シンポジウム 食の安全と自給
二人のパネラーの意見
瀬口俊子(くらしを耕す会)
今年で会発足20周年となる。子供を育てるために安全な農産物を、という願いから会を立ち上げた。当初手さぐり状態だったが、今では安定するようになった。

農産物の供給方法としては野菜セットが基本で、内容は生産者にお任せ。

お米の消費は落ちている。これは産地と消費者が離れてしまっているからで、産地見学をするようにして若い母親の参加を促している。

岐阜県御岳町での産業廃棄物処理場計画がきっかけで『水』について考えを深めるようになり、木曽川『流域自給』という生産者と消費者の関係が見えるようになった。

生産者に農産物の作付をお願いしているが、これは生産者にも消費者にも厳しい関係となっている。食に休みはないから。

米の作付は毎年1月に年間の予約量を決め生産を依頼する提携米を基本としている。

日本の食の基本は米、野菜、大豆である。そのなかで大豆の国内自給率は5%以下と低い。くらしを耕す会では『大豆トラスト』を一口2500円で行っている。

松沢政満(福津農園)

愛知県新城市で23年間農政の補助なしで有機農業をしている。かつて地元福津では7軒あった農家が今では2軒という限界集落の状況。見学者も多いため、週一回見学日を設けている。

大学卒業後、食品会社で商品開発の仕事をしていたが、食の危機を感じ帰農した。


福津農園の4つのポイント:
土は草で肥やす
菌は菌で制す
草は草で制す
虫は虫で制す

環境への配慮として:
農薬は使わない
物質循環を阻害しない
生物の多様性を確保する
不耕起により生態系を壊さない工夫をする
旬を大切にする
物の移動は最小限にする(地産地消)
農業用資材を減らす
果樹園で野菜栽培(立体農業、混植)
加工農産物を作りバリエーションを広げる

山間地での農業でも立派に生計が成り立つし、人間性の回復にもつながる。

有機JASによる食の安全の考え方は本末転倒している。有機とはいかに循環を確保するのかに尽きる。


シンポジウム

河田昌東(コーディネーター)

食の安全と自給は何とかしなくてはならない問題でたやすいことではないが一言ずつ発言を。
●黒瀬 正

自給率の低下は農政にも然りだが、食生活自体に問題がある。
瀬口俊子

生産者と消費者を結んできた体験から、食卓と産地のあいだが開きすぎている。その距離を狭めてゆくことが大切だ。
松沢政満

生態系を生かした農業こそが必要だ。目の行き届く小さな規模の農業が安全の基本だ。
河田

課題としてはどうか
松沢
有機農業と近代農業とでは大きな開きがある。2006年有機農業推進法が制定され、今官民一体で対応してゆこうと有機農業推進計画が地方行政で進められようとしていることに期待をする。
●黒瀬

かつていかに反収を揚げるかが課題になったが、それではいけないということで有機農業推進法が作られた。

美味いものを食べ、しかも安く確保しようという矛盾に対し、それではいけないことに気付く人が増えてきた。

しかしながら有機の消費量は非常に少なく、低迷している。そのため有機から撤退する生産者が出てきている。

有機米のほとんどが秋田・山形で生産されている。それは決して多いとはいえない量にもかかわらず、それを消費するだけの市場ベースすらできていないというのが実情だ。
瀬口

会員に対し、もっと米野菜を食べるように伝える必要がある。そのためには食べ方の紹介もしている。現代人は薬を飲みつつ、健康に悪いものを食べている。

さらに課題として、後継者がいなければ食の安全が確保されない。生産者を支え続けなくてはいけない。
河田

『わかっちゃいるけどやめられない』という実情があるのではないか。またライフスタイルそのものがもたらしている問題でもある。自分の身の回りからライフスタイルを変えてゆかなければならない。
瀬口

子供たちに農業体験をさせることが大切だ。会の事務所にミニキッチン『ズーニーカフェ』を作り、ちょっとした調理実習ができるようにしていて、食についての啓発をしている。
河田

食育のための環境はととのってきているように思うが、具体的にどうしたらいいのか。
松沢

実はとても簡単で、豊橋有機の会ではむしろ忙しい状況だ。朝市で採算者と消費者がつながりあう中で調理法なども伝えている。生態系が保たれているところで作られる野菜は美味しいことを体験してもらう。それには小さな環境が基本となる。
●黒瀬

消費者が関心を持たない、興味がないということのほうがむしろ問題だ。黒瀬農舎では15周年を機会にブナの植樹をする。植樹の作業を楽しくすることで米や環境・地球について考えるきっかけができる。きっかけ作りをするのも生産者の役割ではないか。
河田

後継者の問題です。どうして後継者を作っていくのか。
瀬口

まず自ら語ることのできる生産者を得ることが必要。信頼しすぎるというのもいけない。生産者と消費者の関係をあらためて考える。
●黒瀬

生産者に対する消費者の過大な応援は度が過ぎると逆効果にもなる。今までの生産者には甘えが多すぎる。まずは自立の心がなければ応援の意味がない。

消費者にまず必要なのは国産をきちんと使ってゆこうという意識なのではないか。
松沢

小さな循環を基本に、楽しく生きられれるような農業をすすめることで山間地の仲間を維持することができる。近代化農業は進めるほど問題がおきてくる。お金中心から生活中心の価値観に変えてゆくことが大切だ。
河田

いかにしてコストダウンするかという大規模農業の考えが経済をおかしくしている。米国ハーバード大学では有機農業の講座を作ったという。堆肥生産→利用→循環がそのテーマだそうだ。長期的には循環型の方向に行かざるを得ない。そんな世界もまんざら夢でもないのかもしれない。

とはいえ農業精選におけるコストについてどう思うか。
松沢

無理な価格は有機野菜につけていない
資材などを自給しているのでコスト的にはかからない
社会の福祉に役立つことが大切
ロスとなるものがなければコストも安くなる
●黒瀬

牛乳、肉、養鶏、ハウス栽培などはコストが高くつく。そういった農業は別として、農業に必要なものは大部分が水と空気なのだから物質的にはコストは高くない。しかし労賃までいれるとそうはいかない。農業の場合、労働というコストははじめから無視する必要がある。
瀬口

毎週の野菜セットを休むことはできない。安全なものを食べることでエンゲル係数は上がるかもしれないが、代償として健康が得られる。生産者と消費者のあいだで話し合いができていれば良い。
河田

時間が少なくなってきました。言い忘れたこと、言いたいことがあれば
●黒瀬

安全と自給のためには食と農について考えるためのきっかけが必要だ。また何にお金をかけるのかを良く考えれば、米にかかる負担は決して高いものではないはずだ。コストよりも食の安全に関心を持つことが大切だ。
瀬口

続けてゆくことが大切だ。都会ではもう過去の生活には戻れない。都市での循環のくらしを心がけることが必要だ。流域自給の考えが必要。
松沢

有機JASの考えの根本には大量の有機農産物をいかにたくさん売るのかというグローバリゼーションの考え方がある。

新規就農者にも自分の理想を持ちいつか実現するのだという意志を持つことが大切だ。