ゲノム編集トマトの届出についての『公開質問状』
遺伝子組換え食品を考える中部の会では、2020/12/10、厚生労働省にゲノム編集トマトの届出がなされた件について『公開質問状』を提出しました。

文面は以下のとおり、

公開質問状
2020年12月10日
厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 会長 殿
遺伝子組換え食品を考える中部の会
代表 河田昌東
事務局:食と環境の未来ネット
〒461-0004
名古屋市東区葵1-14-3
TEL:052-937-4817

私たちは、食と農の安全について取り組んでいる民間団体です。

さて、ゲノム編集食品については、これまでに貴厚生労働省、農林水産省、消費者庁等の審議によって「届け出(任意)でOK、安全審査は不要」、「表示も必要ない」との決定が行なわれ、消費者に大きな不安をもたらしています。

ゲノム編集で目的とする遺伝子だけが破壊された場合(ノックアウト)は従来の突然変異による品種改良と変わらない、というのがその理由ですが、実際の開発過程ではゲノム編集酵素(ZEN, TALEN, Cas9)のDNAベクターを耐性バクテリア内で大量に増殖させるために抗生物質耐性遺伝子を同居させています。例えばGABAトマトではネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むベクターを使ってゲノム編集を行っています。その他にゲノム編集遺伝子のスイッチとしてCaMV(カリフラワー・モザイク・ウイルス)のプロモーター配列も利用しています。多くの農作物のゲノム編集では、アグロバクテリウムのプラスミドをベクターとして利用していますが、このプラスミドは宿主遺伝子に組み込まれることが分かっています。宿主農作物の遺伝子に組み込まれたマーカー遺伝子やプロモーター配列は、本来トマトなどの農作物には存在しない外来遺伝子であり、これらのDNA配列がゲノム編集トマトやその他の農作物に含まれれば、明らかに「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)」による規制対象です。

こうした経緯からEUではゲノム編集も従来の遺伝子組換え同様に「プロセス・ベース」という考えで規制対象にする、としていますが、日本やアメリカでは作出された結果物に外来遺伝子が存在しなければ規制対象にしない「プロダクツ・ベース」という考え方を採用しています。従って、作出された品目に外来遺伝子があるか否かは大きな問題です。

この度、貴厚労省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会新開発食品調査部会遺伝子組換え食品等調査会が12月11日に、メーカーの事前相談に対する審議を行なうにあたり下記の項目に対してどのような審査を行なうのか質問します。
質問1メーカーから提出された品目に関して、どのようなゲノム編集技術を使って作成したのか、開発プロセスについての情報を求めるのか。またその情報を公開するか否か。
質問2ゲノム編集に用いたベクター由来の抗生物質耐性遺伝子や発光遺伝子(GFP)などの外来遺伝子が作出された農作物に入っていない事をどのような方法で確認するのか。
質問3作出された農作物から外来遺伝子を除去するにあたってどのような技術を用いたか、その結果に対する具体的なデータの提供を求めるのか否か。
質問4作出されたゲノム編集作物に外来マーカー遺伝子が存在した場合、それと非ゲノム編集作物との交配で作られた所謂、後代交配種は「届け出不要」の対象になるのか。
質問5ゲノム編集では標的外遺伝子を破壊する、所謂「オフターゲット」がしばしば起こる事が指摘されています。作出品目にオフターゲットが起こっていないかどうかをどのような手段で確認するのか。
質問6
生物の遺伝子はそれぞれ単独で機能するとは限らず、お互いに連携し合って機能している場合が多々あります。特定の遺伝子をゲノム編集で破壊した場合に、他の遺伝子の発現機能に影響がないかどうかを確認する必要がありますが、届け出制の項目の中に他の遺伝子の発現に対する影響評価は含まれているのか。
以上

厚生労働省からの回答

2020/12/24
遺伝子組換え食品を考える中部の会
 代表 河田 昌東 様

先般、当省宛てにお送りいただきました公開質問状につきまして、別添ファイルのとおり、回答させていただきます。
ご確認いただきますよう、何卒よろしくお願いいたします。

厚生労働省 医薬・生活衛生局 
食品基準審査課 新開発食品保健対策室
(健康局 健康課 栄養指導室 併任)
(厚生労働省改革実行チーム  併任)
 斎藤 雅文(SAITO Masafumi,RD,PhD)
Tel:03-5253-1111(内線4270)
Fax:03-3501-4868
回答1 「ゲノム編集技術応用食品及び添加物の食品衛生上の取扱要領」(以下「取扱要領」という。)に則り、事前相談において、利用したゲノム編集技術の方法及び改変の内容を確認します。
また、届出に該当すると確認されたゲノム編集技術応用食品については、利用したゲノム編集技術及び遺伝子改変の概要を公表します。
回答2「取扱要領」及び「ゲノム編集技術応用食品等の取扱いに関する留意事項」(以下「留意事項」という。)に則り、外来遺伝子及びその一部の残存がないことを、サザンブロット、次世代シーケンサー、PCR 等の適切な手法により得られたデータを基に確認します。
回答3質問1と質問2の回答を御参照ください。
回答4外来遺伝子が存在するもの、又は外来遺伝子が除かれていると判断するために妥当なデータが提出されない場合は、「組換えDNA 技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」(平成12 年厚生省告示第233 号)に基づき安全性審査の手続を経る必要があります。
回答5「取扱要領」や「留意事項」に則り、オフターゲットが起こる蓋然性の高いと推定される配列について、CRISPRdirect 等適切な複数の検索ツールを必要に応じて組み合わせて確認します。
回答6
「取扱要領」や「留意事項」に則り、アレルゲンや既知の毒性物質との相同性検索等により照合し、その結果を確認します。
また、特定の成分を増加・低減させるため代謝系に影響を及ぼす改変を行ったものについては、代謝系の改変に伴う他の物質の増減に係る情報を提出することになっています。代謝系の改変により特定の物質が蓄積する場合は、既知情報から当該物質の毒性と蓄積量を推定してヒトの健康に影響しないことを説明できる情報を提出することになります。
以上