グリホサートの危険性を示す新たな研究

2020/01/03

河田昌東(かわたまさはる)
 遺伝子組換え情報室
 遺伝子組換え食品を考える中部の会

はじめに

 アミノ酸グリシンは蛋白質の主要な構成成分だが、脊椎動物体内では神経伝達物質としても重要な働きをしており主に脊髄と脳幹で機能している。グリシンが脊髄や脳の神経細胞のグリシン受容体に結合するとニューロンの働きが抑制され、神経伝達における調節機能をつかさどる事は古くから知られていた。一方、モンサントの除草剤、ラウンドアップの有効成分の「グリフォサート」は、アミノ酸グリシンの誘導体でリン酸を含む「有機リン化合物」でグリシン類似物質として生体内で様々な有害な働きをすることも知られている。

 今回新たに発表された論文(1)は、神経細胞を構成するグリシン受容体の構成成分の一つである「グリシン受容体αサブユニット-4(Glra4)」が、脳脊髄だけでなくマウスやヒトの受精卵の発生過程にも関与していることを証明した。これが事実ならグリシン受容体に結合するグリフォサートはマウスやヒトの受精卵の胎児への発生過程でグリシン受容体の働きを妨害し、生まれる子どもの神経の発達を乱す事につながり、アメリカや日本でも増加している自閉症の原因の一つとして注目される。

研究結果の要約

 アメリカ・フロリダ州のマックスプランク・フロリダ神経科学研究所の西園浩文ら(1)は、グリシン受容体と胚発生の関係について、富山大学、山形大学、カイロ大学、理化学研究所、摂南大学、米沢大学などの研究者らと共同で研究した。これまでグリシン受容体の構成成分として知られている、グリシン受容体α-サブユニット(Glra4)をマウスの受精卵の段階で、ゲノム編集酵素 CRISPR/Cas9 を使って破壊し、母体内に戻して胚の成長を観察した。その結果、Glra4 を破壊した受精卵は胚発生が阻害され、胚盤胞の細胞数と胚のサイズが小さくなった。この結果は、グリシン受容体が脊椎動物の胚発生において重要な働きをしていることを示している。

 一般にアミノ酸グリシンは母体の輸卵管の中にある卵管液に豊富に存在し、卵細胞の受精とその後の胎盤への着床前発達に重要な働きすると言われている。今回の論文は受精卵のグリシン受容体の一つが壊れれば、胚の正常な発達が阻害される事を示した点で極めて重要である。彼らは更に、マウスだけでなく牛やヒトの受精卵でもグリシン受容体が機能していることを示した。また、予備的な実験では Glra4 を破壊すると生まれた子どもマウスの精神障害をもたらす表現型に関連する事も分かった、という。

グリフォサートの危険性

 この研究は神経伝達物質グリシンの受容体がグリシンを結合出来なくなると胎児の段階で神経に障害がもたらされる危険性を示した。これまで、MIT(マサチューセッツ工科大学)の J.E.Beecham 等によるアメリカに於けるラウンドアップの生産販売量と子どもの自閉症増加の統計的相関性の研究(2,3)やグリフォサートにより腸内細菌の種類が変化し、グリフォサートに耐性のある悪玉菌 Clostridium(クロストリジウム)の増加が子どもの成長過程で神経を破壊し、自閉症などの神経障害をもたらす(4)等の研究はあったが、グリシン受容体が胚の発達過程で直接関与し、結果的にグリシン誘導体のグリフォサートが神経の発達を妨害する可能性を示唆した研究は初めてである。この論文の著者らは直接にはグリフォサートの危険性について言及していないが、グリシン受容体の胚発生への関与は母体内でグリフォサートに晒された赤ちゃん自閉症その他の神経障害をもたらす危険性を示すものである。近年、アメリカでのラウンドアップ散布と胎児に与える影響に関する調査や研究は急激に増加しており(5,6)、今回の研究はこうした統計的調査に分子レベルでの根拠を与えるものとして注目され、発がん性で訴訟を起こされているモンサントが更に新生児の精神・身体障害で訴訟を起こされる可能性がある。

文 献
(1)
H.Nishizono et.al. : Glycine receptor α4 subunit facilites the early embryonic development in mice.: MaxPlank Institute News: Dec.17, 2019.
(2)
J.E.Beecham and S.Seneff: Is there a link between autism and glyphosate-formulated herbicides?:
Journal of Autism. (2016) vol.3. 1~13. Doi:10.7243/2054-992X-3-1.
(3)
A. Samsel and S. Seneff: Glyphosate Pathways to modern diseases VI: Prions, amyloidosis and autoimmune neurological diseases. Journal of Biological Physics and Chemistry 17(2017) 8-32. Doi:10.4024/25SA16A.jbpc.17.01.
(4)
I.A-Cardozo and F. Z.-Chulia: Clostridium bacteria and Autism Conditions: A systematic Review and Hypothetical Contribution of Environmental Glyphosate Levels.: Medical Sciences. (2018) 6,29. 1-11. Doi:10.3390/medsci6020029.
(5)
O.S.von Erhrenstein et.al. : Prenatal and infant exposure to ambient pesticides and autism spectrum
disorder in children: population based-control study. British Medical Journal (2019) ;364-1962. Doi:10.1136/bmj.1962
(6)
M.Dias, R.Rocha and R.R.Soares: Glyphosate Use in Agriculture and Birth Outcomes of Surrounding
Populations.: IZA Institute of Labor Economics. February 2019).