GM農家の挫折

Crop Choice.comニュース(2001年 2月16日)

全訳:山田勝巳

 

 

ネルソン一家は、ラウンドアップ・レディ大豆を何作か作ってみたが、がっかりした。GM大豆の収穫が増えず、殺虫剤の量が減らなかったことは大した問題ではない。問題は、モンサントに訴えられた事だ。セントルイスに拠点のある巨大バイテク企業は、ネルソン一家が収穫した組み換え種子を取って置いて次の年に種として使ったことが会社の特許を侵害したというのだ。

ネルソン家のロドニーとロジャーとグレッグはノース・ダコタ州のアメニアの近くで8,000エーカー以上の土地に大豆と麦と砂糖大根を作付けしている。「我々一農家では、巨大多国籍企業に太刀打ちできない。相手はもう6人の弁護士を付けている。誓っても良い、絶対にやっていない。政府に助けてもらう以外方法がない。」と州選出議員のバイロン・ドーゴンへ訴えている。

ネルソンの経験はいくつかの問題を含んでいる。 GM作物は企業が約束した収量が増え殺虫剤を減らせたのか、 非組み換えの種や作物を汚染して、非組み換え農家が作物を生産したり、販売することを妨げなかったか、バイテク企業が家族農家を成り立たなくさせ、食品供給を支配していないか。

ネルソン一家はラウンドアップ・レディ大豆が出たとき驚喜した。1998年に新技術が大々的に売り出されたが、ノース・ダコタの気候にあった早生種は未だ出来ていなかったので、トウワタの除草でラウンドアップを使うため晩生種を68エーカー分買った。雑草は死んだが、作物の収量はガタ落ちした。

ネルソンは収穫したGM大豆と在来大豆を穀物エレベーターに持ち込み同じビンに入れた。

「あのころは大豆は大豆さ、誰も分別なんていうものはなかったね」とロドニーネルソンはいう。

次の年、今度は早生のラウンドアップ・レディ大豆を約1500エーカー作付けした。種代が$56,240と技術使用料が$18,800と非常に高かった。しかし、ラウンドアップ・レディ大豆はまたしても外れた。在来種の隣りに作付けしたのだが1エーカー当たり12ブッシェル減収だった。 この結果は色々な調査でも確認されているようだ。1997年の全米300ヶ所の実験では、シアナミドで非組み換え種がラウンドアップ・レディ大豆より最大20%多く収穫している。Purdue大学の研究では非組み換え種が組み換え種より12−20%多く収穫している。ネブラスカ大学農学部とNatural  Resourcesの2年間に及ぶ調査ではラウンドアップ大豆は、近縁種より6%、多収品種より11%低い。160エーカーで480ブッシェル、平均するとエーカー当たり3ブッシェル減収している。 1998年にアーカンサス大学では非組み換え種が一番成績が良かった。

言うまでもなくネルソン家のバイテク大豆への態度は苦々しいものになった。 「この辺じゃGMOは収量が少ないんで嫌がられている。GMO大豆を使っている農家で、雑草に悩まされない農家なんてないよ。収量が上がるなんて話にゃ誰も耳を貸さないね。」

ネルソンががっかりしたのは生産性が低いことだけではなく、モンサントの農薬の量が減らせるという売り文句とは逆に増えたことだ。普通種の大豆畑ではRaptor等の農薬はエーカー当たり2−4オンス(60−120cc)だが、GM大豆で使うラウンドアップは、エーカー当たり2クオーツ(約2リットル)散布しなければならなかった。

「だから、モンサントが、どの面下げて、我々が殺虫剤を少なく使っているなんて言いいふらすのかね。」 ロドニーはモンサントがセミナーでラウンドアップをエーカー当たり6クオーツかけてもバイテク大豆はびくともしないし、「大豆はそれが好きなようだ」と言ったのを覚えている。

オンタリオ州Guelph大学の農業植物のE.Ann  Clark教授はバイテクコーンについて、農薬は減らせないと言う。1999年にモンサントが出した、「1998年にBtコーンによって全米の1500万エーカーの農場で多くの農薬が減ったか使用を止めるかしている」というメモについて、農務省によると1998年には7140万エーカーにコーンが作付けされている。 殺虫剤はそのうちの29%に使われ、線虫など土壌昆虫の駆除に使われている。問題はBtコーンの標的はこれらの昆虫ではなく西洋芯食い虫(European  corn  borer)で、バイテクコーンが減らせるとしたら70万から140万エーカーで1500万ではない。アイオワの生産者の調査では1999年に殺虫剤の費用が若干(減るのではなく)増えているけれども、Btコーン生産者は面積の12%散布しているのに対し、非Btコーン生産者は18%散布している、と指摘している。

