2010年生物多様性条約/カルタヘナ議定書締約国会議1年前記念集会
09/10/24
基調講演
生物多様性を守るのは
市民の力
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生物多様性条約/カルタヘナ議定書にはなにが求められているのか
生物多様性条約/カルタヘナ議定書では次の3つの重要項目が深くかかわっています。
1.
予防(precaution):新技術の利用に際し、予防をするという姿勢がなければ危機を防ぐことができない
2.
予防原則(precautionary principle):危険を及ぼす可能性のある新技術に対し、それを予防するための規制措置をとらなければならないという考え方
3.
汚染者負担の原則(polluter-pays principle:PPP):汚染を起したものがその修復のために費用を負担する。この場合の『汚染者』とは広義な意味合いも含まれる
以上の3つのうち、どの項目の解釈が欠けても新技術について、そのリスクを防ぐことはできない。これらを基に生物の多様性に脅威となりうる遺伝子組み換え技術について、適切なリスク評価をし、対処する方法を定める必要性から1995年、ジャカルタ/マンデートで行われた第2回生物多様性条約締約国会議で作業部会が設置され、1999年コロンビア/カルタヘナでの会議で議定書の完成・採択を試みたがならず、翌2000年モントリオールでの会議で正式に採択された。
議定書とは、条約よりもさらに実効力、拘束力のあるもので、気候変動枠組条約には京都議定書、モントリオール議定書がそれぞれ会議が開催された地名にちなんで付けられた名前です。
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『責任と修復(救済):Liability and Redress 』
2008年のドイツ/ボン会議COP9でのMOP4では、実際にカルタヘナ議定書を実際的に法的に拘束力を持たせるべきかどうかが論じられました。結論としては拘束力を持たせるものとするということになり、そのために2010年10月までに2回の作業部会をおこない、名古屋MOP5で決定することになっています(名古屋補足議定書となるかもしれない)。
カルタヘナ議定書は調印国が50に達した2003年に発効。日本の調印はその年の11月で準備期間の3ヵ月後の翌04年2月に日本について発効しました。このようにこの国際法はまだまだ生まれて間がなく、さらに今後科学技術が及ぼすかもしれない危機に対し、それを未然に防ぐ意味でも、カルタヘナ議定書の果たす役割は大きいのではないでしょうか。これは気候変動枠組条約の京都議定書についてもそうですが、議定書の果たすべき拘束力について非常に曖昧となっています。批准国が二酸化炭素などの削減のための目標値を達成できない場合、あるいはそれに違反する行為などがあった場合の罰則についてはまだ何一つ決定されていません。
2010年のMOP5で『責任と救済(修復)』について明文化された場合、それは国際的にはじめて拘束力を持つ法律の実現とも言え、大いに意義のある法律となります。しかし反面、現在までGM推進国である米国やカナダなどの批准については、今後ますますその可能性がうすくなるのかもしれません。
現在に至るまで、科学技術(工業)の革新にともない健康被害、自然環境の破壊など、多くの危険が生み出されてきました。アスベストによる健康被害や水俣病など、挙げたらきりがありません。
今や経済のみならず、農業も大きな力でグローバル化されようとしています。そしてその規模はさらに大きく拡大されようとしています。そんな中、ひとつ間違えば私たちの健康やそれを取り巻く自然環境が被るかもしれない危険は計り知れず、取り返しのつかないものとなりかねません。
企業が負担すべき修復のための責任は膨大となりかねず、対象は国家単位、地球規模の場合すらあります。これは科学技術が進めば進むほど起こりうることで、地球の温暖化、そして生物多様性の問題としてまさに危機はグローバルです。
科学がさらに発展するであろう21世紀になれば、あらゆる病気が克服され、平和がもたらされるだろうと、20世紀には誰もが夢見たのではないでしょうか。しかしながら相変わらず大国による世界支配の野望は止むところを知らず、それに対抗するテロリズムは後を絶ちません。経済のグローバル化の名の下に、さらなる貧富の差を広げています。そしてまさに、それでしか経済の至上主義は満たされることがないのです。
21世紀は『環境の世紀』だといわれたばかり。気候変動枠組条約と生物多様性条約のふたつが果たす役割は非常に重大であるし、それの骨格というべき、京都議定書とカルタヘナ議定書がいかに機能するかで人類の未来が決まるともいえます。来年10月のCOP10を意義ある通過点とするため、わたしたち民間の果たすべき役割は大きいのではないでしょうか。
カルタヘナ議定書の成立のために議論を交わした多くの人たちの努力を熱く語るクリスティーヌ・フォン・ヴァイツゼッカー女史
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