種子法廃止で何が変わる?
2018/04/29

河田昌東(遺伝子組換え情報室)
(1)種子法廃止は何故?
この4月に「種子法」が廃止された。種子法は戦後の食糧難時代に国民の食を守るため1952年に作られた法律で、主食のコメや麦、大豆など主な作物の種子生産や品種改良、流通などを自治体が主導して行うために作られ、これまで食の安定供給に大きく貢献してきた。ところが、政府の規制改革推進会議はこの制度があるために民間企業の参入が難しくなっている、としてこれを廃止するよう政府に提言したのだ。実は、種子開発や流通への民間企業参入は1986年に既に認可されている。しかし、種子法による自治体の財政的保証により種子が安価に供給されているため、企業の開発種子は高くつき競争力で劣り参入し難かった。

政府は種子法の存在が企業にとり不公平だという財界の圧力を受けて種子法を廃止したのである。
(2)種子法廃止で何が起こるか

種子法廃止を最も歓迎し待ち望んでいたのは、モンサントを始め国内外のアグリビジネスである。巨大農業企業は遺伝子組換えなどを通じて様々な種子に特許をつけ世界の農業を支配してきた。例えば、除草剤耐性の大豆や菜種、トウモロコシ等の遺伝子組換え特許により、アメリカやカナダ、ブラジルやアルゼンチンの農家は自家採種を禁止され、毎年高い種子を買わされている。カナダでは代々非組換え菜種栽培と品種改良に取り組んできた大きな農家が、周囲の遺伝子組換え菜種の畑から花粉が飛んできて交配が起き、自家採種した種子に組換え遺伝子が混入したため、モンサントに特許侵害で裁判に訴えられ、敗訴し膨大な畑での菜種栽培を断念した例もある。また、モンサントは数年前アメリカ最大の種子企業を買収し、非遺伝子組換え分野でも様々な特許を取り、種子の独占をますます強めている。
(3)種子の安全性・多様性が壊れる

企業が種子を独占すれば、当面の利益につながる品種のみを開発、販売するために品種が限られ、農業がモノカルチャー化してしまう危険もある。例えば日本国内にはコメの品種が約300種類あり、需要が少なくても気候変動や土地の違いなどに対応できる品種が種子法によってこれまで守られてきた。しかし企業が権利を持てばこうした種子の多様性は破壊され、食の安全安定に大きな影響が出る恐れがある。また、コメをはじめ大豆などの品種改良にあたっては、種子の品質の審査や証明には多大な時間と労力が必要で、現在は自治体が行っているこうした業務が民間に移行すれば、その費用負担も種子代金に上積みされる。実際、大阪、奈良、和歌山の3府県は2018年度から水稲の品種審査や証明業務を民間委託する、と公表した。コメの種子の品質は毎年、出穂期の圃場を見て回り、発芽状態や生産物への異物混入、品質などを審査して品質保証証明をしており、それによって品質は安定し食の安全は守られてきた。これらの仕事を大阪府は今後、大阪府種子協会に移行する考えで、そのコストは当然、種子代金に転嫁される。こうした動きが全国化するのは避けられないであろう。
(4)種子はみんなのもの

作物に限らず種子は生物の遺伝子を代々伝えてきた大切な遺伝資源である。しかし、生命に対する特許により種子の多様性は大きな危機にさらされるようになった。今、進行中の「ゲノム編集」と呼ばれる新たな技術はこれまでの遺伝子組み換えとは違い、狙った遺伝子を効率よく破壊し、又は目的とする場所に遺伝子を挿入することが出来る。こうした新たな技術は当然、作物の種子にも適用され、特許による種子の独占がますます深化することは避けられない。何故なら米や麦など主食用の種子の独占こそがアグリビジネスの最終目標だからである。

種子法廃止に対し、今、各地で抗議の声が上がっている。愛知県議会は昨年12月20日、国に対し地方自治体が従来通りの品種開発などが出来るように財政処置をとるよう意見書を提出した。また、兵庫、新潟、埼玉、長野、北海道などは従来通りの種子の開発や安定供給を行うための財政的措置を講ずる条例や要綱を制定し、あるいは制定する予定である。こうした地方からの意見書はすでに50件を超えているという。種子の確保と安定供給は、健康で文化的な暮らしを守るための国民の権利、財産であり国の義務でもある。