パーシー・シュマイザー氏 名古屋講演 |
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まず始めに、今回私を日本にお招き下さいまして、このようにメッセージをお伝えする機会を与えて下さいました関係者の皆様、主催者の皆様本当にありがとうございました。 わたくしのまずバックグラウンドからお話ししたいと思いますが、私は西カナダのプレーリーのあたりの出身です。このプレーリーで妻と2人で1947年に農業を始めまして、様々な農作物を作ってきました。 この半世紀に渡り、小麦、それからオーツ麦(カラスムギ)、それからキャノーラ菜種、エンドウ豆などを作ってきました。とくにそのキャノーラ菜種に関しては、わたくしは種子の開発もしてきまして、西カナダではちょっと知られた存在だったと思います。 また、シードセイバーという側面もありまして、種子を保存するのですが、毎年穫れた種を保存して次の年の作付けに使っておりました。世界中で何千の農家の方がそのような農業をしていらっしゃると思います。この50年間、妻と2人で種子の開発をしてきましたが、品種改良という事でも、ある種の病気に耐性を持つようなキャノーラの品種もこのプレーリーで開発してきました。 農家であったということと、ほかにもう一つの側面を持っておりまして、公の職に就いておりましたが、議会の議員、そしてまた地域の自治体の市長として25年間務めてきました。そしてその25年の間に様々なあらゆる国レベル、州レベルの農業委員会というものに出席をしまして、法、規制ですとか、政府の政策に関して農家の利益になるように農民の代弁をしてまいりました。 このGMO(遺伝子組み換え作物)というのは3つの部分に分ける事が出来ると思います。 1番目の側面としては、農家の権利・特権、それに対して、巨大企業、また多国籍企業の特許権ですとか知的所有権という問題です。 そして2番目の側面としては、これはGM食品の安全性ということです。食べて大丈夫なのか、危険ではないのか、健康への影響はどうか、ということです。 そして第3番目が、環境への影響ということなんです。どのような危機、影響を環境にもたらすのかということです。 これからお話することに関しましては、今申し上げた3つのうちの最初の部分の問題です。農家の権利ということに関してお話したいと思います。 今から申し上げる事はわたくしの身の上に実際に起こった事、ふりかかった事です。98年にモンサントがわたしを相手取って訴訟を起こしたところに端を発します。 この98年にモンサント社は私を相手取って、裁判を起こしました。わたくしが遺伝子組換えのキャノーラをライセンスなしで作付けしている。そしてそれによって特許権を侵害したというのが彼等の主張です。 わたくしはそれまで一切モンサント社とは関わりがありませんでした。種子を買った事もありませんし、彼等の主催する説明会ですとか品種発表会のようなものに行ったこともありません。モンサントの社員も全く知りませんでした。 訴えられたということで、最初にわたくしと妻が一番心配したことは何かといいますと、私たちが50年間ずっと培い、開発してきた純粋な種子が、モンサント社のGMOキャノーラに汚染されてしまったのではないかということです。ですから、そのモンサント社のGMOによって、私達のその純粋な種子が汚染されてしまったのだとすれば、被害を被ったのは私達の方であって、その非、責任はそちらにあるのではないのかと訴えました。 ですので、私達もモンサントに真っ向から対立するという事で、この裁判は連邦裁判所に持ち込まれました。 この特許法ということなんですけれども、どの国でも同じだと思うのですが、国レベルの法律の管轄下にあります。ですから、この最初の連邦裁判所の裁判では、一人の裁判官で審議を行うという法廷が開かれました。当初そのモンサントの主張というのはわたしが不当にモンサント社からその種を盗んでを植えたと、作付けしたというものです。ですからそれは特許権の侵害であると主張しました。 裁判が実際に開かれる前に、2年ほどその準備の審議前手続きという期間がありました。