シンポジウム

安全な食はこうつくる

日 時 :
2004/2/15(日)
場 所 :
愛知県中小企業センター 講堂

このページでは各パネラーの討論の内容を要約しています


河田昌東(コーディネーター・名古屋大学理学部)
遺伝子組み換え作物の反対運動から派生して、今回の食と農の問題に至っている。
名古屋の由利厚子さんの流域自給の考え方を思い出す。

食に対する考えが高まってきている。雪印、BSEなど、農と食に関する問題が起こっている。ようやく初めて食べ物の生産体系にまで至った。

食と農について真剣に考えなくてはいけない時代になった。環境が大きく変わりつつある。気象変動が世界中で起こっている。ワールドウォッチ研究所レスターブラウンは、食が逼迫してくると真っ先に被害を受けるのは日本だとさえ言っている。

今や、危機である。がそれは反面チャンスでもある。解決は簡単には出ない。まず問題点を出すところからはじめて、新しい運動につなげて行けたらと思う。

太田進康:(パネラー・愛知県農水部農林総務課課長補佐)

農林総務課、地産地消と農林水産部の食の安全安心。食品事業者の食品表示の指導監督。
愛知の取り組み:
いいとも愛知運動 平成10年から行っているが、この運動はほとんど浸透していない。

生産者と消費者が近付ければ・・。イート・モア愛知、というのが目的。県としては地産地消を市町村に宣伝してまわっている。愛知県では農林水産物を使ってもらうように、そして国としては国産を・・。

できるだけ身近で目で見て納得したものを使うという風に考えたらよい。

5年経過して、大型スーパーで『愛知県産』というのぼりやコーナーをつくってくれるようになってきた。

愛知県は商工業と農業のバランスが取れている。いいとも愛知運動の主旨は、県内産を買ってほしいということと、農業の持つ多面的機能(環境など)についても重要視すること。愛知県の農業と林業の経済効果は1年で約1兆円あると試算されている。

小川洋治:(パネラー・あいち生活協同組合役員)

消費者とともに流通に携わる立場として話したい。消費者の意識、現状。生協の問題意識について。

篠原さんの話と重複するが、2月4日の農水の発表。食料自給に対する不安の度合いが高まっている。食についての事件がこのところ続いているのもその要因。

日生協の食の安全の調査:
80%以上の消費者が安全性を求めている。一般の消費者も不安なものは買わないという風潮になってきている。食についての不安感が高まっている。

日本の食料自給が40%を切っている。
大半が食肉のための飼料と食用油に使われている。米、みそ汁、漬物、干物を朝食に取るのと、洋食のパン食とでは70%と40%という試算がなされている。

食生活の大きな変化が自給率を大きく下げた。40年前鯖田豊之の『肉食の思想』という本で、肉食が進むことで問題が起こるといっている。世界一の長寿国、沖縄が日本一だが、男性が26位に転落、女性の1位も危うくなっている。全国的にも平均寿命が下がりつつある。

解決策としては伝統食文化への回帰、食育教育の必要性。自然環境の危機をも含めて、地産地消をすすめてゆかなければいけない。

稲葉光圀:(パネラー・NPO法人民間稲作研究所長)

農家向けなので消費者には理解しにくいかもしれない。

農家に有機稲作を普及しているが、そのためのパンフを無料で配れるようになった。こういうための運動に国から財政援助が得られるようになった。

日本農紙に有機稲作の記事を連載するなどは、一昔前には考えられなかった。食の安全環境のための技術をつくらないと、日本の未来が見えてこない。

有機稲作の技術は昭和51年の冷害以後に作り上げられたもの。

むかし田の草取りと田植えは重労働だった。田植え機は実に画期的なものだったが、イネにとっては迷惑。田植え機だといっぺんに5、6本植えてしまう。密植のおかげで紋枯れ病、いもち病が多発。この問題を解決しないと病気は防げない。

種もみを機械で播くときたくさん播けてしまうため、苗が過密に発芽してしまう。精密に薄播きをすることで、病害虫を画期的に減らすことができる。それには生苗の2本植えが基本となった。

昭和63年には農薬は必要ないというレベルに達した。除草剤だけはしょうがないだろうと考えていたが、ダイオキシンの問題が発生したため、全ての農薬を使わずに稲作をする方法へと方向転換した。

技術としてはここまで確立したにもかかわらず、公では有機稲作の研究をしていないため、その技術が浸透していない。最先端の技術も大切だが、有機の技術もこれからは必要となる。

松沢政満:(パネラー・新城市・福津農園)

