑種MS1−RF1、MS1−RF2,MS8−RF3またはこれらと日本で栽培されているセイヨウナタネあるいは在来ナタネやハクサイ・カブなどラパ種との交配種が存在する可能性もある。
(4−3)

今回の調査で、港以外の搾油工場周辺での組換え体検出は国内で始めてである。かねてからこうした汚染は懸念されていたが、現実であることが証明されたもので、他の類似施設、例えば家畜飼料工場などの周辺でも同様の組換えナタネ自生の可能性は高い。国または地方自治体や港湾管理当局は早急に全国のこうした危険性のある場所を調査し、対策を立てる必要がある。アブラナ科植物は他家受粉性が高く、わが国で栽培または自生している同種のセイヨウナタネをはじめ近縁のアブラナ科植物も多いことから、このまま放置すれば組換え遺伝子が各種の自生種や栽培種と遺伝子組換え品種との自然交配によって自然界に広範囲に広がり、取り返しがつかなくなる恐れがある。ナタネ街道などの取り組みにとっても、花粉飛散によって知らないうちに組換え遺伝子が侵入することは大きなリスクを負う。
(4−4)

オランダの研究者らによれば、モンサント社の除草剤耐性タンパク質CP4EPSPSには、イエダニのアレルゲン、Derp7のエピトープ(注:抗体が認識するアレルゲンのアミノ酸配列)が含まれており、組換えナタネが広く分布することになれば、新たな花粉症発生の恐れもある。