  

モンサントによる農場の訪問

1999年7月中旬、モンサントのJoe  Jovonovichが、ネルソン農場の圃場と種の領収書を検査するために訪れた。彼は、ネルソンが1998年産の種を取っておいて1999年に使ったと密告があったので調査に来たFargoNDの不正調査官だった。モンサントとの契約書はいつでも見られるようになっていた。1999年の作付けはラウンドアップ・レディ大豆が1500エーカーで、普通種が2300エーカーだった。 調査官は領収書は調べたが、サンプルを取る権限がないという理由で圃場には入らなかった。数日後電話で問題ないようだと連絡があった。 その年の11月にモンサントから、再調査したいと電話が入った。2人の調査官がサンプルを取る名目で8時間ほどいたが、彼らがサンプルを取るのを見た家族は1人も居なかった。

2000年7月、苦難が始まった丁度1年後、モンサントは手紙で、調査官の持ち帰ったサンプル分析から、普通種を植えたと申告のあった畑からラウンドアップ・レディ大豆が検出された。つまり契約違反で特許の侵害に当たる、と伝えてきた。「現在我々の所にある売上伝票の種の量で植えられる面積と実際の面積との間に大きな矛盾がある。」と伝えてきた。 これに驚いて、最初の調査官であるJovonovichに電話で、問題ないと言っていたのになんでモンサントは訴えるのか問うたところ、(権限がないといって入らなかった)圃場を見たら雑草が全然なかったのでラウンドアップ・レディ大豆を使った疑いがあったと答えた。

ロドニーはGM大豆が普通種の中で芽を出すにはいくつか原因があるという。ネルソン家では一度も調査官に付いて行かなかった(1人で調べたたがったし、疑う理由もなかった)ので、サンプルを取ったのか、取ったとしても何処で取ったのか分からない。8000エーカーは広いので隣の圃場に入り込んだことも十分考えられる。普通種とGM種を区分していなかったので種蒔き機もコンバインも洗浄せずに圃場を移った。普通種の畑でGM種がこぼれて(volunteered)出てきた可能性もあるし、種の純度もある。

2000年9月6日のモンサントとの話し合いでロジャー・ネルソンは晩生種は、この辺には合わないので雑草対策として68エーカー分を1998年に買っただけで、それを保存したって意味がないと説明した。この間の話合い中、常にモンサントが気にしていたのは、1999年産で2000年産ではなかったが、結局途中から2000年産も調べようと言い出したとロドニーは言う。 一家は、これには対応できていた。普通大豆の圃場でGM大豆を使わなかったことを証明するために2000年夏にCass郡支部サービスで全圃場を調べてもらい、普通種の圃場のみにラウンドアップを散布してもらった。除草剤で耐性のある植物だけが残るはずだ。支部サービスは衛星の位置出しシステムを使って圃場を記録して、1週間後に圃場を検査しに来た。その結果GM種だったのは圃場の2%以下だった。

ロジャーによると、モンサントはこれに対し、ネルソンは「大豆を枯らすために別のものを撒いただけのことだろう」と言った。それで、この圃場からサンプルを取ってノースダコタ州立大学の植物試験研究所で何で枯れたのか調べてもらっても良いと言ったが、モンサントはこれを断った。モンサントが2000年の収穫物を調査したいと言ったとき、ネルソン家は10万ドルかかるがノース・ダコタ州の種子局にやってもらうよう主張したが断られた。モンサントは話し合いにAgweekの記者の同席は断ったが、ノース・ダコタ種子調停委員会の種子委員ケン・バーチュの同席は認めた。バーチュは中立な第3者によるサンプル採種がない状態での問題解決は不可能に近いという。 種子局は、双方が種子局で作った計画案に合意するなら中立な立場で調査しようと申し出た。例えばサンプルの圃場から実験室まで全行程を管理下に置くなどである。

これは双方とも認めなかった。「手続きに沿わないとこの種の問題は、一方的になる。」 どちらも自分だけで動くと、それぞれの法律担当者が相手の行動を問題にする。 2000年の10月中旬、ネルソン家はモンサントから1999年と2000年に保存したラウンドアップ大豆の種を撒いたことについて連邦裁判所に訴えられ召喚状を受け取った。モンサントは、2000年の作物は見ていないし、「モンサントの悪名高い匿名の情報」もなかった。召喚状によるとモンサントは$75,000を要求している。 ロドニィはモンサントの農家に対する訴訟は数百件に登る事を突き止めた。「契約がなくてもモンサントの戦術から逃れられない。モンサントはお前の圃場に出来たものは自分達のもので、消費者に届くまで貸しているだけだと言って作物の全額を請求している。」 不公平な契約から農民を守る法律を作るときの証言で、ノース・ダコタの農務長官ロジャージョンソンは、「農民と作物を所有すれば農場なんて持つ必要がない。」と言った。