江戸時代を超える循環型農業をしたいと考えている。

有機農業の定義が3年間無農薬無化学肥料とされたが、かけ離れたところで有機認証制度が動き出してしまった。福津農園では持続的な農業を確立するのがテーマとなっている。地球的な問題としてのエネルギー、環境、貧困(人間性)の問題を解決するための農業が夢。

地域では最初変人扱いだったが、ゴルフ場反対、産廃反対の運動をしてきた中で、いつの間にか地域の環境が改善された。

現実の農政では、農薬取締法、トレーサビリティの問題を生産者に負い被せてきている。

JAS有機は不合理。旧農業基本法(農業で利益を得る)の思想に基づいている。近代農業は世の中に大きな負債を残してしまう。循環型では社会問題を解消してゆく方向に進むことができる。

農業体験学習の教育は効果が大きい。消費者との密接な関係を持ってゆける農業をしている。

藤井 潔:(パネラー・愛知県農業総合試験場)

名古屋生活クラブのパンフで紹介されている大鹿村の小林さんは学生時代に感銘を受けた人。
一人当たりのエネルギー消費量を増やすのが進歩だとすれば、その行き着く先には荒廃があるのかなと思っていた。自分が公務員として農試に勤めたいといったとき、小林さんの奥様にいさめられた。

それ以後農業試験研究部、技術開発に25年。最近は小麦の品種改良も。

一般的にはコシヒカリが主要品種だが、愛知の日本晴れがしばらく人気品種だった。米余りの時代からコシヒカリに人気が集中し出した。アキタコマチ、一目ぼれ、生え抜き、日の光などはすべてコシヒカリの子供。宮城県もコシヒカリになった。

しかしながらおいしさの反面、病害虫とくにいもち病に抵抗性がなくなり農薬依存性が高まった。愛知にはいもち病の品種改良には100年の歴史がある。あいちのかおりSBL(S=縞葉枯れ病、BL=いもち病という意味で、これらの病気に抵抗性がある)、祭り晴、朝日の夢、大地の風で愛知の稲作面積の半分に達している。あいちのかおりはおいしいのに、病害虫に弱いという現実があったが、交配を繰り返す中でSBLの品種を作り出すことができた。真性抵抗性での育種では、3年目に抵抗性が崩壊してしまうというひどい結果がでてしまっていた。それに対してSBL種でほ場抵抗性を持たせたものは、葉いもちは出ても、肝心な穂いもちが出ないという画期的なもの。

今後、パンや味噌煮込みうどん、きしめんも作れるような小麦を作りたい。

河 田:

食の安全のためには消費者の消費行動、生産技術が大切。

まず消費者の側から話をすすめたい。
安全性を求める、安いものを求めるという相反する要求にたいし、どういう苦労があるか。

小 川:

生協側にはしっかりとしたポリシーが必要だ。当初、一般市場物を流通していたが、全て切り替えるのに非常に苦労した。

見た目が悪くなる、大きさなど選別もきちんとしていない。最初は抵抗もあったが、啓蒙の結果改善された。
今の消費者は食品に対する知識がない。食育の重要性を感ずる。さもないと将来たいへんなことになる。社会全体で進めなければいけない。

太田:

食育の推進。消費生活モニター、県政モニター、消費者懇談会、消費者団体との懇談会などに出ている。

最近の5年間で化学農薬肥料の使用はそれぞれ2割減になっている。BSE以前は消費者は安ければいいという考えがあったが、以降は安全なものに近付きたいという意識になった。食にたいする考え方が変わった。

愛知では食品表示の110番、ウォッチャーを立ち上げている。

子供の学校給食。金銭面の制約が大きいため、学校栄養士がひとりで苦労している。小学校で240円程度、中学で300円強。制約の中での給食はたいへんだ。学校単位の場合はまだいいのだが、センター方式の場合入札方式で業者を選ぶため、安ければいいということになる。

また市町村で野菜を調達する場合、地元の八百屋ということになる。地元産より輸入野菜が安いので、そちらが優先してしまう。

食育を充実させることが大切。
なるべく生産現地を見てほしいということで、山、海、大地の交流会を公募でバスで行く企画も行った。50年ものの杉の木が一本7000円が生産者の手取りとなってしまっているような現状を消費者に見てもらったりしている。

篠 原(次の旅程のため時間がないのでこれで退座):

旬産旬消についても考えておきたい。1970年代に生まれた世代に一番問題がある。その親たちが悪かったのが原因。旬産旬消の忘れぶりはひどい。

イチゴの生産量の一番多い月はなんと12月。それも異文化の宗教のクリスマスのために。供給も消費も狂っている。両方とも直してゆかないといけない。

地産地消の言葉が一般化してきたのは狂牛病から。日本人は痛い目にあわないとわからない。平気で安い輸入の野菜を使っている。

フランスでは少なくとも日本の5倍以上のお金をつぎ込んで、学校給食に取り組んでいる。エコマネー、地域通貨などという前に、地元の農産物を使うことをはじめなくてはいけない。地元でまわせば経済もまわるようになる。文句を言う前にまず自分が正さなくてはいけない。