これをプリトライアルというんですが、その2年の間に、モンサント社はそれまで主張していた申し立て、つまり私が不当に種を入手したという部分に関しては、その主張を取り下げました。そのかわり、どういう主張に変わったかといいますと、わたくしが不当に入手したというのではなくて、私の農場の溝の部分にそのGMキャノーラを発見した。そしてそこにある以上は特許権の侵害だと主張しました。 2週間半の公判が開かれまして、判決が下されたのですが、裁判官はこの場合たった一人だったのです。この裁判が終わってからモンサントのほうが、これはテストケースだったというふうに認めて、あるコメントを出したのですが、一体どこまで特許法が認められるのか、どこまで農家の権利・特権に特許法が優先するのかという事を試すテストケースだったというようなコメントを出しています。 実際にこの判決が下されたときに、世界中の農家の人達が非常に驚き懸念を抱きました。 どこまでその特許法が優先されてしまうのかという事に関しての判決なのですが、その内容を申し上げます。 今から申し上げる事はカナダだけでなく、日本そして世界中の農家の方々に非常に深く関わる所だと思いますが、自分達の家で取った種に関してどのような権利をもっているのかというところに関わる問題です。 まず第一に、この判決ではどのような経緯で、この組換え遺伝子がキャノーラなり大豆なりに混入したかということは問題ではないということです。そしていかにして入って来たかという、その考えられるケースにまで言及しました。 例えば自然交配です。花粉が飛んで来て自然交配するとか、実際に種が直接運ばれる、鳥や小動物や蜜蜂によって運ばれたり、あるいは水害によって種が流れるということもあるかと思うのですが、いかにしてモンサント社の組換え遺伝子が混入したかについては問題ではないということです。 しかしながらもしその混入が起こってしまった場合には、その農家の持っている種子、それから農作物、そこからの収穫は、全てモンサント社の所有物になってしまうということです。この判決の中で、わたくしの98年度の農場からの収穫の全ては、モンサントのものである。それから種も作物も全てモンサントの物であるという判決をくだしました。そしてまたこの判決でわたくしはもう、自分の家で取れた種を使う事はできないし、苗を使う事はできないということになってしまいました。 この判決が意味するところは、もし農家が有機農家であれ、慣行農法の農家であれ、一旦その農作物が望まないのに汚染されてしまったならば、それはもはやモンサントの所有物とみなされてしまうということなんです。その結果、この判決によって農家はその権利・特権を失ってしまうということになります。そしてモンサント社の持っている特許法が全てに優先するということになってしまうのです。 カナダの連邦法の中では農家の権利は保証されておりまして、毎年その自家採取した種を使う事が出来る、その権利を持つという事が述べられています。しかしながらわたくしのこの裁判の判決では、モンサントの持つ特許法がこの農家の権利の法律に優先するということになってしまいました。 では私のこの裁判の顛末は、どういうふうになったでしょうか。わたくしはすぐに控訴をしたのですが、この控訴裁判でも一年後に、わたくしは再び敗訴してしまいました。昨年の12月に今度はわたくしたちはカナダの最高裁に上訴をしました。 最高裁では、この5月にわたくしの上告の申し立てを受け入れてくれまして、来年には新たな公判が、裁判が始まる事になっています。その裁判は農家の自分の種を使う権利に関わって来ると思います。 実際に日程までも確定したのですが、先週、最高裁から連絡が来まして、来年の1月20日から裁判が始まる事になっています。 この汚染の問題のほかに、いかに慣行農家、または有機農家が被害を被るかということについて、もう一つの側面をお話したいと思います。これは皆さんが企業や政府関係者から全く聞く機会のなかった情報だと思います。 それはこの契約書なんですけれども、今わたくしが手に持っておりますのは、モンサント社が農家に契約をさせるときに使うものです。実際にこの契約書でもって農家の権利は全て奪われてしまうというふうにお考えになって良いかと思います。ではこの契約書の中にどんな事が書かれているのか、その項目を実際に詳しくお話ししていきたいと思います。 