GM大豆は他の作物同様世界中の農家に問題を起こしかねないと懸念している。生産者は雑草の出る圃場にラウンドアップ耐性大豆を播いてラウンドアップを散布し、次の年には非組み換え大豆を撒く。交配は当然起こるという。コンバインやトラック、播種機、エレベーター、ビンで混ざり、こぼれ種と交配で種は既に純粋ではない。 「これが、今の現実さ。」アベンティスのスターリンクコーンを引用してロドニーはこういう。

 

モンサントの反応

モンサントの広報部長ロリ・フィッシャ−はネルソンが契約に反して1999年と2000年にラウンドアップレディ大豆を再播種したために訴えた。ネルソンの1999年の収穫のサンプルでは4000エーカー以上にラウンドアップレディ大豆が検出されている(これは契約した1500エーカーも含まれていると思われる)。2000年の収穫はネルソンが調査官を圃場に近づけないため検査をしていない。しかし、収穫量未定のまま訴訟の対象になっている。「裁判はしたくないのだが、他の購買者達が約束を守っているのに不公平になる。約束を守らない人がいれば、裁判以外の方法で解決を試みる。数十万の生産者が技術の恩恵に浴しており、彼らは約束を守って居るんです。」

 

バイテクから逃れようとしても⋯

ネルソン一家は遺伝子組み換えの作付けを避けたいのだが種子の汚染で難しいようだ。Fargo近くの穀物エレベーターが純粋の非GM大豆に$1.25上乗せすると聞いて発奮した。しかし非組み換え品種を探したが、100%純度を保証する種苗会社はなかった。 「実は、ある種子取扱店で、100%非組み換えの保証付き種と言ったとき笑われたよ。そんなことは不可能だよ。何処の種子会社も今売っている大豆の種を保証するなんて考えられないねって」とロドニーは言う。

パイオニア・ハイブレッド社は、「非GMO大豆は純粋ではない」という1枚のチラシを作り配っている。 1999年12月アメリカ大豆協会のトニー・アンダーソン会長は生産者に純度100%非GMと言わないよう警告している。「純粋の種が買えないのなら、純粋の非組み換え大豆をどうやってそれを望む消費者に供給できるのか。」これがネルソン家のモンサントと遺伝子組み換えに対するいらだちだ。ロドニーはGMOの種に保存種の6倍もの金を払い、収量が減り、値段も安い。普通種の種は50ポンドが$13で、GM種の半分の値段だ。

 

企業による農業支配?

ノース・ダコタの北部平原持続農業協会代表のテレサ・ポドルはネルソン家や他の農家が直面する問題に気を揉んでいる。彼女は夫婦で蕎麦、ライ麦、ルリジサ、エン麦、キビ、小麦、亜麻を有機栽培している。GM作物の汚染拡大のためアメリカは、最後の手段としての供給国になるのではないかと懸念する。バイヤーは、GM作物を法律で禁じているブラジルなどの他国から購入するようになる。「消費者の声を聞く必要はあるが、いつでも正しいだろうか?我々は消費者にGMOを要らないというよりも、むしろGMOは安全だという我々の分析を受け入れるように懸命に働きかけている」。

消費者のGM食品の拒否以上に倫理的問題がある。農業遺伝子の遺産をどう扱うかと言うことだ。従来農家は作物の遺伝記録を持っていて地元の大学の助けをもらいながら維持してきた。「これらを特許で支配されることは問題で、種は伝統的に公共のものだった。GMO種子は企業が所有する。これは単に種の問題ではなく食糧の支配につながる。」とポドルは言う。

組み換え作物を作るようにとの企業の熱心な薦めで、普通種の栽培面積は減り始めている。「この技術を駄目とすれば、いずれ我々の種子バンクの在庫も汚染される恐れがある。この技術は急速で輝かしいが本当に農業問題を解決できるのか」。 ポドルは農家にとって生産物価格が下落しているときに、より多く生産しろと要求し続ける圧力について、「より多くより安くという生産は続かないことを農家は気付いているはずだ」と言う。

 

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