現状に対して悲観はしていない。1982年環境保全型農業と22年前に言ったとき、農水の中で奇人扱いされた。農薬関係の予算を削ろうとしたところ、「おしゃもじばばあどもと一緒になって食べ物の安全などと言って、科学技術を信じないのか」といわれた。それが今では環境保全型農業推進対策本部などという部所ができている。確実によい方向に進んでいる。

日本が強行に拒否すればBSEにおいても米国は折れるだろう。疑わしいものは買わないという意識を消費者が明確に持つようにしてもらいたい。

河 田:

全国5位の農産物生産県なのに、スーパーなどで県産の野菜を見かけない。愛知県はカリフラワー、キャベツは全国1位の生産高。にもかかわらず輸入野菜があふれている。そういった状況について・・・。

松 沢:

生産者は食べ物を作るという意識を持って、顔の見える産消関係を持てるように心がけるべきだ。地産地消、旬産旬消といいながら、矛盾だらけの愛知県には参る。流通システムを太く短くするようにするべきだ。

河 田:

食べ残しの問題。日本の米はちゃんと自給されているにもかかわらず、食べ残されている。そのほとんどが海外からの輸入食糧。BSEなどは食のバブルの崩壊の前触れなのではないか。

訳のわからないものは食べないという意識が必要。

会場から:岐阜県御岳町の生産者(女性)

消費者教育、食育、環境教育の重要性。学校の参観日で、東南アジアのエビの養殖によるマングローブの伐採の問題について学んだ。そのとき初めてそれを知って、それ以後そのたびごとに環境についての学習の機会をつくってもらうようにしている。親と子が食について学ぶことの重要性を痛感した。

1970年代の親として、地域でも食についての認識不足を感ずる。知らず知らずのうちに、子供に対して罪を犯してきてしまった。学校教育に一貫した食育に対する認識が必要だ。

河 田:

食の安全性に目が行ってしまうが、表示の問題が浮上する。トレーサビリティなどは誰が食べるかわからないという前提に基づいたシステム。
地産地消、旬産旬消ではそのシステムが必要ない。

稲 葉:

伝統的な食文化の回復が話題になる。食文化の激変で自給率が40%を切った。個々の消費者がどれくらい真剣に考えているのかが問題。

イネの技術的な問題の前に米についての認識もなさ過ぎる。米は残してもいいが野菜は食べなさいという認識があったりする。過去の日本では米、麦、みそ汁、たくあんなど旬の食べ物しか食べていなかった。それでも体がつくられていた。肉を食べないと体ができないという考えは間違っている。きな粉もちがそれと同じ役割なのに気付いていない。

教員のとき、きな粉もちを生徒に食べさせると、その原料が大豆だということも知らなかったりした。みその良し悪しを見分ける目安として、袋に穴があけてあるか否かで判断できる(菌が生きているか死んでいるかということ)。

インフルエンザで卵が問題になっているが、なにも毎日食べなくてもいいのではないか。もっとシンプルな食生活があるはずだ。

稲作について。長いあいだ化学肥料で稲作がされてきたおかげで環境汚染が起きてきた。以前より安全にはなってきているが無農薬と慣行とでは大きな違いがある。田んぼの生き物に大きな変化がある。有機3年目になるとそこにツバメが飛んでくるようになる。ユスリカが発生するようになり、燕が、クモ、カエルなどが増えると食物連鎖ができ、いろいろなミネラルが増えるようになってくる。マンガン(母性本能)、マグネシウム、亜鉛(若い男性の精子の激減)など。

食材に含まれるミネラルは慣行農法のものでは非常に少ない。子供の食生活の崩壊が原因で、子供の精神にも異常をきたしてきている。

河 田:

安全な食のためには環境も正さなくてはいけないということ。
まずは国産の食材を使うことの重要性について。

藤 井:

小麦の育種に足かけ4年目。北海道が50%、北九州、北関東、東海の順。生産量も増えてきている。自給率は過去10%ぐらいだったのが、今では日本のうどん用の小麦の50%近くに回復してきている。ただ、パスタ、パン、中華麺用には向いていない。

