世界を脅かす遺伝子組換え 原発
2013/11/03


上映映画『世界が食べられなくなる日』 監督:ジャン・ポール・ジョー
2009年フランスでラットに遺伝子組換え作物を長期間与え、影響を調べた実験を初めて実施し、その結果(写真上・中央)は世界中から注目を浴びた。また、世界第2位の原発保有国であるフランスの原発風景と、福島第一原発事故が広域に及ぼした放射能汚染にも焦点を当てて、『遺伝子組換え』と『原発』というテクノロジーの共通点を暴く。

講演はモンサント社が各国政府に申請した安全性審査資料に世界で初めてメスを入れた河田昌東さん。そのデタラメな内容を認可した各国の審査の信頼性も揺らいでくる。

近年、除草剤耐性雑草が蔓延した遺伝子組換え栽培国で、ラウンドアップ等の従来の除草剤に替え、より強力な『2,4-D(ベトナム戦争で使われた枯葉剤)』耐性のダイズとコーンが開発され、今日本だけが着々と認可を進めているが…。
講 演:河田昌東さん
演 題: デタラメなGM食品の安全性審査
part1 44分
part2 40分

遺伝子組換え食品の安全性は確保されているか

遺伝子組換え情報室 河田昌東

遺伝子組換え食品はすでに広く利用されている。しかし、その安全性を保障する国のシステムは極めて科学性に乏しく、消費者の安全を守るには程遠い状況である。私たちは国の安全性審査資料をチェックし、その虚構に満ちた内容を明らかにした。さらに、これまで安全性の根拠とされてきた「実質的同等性」は第二世代遺伝子組換え(例えば、花粉症緩和米、制癌剤作物など)の登場で事実上破棄される運命にある。

1.身代わり試料の分析
モンサント社は、除草剤ラウンドアップ耐性大豆の安全審査に当たって提出したデータで、成分分析やラットの毒性試験に使った除草剤耐性タンパク質CP4EPSPSのサンプルが、組換え大豆からとったものではなく、大腸菌で作ったものを使った。遺伝子が同じだから良い、というのがその根拠だが、この主張は科学的には正しくない。高等生物と大腸菌などバクテリアでは遺伝子の解読機構が若干ちがい、同じ遺伝子を使っても異なるアミノ酸配列のタンパク質を作る可能性があるからだ。また、出来たタンパク質が後から化学修飾され、本来のものとは違う構造になることもある。こうした身代わり試料の採用は、組換え大豆の安全審査が前例となり、今では全ての組換え作物で採用されている。私たちが食べている組換え食品が本当はどのようなものか、誰にも分かっていないのである。

2.分析は一部分、あとは推定

モンサント社は大腸菌で作ったラウンドアップ耐性タンパク質(遺伝子からの推定では455個のアミノ酸からなる)のアミノ酸配列のうち、端からたった15個だけの分析をおこない、あとはDNAからの推定でよしとしている。政府の審査会もこうした身代わりタンパク質の部分構造決定を認めている。このケースが前例となり、現在認可されている全ての遺伝子組換え作物の組換えタンパク質の構造決定は、端から10〜15個しか決定されていない。消費者は結局のところ一体何を食べているのか不明である。アミノ酸配列がDNAどおりでなければ、未知のアレルギーの発生の危険性などが生ずる。

3.増大する残留農薬の危険性

除草剤耐性の利用で、作物体内には残留除草剤濃度が上がる。そうした実験の結果、モンサント社は政府に対し大豆のラウンドアップ残留濃度の引き上げを要請する、という本末転倒の主張をした。それを受け、アメリカ政府はラウンドアップ耐性大豆の認可にあたり、家畜飼料中の残留濃度を15ppmから200ppmに引き上げた。同時にアメリカ政府はアメリカから大豆を輸入する各国に対し、残留濃度を20ppmに引き上げるように迫った。それに伴い日本はそれまでの6ppmから20ppmになった。英国やオーストラリアはそれまで0.1ppmの基準を20ppmに引き上げた。 たかが1企業の要請が世界の安全基準を変える力を持ったのである。ラウンドアップは世界で最も沢山使われている除草剤である。それに伴い、非ホジキン性白血病が増加した疑いがもたれている。ラウンドアップ多用に伴い、アメリカではラウンドアップ耐性雑草が登場し、さらに除草剤を撒く、という悪循環が始まっている。当初、1回で良いとされたラウンドアップ散布は現在2〜3回散布が当たり前になっている。また、モンサントの実験ではラウンドアップの分解物AMPAはラウンドアップと同等またはそれ以上の毒性があるため、従来の基準はラウンドアップとAMPAの合計値が安全基準とされてきたが、最近アメリカ政府は、この基準をラウンドアップだけに適用しAMPAを除外した。これは事実上安全基準を2倍に引き上げたと同じである。

4.度重なる組換えDNA構造の改定

モンサント社は当初(1992年)、ラウンドアップ耐性遺伝子(CP4EPSPS)は大豆の中に一個しか入っておらず、必要なタンパク質を正確に作っている、と主張し国の認可をかちとった。ところが、2000年になりこの遺伝子の断片が別の場所に2箇所挿入されていることを公表した。さらに、2001年にはベルギーの研究者らの指摘により、さらに新たな断片が結合していることを認めた。このように、あらかじめラフなデータで認可をとり、後で小出しに訂正する、という手法は安全審査の根幹を揺るがしかねない。こうしたラフな安全審査の積み重ねの結果、現在は初めから組換え遺伝子が複数個導入されたり、その断片が挿入されていても認可されることが普通になっている。