まず第一に、自分の家で取れた種子を使うことはできない。 そして第二に、毎年、種子はモンサント社から購入しなくてはならない。 そして第三番目に、農薬を買う場合は必ずモンサント社から買わなくてはならない。 そして第四番目に、毎年、ライセンス料として1haの作付け当たり40ドルをモンサント社に支払わなくてはならない。 そして最後に、機密保持契約と言う条項にもサインをしなくてはなりません。これはもしその契約の中で何らトラブルがあった場合、農家は全く、機密保持ですから、友人にも隣人にも誰にも話をすることはできない。しかしながらモンサントの方はどんなことでも農家に対してできる、言えるというものです。ですのでこれは全く口止めということになってしまうんですが、農家にとっては言論表現の自由までも奪われてしまうことになります。報道関係者にも言えない、隣人にも言えない、どんなにひどい事をされてもそれを公表する事ができないんです。 そしてまだ条項があるんですが、この最後に申し上げる条項というのは本当に悪質だと思います。つまり契約を交わしてから向こう3年間、モンサント社の私設警察がその農場に立ち入ることをを許さなくてはならない。契約がたった1年の契約であっても、向こう3年間の立ち入りを許す、という条項です。 モンサント社は非常に大規模な私設の警察機構を持っています。米国にもカナダにもそれがあるんですが、その警察によってこの契約の徹底を行っています。どんな人達がその警察に入るかといいますと、カナダでは連邦警察のカナダ騎馬警察隊に属していた人がモンサント警察に入ったり、アメリカでは私立探偵のピンカトン社というのを使っています。 ですから、なぜ今こんな事をみなさんにお話しているかと申しますと、そのGMOの導入が、全般的な問題に深く関わってくる。さらにもう一つの側面として、農家の権利が剥奪されてしまうということがあるからなのです。 ではこの契約の徹底というのをモンサント社はどのようにして行っていくのでしょうか。モンサント社は、この契約書の裏にもあるんですが、まだ他のパンフレットにも広告をだしています。もし近隣の農家がライセンスなしで組換え作物を栽培している事が疑わしい場合には情報提供をお願いします、と書いてあります。もし誰かが、モンサント社に対して情報提供を行った場合はその見返りとして、例えば「革のジャケットを差し上げます」といったような事までしています。 では、情報が寄せられたら一体モンサントはどういう行動をとるでしょうか。 まず2人のモンサント私設警察官を その農家に送ります。あなたがライセンスなしでうちの遺伝子組換え作物を作っているのではないか、という情報が入りました。疑わしい理由があります、と言います。そこで農家のほうは、そんなとんでもないと、そちらから種を買ったことなど一度もないし、関わりは一切ないといいますね。するとモンサント警察は、いやお前は嘘をついている。もし正直に言わなければ裁判に引きずり出すぞ、裁判沙汰にするぞ。そして裁判が終わる頃には農地を全て失う事になるぞと脅します。 そこでモンサント警察官が帰りますよね。するとその農家の人達は一体誰が情報提供したのだろうかと考え込んでしまうことになります。一体誰がこんな事をしてくれたんだろうかと、近所のあの人だろうか、この人だろうか、それともこの人だろうかというような、そういう気持ちになってしまいます。ですので、このような猜疑心が農家の間にお互いに起こってしまうわけです。というようなことで信頼関係が崩れてしまうわけです。これまで長い間に培って来た地域社会の絆や連帯、がここに崩れてしまう事になります。これはもうモンサントがしたことの中で、本当にひどい、最悪の事ではないかというふうに私は思います。 わたくしは農家としては3代目なのですけれども、わたくしの祖父母はヨーロッパから約100年以上前、北米に渡って来ました。 わたくしの祖父母もそして父も母も、隣人と近くの近隣の地域の人達と協力して国を築いて行こう、作って行こうと懸命に努力しました。地域社会に学校や病院をつくったり、道をつくったり本当に大変な努力をしてきたんですが、モンサント社のねらいというのは、こういった地域社会の連帯や絆を崩してしまおうということなのです。 