北海道のハルユタカ、ハルヒカリなどは病気に弱い。春よこいが北海道のホクレンで作付け第1位になってきた。北海道農業研究センターで北の香りがパンなどに有効な品種。雪ちからなど。九州沖縄農業研究センターでは西のかおり、南のかおりが出てきているが、まだ現状ではパンが膨れにくい。

東海ではパン用の小麦はまだ開発されていない。在来種とちがって外国品種は赤カビ病に弱く、マイコトキシンという毒素が問題になっている。愛知県では最低1回の防除が必要。在来品種のレベルにまで赤カビ病に抵抗性をもたせられるようにする必要がある。

河 田:

アンケート(会場からの質問用紙)の回収を・・。たくさんの質問があって選ぶのが難しい。
太田さんに、いいとも愛知の認知度が低いことについて。

太 田:

県庁のほかの職員でもいいとも愛知運動を知らない。認知度を高めるため、マスコミを使ったらどうかと思うが、・・。食品リサイクルも控えていて手が回らない。

とにかくこれから頑張るのでよろしくお願いしたい。

河 田:

質問が多いのでまとめにくい。

松 沢:

生産者から見た安全性について。農学部の先生は有機農業など成り立たないと言うが、循環のために不必要なものをどうして除くかというだけ。20年の結果として、簡単に循環農業ができている。

福津農園では加工食品もつくっている。生産者側から農業体験を通して、食事も食べてもらうようにもしている。

安全と同時に経済の合理性も取れるようになってきた。

藤 井:

愛知県では現在米2万数千ha、小麦が6000haの作付けをするようになってきた。ほとんどが農林61号で昔ながらの品種(s20年頃開発)。もちもちしこしこした豪州のエースWのような食感はないが、愛知ではそれに近い九州の「祝いの大地」に注目している。

愛知県農試では遺伝資源の保存でイネの場合4000品種以上、麦では700品種系統を保存している(低温保存で7年程度保持)。ジンバンク、ジンストックとも言う。

有機小麦は化学資材を使わないのが原則。雑草対策ができれば可能。一番のネックは赤カビ病。硫黄など無機の化合物で防除すればいいかもしれない。

河 田:

循環型有機稲作では田んぼのものを戻すのを原則とするが、500Kgの収穫のうち7%(35から40Kg)がタンパクでその分が収奪ということになる。その栄養飢餓を戻してやらなければならない。農場の中で戻すとすると、大豆の栽培で戻す(おからなども)こともできる。ボカシを作ればなお効果的。有機物をどのように循環に応用するかという技術が出来上がっていない。微生物について特に大切なテーマといえる。

松 沢:

循環をうまく生かすような手助けをしてやれば途中で途切れることはない。バイオマスの応用。自然の英知に学ぶ。

太 田:

偽装表示について:
県の取り組み。年間700店舗を無作為に選び、表示の調査をしている。違反があれば指導して直させる。

食品表示110番(2年目)を立ち上げている。年間85件ほどの通報があった。一般公募と市町村から推薦の食品表示ウォッチャー(150名)に年4回の報告をしてもらっている。表示がおかしい場合は実際の帳簿と突き合わせて調べる。その上で公表もする。

藤 井:

土壌診断を農業改良普及課、農協、試験場担当者がしていて、地力、土壌肥沃度のマップ作りをしている。ミネラル成分の補給をするように普及をはかっている。

愛知は畜産も盛ん。それにともなう有機廃棄物を堆肥作りできるように、堆肥センターを各地域に設置している。

お茶作りには大量の窒素(10aあたり70Kg以上)使っていたため、地下水を汚していた。そういった影響の少ない方法を考えていて、1/3の量で栽培できるような方式もできてきている。

河 田:

そろそろ時間となった。今日のシンポではっきりとしたことは、消費者の力が非常に大きいということと、その意識が変わらなければ生産の方まで変わってゆかない。循環型農業の基盤はできつつある。

あくまでも今日のシンポジウムは第一歩である。今後それぞれのポジションでどのように実践して行くかが問われる。

日本消費者連盟 水原博子さん

本日のシンポの場を借りて一言:
GM小麦の開発がされていて、カナダと日本に作付けの認証の申請がされている。その認可をしないように運動を展開中。開発の中止と認可差し止めのための署名をカナダと米国に向けて提出する。2005年には認可されるかもしれない。そのための意思表示をお願いしたい。

河 田

カナダの小麦協会では反対を表明している。日本での抵抗が大きな支えになっている。消費者の協力をお願いしたい。

井沢眞一:(実行委員会責任者)

輸入ブロッコリーには臭化メチルを薫蒸している。表示が不十分で臭素が残留していることがわからなかったりする。今後、どんな表示が必要なのかという運動につなげてゆきたい。

本日はどうもありがとうございました。