5.動物実験の信頼性

モンサントの安全審査申請資料を見ると、組換え大豆やトウモロコシをラットなどに食べさせて安全性を証明していることになっている。問題はその期間である。通常は4週間程度、動物に組換え飼料を食べさせ、体重の変化や実験終了後に解剖して内蔵の変化などを見て、大きな変化がなければ安全、としている。しかし、最近になって世界各地でもっと長期間にわたる摂取試験が行われるようになり、この程度の期間の実験では安全性は証明できないことがわかってきた。ロシア科学アカデミーのイリーナ・エルマコヴァの実験によれば、除草剤耐性大豆を食べされたメス親ラットから生まれた子どもは55.6%が超未熟児でうまれてまもなく死亡する、という結果が得られた。非組換え大豆を食べさせたメス親の子どもにはこうした影響はなかった。また、2008年オーストリアのウイーン大学の研究者らは4世代にわたって除草剤耐性と害虫抵抗性トウモロコシを食べさせたマウスは次第に不妊傾向がたかまる、という結果を公表した。2012年にはフランスのカーン大学の研究者らがラットの寿命に近い2年間にわたってモンサントの除草剤耐性トウモロコシを食べさせたラットで死亡率増加やガンの増加が起こることを突き止めた。
こうした研究は、現在の安全審査の基準(4週間程度)では真の安全性が確保できないことを示している。過去にも、WHOは遺伝子組み換え作物の安全性試験は最低3ヶ月行うよう勧告してきたが、それは全く無視されてきた。

6.宿主の他の遺伝子に与える影響

本来、宿主(非組換え)が持たない土壌細菌の遺伝子などを導入した結果、宿主本来の遺伝子の発現には大きな影響を与える。このことは、検出技術の進歩により遺伝子組換えに伴う当然の現象であることが最近明らかになっている。分子レベルではすでに実質的同等性の主張は成り立たないことがはっきりしているのである。しかし、安全審査では、アミノ酸含量やタンパク質含量、繊維質など大まかな成分の変動がなければ良い、とする前時代的な基準がまかり通っている。組換え遺伝子が与える他の遺伝子への影響を無視しては、安全性を確保できない。以前、私は厚労省の食品安全委員会で意見を述べる機会があった。その際、この問題を指摘し、安全審査には宿主遺伝子への影響に関する実験もすべきだと述べた、しかし、安全委員会の委員長は「それは技術的には可能だがコストがかかりすぎて出来ない」と述べた。規制当局がこれでは、安全審査の信頼性は無いと同じである。

7.環境にあたえる影響

遺伝子組換え作物を栽培すると、土壌にフザリウム(Fusarium sp.)という特殊なカビが増殖することが分かっている。フザリウムはその種によって様々なカビ毒をつくり、危険な存在である。フザリウムで汚染したトウモロコシで豚が不妊になった例がアメリカで報告されている。また、このカビによる感染で、ラウンドアップ耐性大豆が水不足に際して突然死することも分かっている。こうした意図しない環境への影響は人間の健康にも無関係ではない。基礎研究を無視し、ビジネス優先の組換え技術を放置すれば、その影響は結局人間に帰ってくることを忘れてはならない。また、ラウンドアップは土壌中のミミズや微生物を殺し、大豆の大切なパートナーである根粒菌を殺すことがわかっている。こうした影響で植物と土壌環境(根圏)の相互作用を破壊し、生物の多様性を破壊することが明らかになってきている。

害虫抵抗性のトウモロコシの花粉は周囲に飛散し、オオカバマダラ蝶の幼虫の食草を汚染して、蝶の幼虫を殺すことも分かっている。こうした標的外昆虫に対する影響は安全審査の対象となっていない。また、アメリカをはじめ、南アメリカ、インドやアフリカなどでは除草剤耐性大豆やトウモロコシの栽培の結果、耐性雑草が蔓延り、栽培に大きな障害になってきた。害虫抵抗性トウモロコシでも耐性害虫が発生し、本来の目的が達成できなくなっている。こうした、耐性雑草や耐性害虫は安全審査の対象となっておらず、遺伝子組み換え作物の栽培の長期的な影響を無視してきた結果である。

8.遺伝子汚染の問題

今、日本各地のナタネ輸入港周辺では、遺伝子組み換えナタネが自生し、大きな問題になっている。特に、三重県四日市港周辺の国道23号線沿線では除草剤耐性ナタネが数多く自生し、その影響で在来ナタネやブロッコリー、カラシナなどの食草ばかりでなく、ハタザオガラシという野生の雑草にまで除草剤耐性遺伝子が乗り移っている。こうした遺伝子汚染は、食の安全や生物多様性を損なう危険性があるが、現在の安全審査ではほとんど顧みられていない。

2013/11/3


賛同いただいた団体
土と命を考える会/くらしを耕す会/漬物本舗道長/土こやしの会/食と環境の未来ネット/自治労名古屋学校支部/あいち生活協同組合/生活クラブ生活協同組合愛知
賛同いただいた個人
河田昌東/高橋智津子