先程契約書の事をお話ししましたが、もうひとつここに書類を持ってきました。これにも注目して頂きたいのですが、これは農家の間では『ゆすりの手紙』というか脅迫状と言われているものです。 この手紙には、「お宅がモンサントの組換えキャノーラ菜種なり大豆をライセンスなしで栽培しているという証拠を持っているぞと、信じるに値する理由を持っているぞ」ということが書かれています。更にその手紙の中でお宅の作付け面積は、約50ha、または100ha、あるいは200haだと思われますので、それぞれの場合によって5万ドル、10万ドル、または20万ドルをモンサントに送れという手紙を送りつけて来る。それを受け取った農家の気持ちは大変なものだと思います。 私はよく農家の奥さんから、こういった手紙を受け取って途方に暮れて、一体どうしたらいいんでしょう?。私達はキャノーラの栽培は全くしていないのにこんな手紙が来てしまいました、というような電話をよく受けます。その度に、こういった法的な手段がありますよ、というようなことを伝えてあげます。 これはまさに巨大企業が恐怖によって農家をコントロールしようとしていることに間違いないと思います。そして我々農家の間では、こうした戦々兢々とした恐怖の文化というのが新たに広がってしまったということなんです。 ではちょっと遡りまして、96年に認可が降りて以来、このGMキャノーラおよび大豆をなぜ農家が作付けするようになったのかという、その理由をお話ししたいと思います。 モンサント社のうたい文句が当時あったんですが、まず第一にGMカノーラの方が非常に栄養価が高いのだと、そして第二に収量が増えるということです。そして三番目になりますけれども、農薬の使用量が減りますよ、と。 三番目の点ですが、農薬の使用量が減りますよと言われた事が、非常に農家の感心をひいたのではないかと思います。そしてまたモンサント側はこんな事も言ったのですけども、これは非常に環境に優しい持続可能な農業を実現するものにほかならない。そして世界中の飢餓を救うことにもなるのだ、と。 ではそのGMOの作付けが始まって2年後3年後に一体どのような事になったでしょうか。 まず第一にその収量の問題ですが、特に大豆に関しては大幅に減ってしまいました。そして品質的な面でもガクッと落ちてしまいました。そして三番目の点、これが申し上げる中で一番重要かと思うんですけれども、いまや農薬の使用量が少なくとも以前の三倍以上となってしまっています。それは何故かといいますと、キャノーラそのものがスーパーウィード、スーパー雑草と化してしまったからです。実際にこのスーパー雑草の状況というのはOHPを使ってご覧いただきたいと思います。あとからお見せします。 先程申し上げました実際にGMOを作り始めて、収量は落ち、品質も落ち、農薬の使用量は増えたと言う事は、カナダだけに関わらず、これは米国でも同じ事が起きていますので、モンサントの宣伝文句は全部ウソだったということがわかります。ですから、経済的な側面から見れば、本当にその農家が被った被害というのは甚大なものなんです。 まず一つには価格が落ちこんでしまったんです。この組換えキャノーラに関してはEUに輸出することは1ブッシェル(1bushel=約35リットル)たりともできません。 カナダでは現在農家が育てられない2種類の農作物があります。それは大豆とキャノーラです。全ての種子が汚染されてしまいました。ですから意志に反して、農家の選択肢というのは奪われてしまいました。 では、もう一つの重要なポイントについて今から申し上げます。GMOの作付けを始めるということによって、何に影響が起こるのかということなんですが、これがただ一つの品種の農作物に留まらないんです。わたしの場合はキャノーラだったわけです。 例えばキャノーラというのはアブラナ科の植物です。ですから、キャノーラには近縁種というものがアブラナ科の、例えば大根とかカブとか、カリフラワーなどです。自然の交配によってこういった市場向けの野菜畑にも汚染が進んでしまうということがあります。ですから、有機農家が育てられない農作物、先程大豆とキャノーラと申しましたけれども、それ以上に他の品種にもそれが今広がってしまっています。近縁種に留まらず、もうちょっと遠い種類の作物にも広がってしまいます。ホールマスタードにも広がってしまいました。 わたくしは慣行農法で、妻は有機農法でずっと作物を育てています。我々も被害を被っていますけれども、我々だけでなくて、例えば蜂蜜を作る養蜂家の方達にも影響が及んでいます。 西カナダからヨーロッパ向けに輸出された蜂蜜なんですけれども、それは送り返されてきたり、または受け取りを拒否されると言う状況になってしまっています。 この汚染は、蜂蜜にまで広がってきてしまっています。というのもそのミツバチにとっては、どの花が組換えの花で、どの花が非組換えの花かとは見分けがつかないわけです。ですから我々はこのような純粋な種、種子、在来の種子を失いつつあるのです。それは自然交雑によって、そして、もちろんGMOの導入によって。 わたくしが今回日本に参りました理由は、皆様にこうすべきだ、という意見を述べるためでは決してありません。というよりむしろ、この数年間に実際にわたくしが経験した事。何が起こったのかということをお伝えするためにまいりました。 もう一つGMOの導入に関して重要な点なんですけれども、もしなんらかの病気が組換え作物に広がってしまった場合、葉枯れ病ですとか、何らかの産地で災害が起こったような場合、事態を収拾することが非常に難しくなります。そしてまたこのGMOというのはもちろん生き物ですから、農作物というのは生き物ですから、それを一旦環境の中に放出してしまえば、それを呼び戻す、また回収するというのは不可能なんです。 その一つの例として、環境に放出してしまったGMOがどのような影響を与えるのかという例として、メキシコの例があります。メキシコにはいろいろな種類の在来種のコーンがあるのですが、もはや少なくともその50%くらいはアメリカ産のGMOによって汚染をされてしまっている状況です。 同じ事がボリビアでも起こっておりまして、ボリビアはジャガイモが実際に原産としてあったんでが、そのジャガイモも汚染されてしまっています。 日本でGMOが導入されれば、みなさまが経験する事はわたしたちのカナダでの経験とおなじ事になってしまうと思います。 二つのとても重要な事があるんですが、まず一つ目はいわゆる封じ込めるということ。一つのところにGMOを封じ込めてしまうことは不可能であるということです。一旦、生き物が自然界に解き放たれれば、それを止める事はできません。風を止める事は出来ませんし、自然交配を止める事もできません。ですのでこれはもう自然に広がってしまうものなのです。例えば試験的に導入するときに、試験用の圃場を作りますが、緩衝帯として50m離すとか、100m離す、500m離すということをいうと思うんですが、決して安全な距離というのはありません。それはカナダで事実として起こっていることを見ていただければおわかりになるかと思いますが、安全な距離などありません。種は風で飛び、運ばれますし、またそのトラックからこぼれ落ちるというようなこともあります。特にカナダの西部では風が強いので、風によって運ばれることが多かったと思います。 科学者の多くは、花粉はそんなに遠くまで行かないだろうと言うと思うんです。でもひとつ忘れていることがあります。風で花粉が飛ぶということ以外に、例えば鳥の羽にくっ付いて運ばれるということもあります。ですから、その鳥の羽に着いて運ばれることに限らず、小動物、ウサギですとか、ちょっとお大きい鹿ですとか、そういった動物の毛に付いてはるか何キロメートルという別の畑に運ばれるということもあります。交配というのは何Kmも離れた場所でも起こりうることです。 世界中の国でモンサントがもしテストを行えば、そこから何らかの形で花粉なり種子が逃げてしまいます。わたくしはもう半世紀に渡って農業をやってきましたので、いかにしてその花粉が運ばれるかというのはよく知っています。どうか信じて下さい。 そして第2番目のポイントになりますけれども、共存、GMと非GMとの共存はあり得ないということです。一旦その組換え遺伝子を環境の中に放出してしまいますと、組換え遺伝子というのは優生遺伝子ですので、どんどん広がっていってしまうんです。それによって有機農家や、わたくしのような従来農家は大変な被害を被る事になります。ですから共存が不可能とは、どういうことかといいますと、同じ国の同じ地域で組換え遺伝子農作物を作付けする農家と、慣行農法の農家とそれから有機農家この三種類の異なる農家が一緒に共存していくというのは不可能になってしまうんです。その地域には組み換えのGMの農家しか作付けできないということになります。それはわたし達の住んでいる西カナダで起こっている事なんです。ですので農家はまたその選択肢を失ってしまったことになります。有機農家もそしてわたくしも選択肢を失い、作りたい作物を作れなくなってしまっています。というのはもはやわたくしの作りたい作物は汚染をされてしまっているからなのです。もし農家の自らの種子を使う権利を奪ってしまって、新しく遺伝子組換えの農作物を開発していこうということになると、新たな品種を作っていく可能性という事までも奪ってしまうことになりますね。というのも、新しい品種が開発され生まれてくる、自然に生まれてくるというのは世界中の農家の人たちがその土地の気候にあった、また土壌にあった農作物を努力して開発して来ているからなんです。例えば私が私の地域である農作物を開発するとしますと、もうそこから200キロ離れてしまったところでは、環境の条件がまた変わってきますから、同じものがうまく育つとは限りません。ですからでモンサント社のような形で、種子の供給ということを一手に大手が牛耳ってしまうようになりますと、農家が独自に新しい品種を開発していく、その地域にあった品種を開発していくという権利までも奪ってしまう事になります。 私はアフリカの大勢の農家の人と話した事があるんですけれども、その度に私はそのアリカの農家の人たちに自分の種子を使う事を、その権利を失ってはいけないというふうに主張してきました。もし自分の種子を使う権利を奪われてしまえば、農家の人たちは封建時代の農奴と同じ、奴隷と化してしまう。そして多国籍企業の支配下におかれてしまうのだ、とそう説明しました。ですから種子の供給をコントロールするものが権力を持ち、そして食糧の供給を行う国が権力を持ち、食糧の供給を受ける国を支配するという構図ができてしまいます。カナダ、そして米国の農家にとってはこの農薬を沢山使わなくてはならないこと、さらに農薬の使用量を増やさなくてはならないというのは、非常に大きな問題でした。そしてそれに加えて、種子の供給をも全面的にコントロールしてしまうというのは、我々にとって本当に大変な事なんです。そしてまた作付けできる農作物の種類もどんどん少なくなってきてしまっています。それは有機農家にとっては非常に大きな被害です。 でもまだ日本の皆さんは、まだ幸運だと思います。というのは今の時点では皆さんはGMOを導入するかしないかということを選択することができるからです。皆さんはその選択権を今持っていますね。でも1996年、私のいたカナダでは、GMOの導入によって一体どんな事が起こるのかということを説明してくれる人は誰もいませんでした。 私達農家はただ企業のいうことを受け入れ、そして政府のいうことを聞いて導入をした訳ですけれども、それによって我々が支払わなくてはならなくなった代償というのは大変なものなのです。 その導入当時のうたい文句というのは世界の飢餓を救いましょうというものだったんですけれども、とんでもない。収量は減り、そして農薬の使用量は増え、そして品質は落ちてしまいました。 そしてそのこと以外に先程お見せした契約書による支配、そしてまたゆすりの手紙による非常に抑圧的な支配、そして農家の権利や特権を全て奪ってしまうような最悪の事態が農家に起こってしまったんです。 実際にモンサント警察、モンサントの人間がチェックをしに行くというのは、契約をした農家ではないんです。契約をしていない農家ならどこへでも、ズカズカと入り込んでしまう。そしてこの“盗む”という言葉をあえて使いたいと思いますが、そのモンサント警察はそうした農家に無断で、不法侵入ですね、いわば、不法侵入をして立ち入って、そこにある種子ですとか農作物を盗んでいきます。 私達の農場というのは非常に広いので、往々にして農家の知らないうちにモンサント警察が来てサンプルを盗んでを行くような事態が起こっているんです。でもたまたま、農家の人がモンサント警察が来ているのを見つけて「あなた達不法侵入じゃないですか? 私の土地から出て行って下さい」。というようなことを言いますと、モンサント側は全く動じないで、ただ笑っているだけです。そしてその農家の人がその態度に非常に怒りを覚えて「そんな不当な事をするんだったらば、私はあなた達モンサント社を相手取って訴えますよ。裁判に持ち込みますよ」と言いますね。そうするとモンサント側は「どうぞどうぞ我々は裁判に行きますから。でもその裁判の間にどうなると思いますか? お宅は裁判が終わる頃には農地が1haも残りませんよ」と言うでしょう。それに裁判を行うというのも非常に大変お金のかかるプロセスですよね。農家にしろ、個人にしろ、3年間で弁護士費用だけで、30万カナダドルを支払いました。ですからこの多国籍企業、巨大企業を相手取って誰がそんなに資金を投じて裁判をできるでしょうか?裁判ができないという事を、モンサントはよく知っているんですね。 本日は多くの時間を割いて、農家の特権とか、農家の権利という事について焦点を絞ってお話を進めて来ましたが、その他に冒頭に申し上げた食品の安全性の問題ということもあります。また環境への影響という問題、これも非常に重要な事です。ただこのGMOの導入に関してどんなことが実際に起こったかという事がおわかりいただけたかと思います。 今、皆さんはまだ選択肢を持っていらっしゃいますので、GMOの導入に関してどうか充分に慎重に注意をして判断をしていただきたいと思います。一旦その生き物を自然界に放出してしまったらば、それを回収することは不可能ですから。 OHPをご覧いただく前に、もう一つモンサントがどのような事をしたかという事についてお話ししたいと思います。 もしモンサント警察が農家に立ち入った時に、農家が留守だったり、その農家の住所がわからない時にどうするかということです。その場合は、ヘリコプターか小型飛行機を用いてその目的の農家の畑の上を旋回します。われわれはこれをモンサントのラウンドアップレディ・スプレー爆弾と呼んでいるんですが、その除草剤をスプレーします。だいたい直径10m位のエリアをスプレーするんです。そして10日ほどそのままにして、そのラウンドアップの効き目が出るまで待ちます。そして10日後にまた小型飛行機かヘリでその場所に戻って、一体どうなっているか、除草剤を撒いたあとがどうなっているかを見るわけです。注意して頂きたいのは、これは農家は決してそんな事をしてほしいと望んでいないわけです、当然。で、もしそのスプレーした場所の農作物が全部枯れていたとしたらば、それは耐性を持つラウンドアップレディ・カノーラを栽培していなかったという事がわかります。もし農作物が枯れていなければ、耐性を持つ組換えの作物を栽培していたという事がわかります。そんなことまでしてスパイ活動をしています。 先程から繰り返しになりますけれども、そのGMOに関しては、特許法というのもありますし、それから健康面、食品の安全、そして環境問題ということもあります。 特に強調して申し上げたいのは、このように農家に対して非常に抑圧的な全体主義的な態度をとるということなんです。種子もモンサントから買わなくてはいけない、農薬もモンサントから買わなくてはいけない。そしてライセンス料も払わなくてはいけない。さらに契約によって縛られてしまう。 では、最後になりますけれども、今一度、今回わたくしを日本にお招き下さいまして、このように今日、名古屋でお話する機会をお与え下さいました主催者、関係者の皆様、本当にありがとうございました。そして、来場の皆様、本当に今日はありがとうございました。 本日お話し致しました事は、何が起こりうるかという事ではなくて、実際に起こった事だ、という事をどうかお忘れなく心にとどめておいていただければと思います。 カナダのような自由の国で、こんな事が起こるなんて私達は思ってもいなかったんですけれども、実際には起こってしまったということは、非常に残念でなりません。 もう一度、本当に本日はありがとうございました。 (拍手) 完
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