原発と遺伝子組み換えの今
―命を脅かす技術がもたらすもの―
連載125(チェルノブイリ救援中部機関紙)より



                  河田昌東(かわたまさはる)
2019/11/18

チェルノブイリ原発事故と福島原発事故を経験して世界のエネルギー事情は大きく変わりつつある。事故による被害の大きさ、50年以上経った今も処理の見通しがつかない廃棄物、安全対策にかかる膨大なコスト等に、世界は背を向け始めたのだ。そしてこの30年、原発と同時に世界の巨大産業に成長した「遺伝子組み換え」にも大きな壁が立ちはだかりつつある。

アメリカに危機をもたらす薬剤耐性菌
11月11日、アメリカ合衆国疾病予防センター(CDC)がある報告書を発表した。日本国内では全く報道されなかったが、ワシントン・ポスト紙は大きく報じた。一読し恐ろしさで背筋が寒くなる内容だった。

要約すると、今、アメリカでは年間300万人が薬剤耐性菌に感染しその中35000人が死亡しているという内容だ。換算すると11秒に1人が耐性菌患者になり15分に1人が死亡しているという。CDCは重大な危機感を持ち139頁に及ぶ報告書を発表した。感染の原因については、病院は勿論、農業や畜産、食生活、飲み水や環境など、あらゆる場で感染が広がっているという。病院では必要以上に抗生物質を使い、畜産では餌に抗生剤を混ぜているのが原因だが、それだけでは説明できない。養護施設や日常生活の場も大きな感染源だからだ。それは何故か。

最大の原因は食べ物だ。この点について何故かCDCは曖昧な説明しかしていない。筆者は以前からこのような事態が到来する危険性を指摘してきた。原因は遺伝子組み換え食品である。

現在、アメリカで生産されている大豆やトウモロコシの殆どには「マーカー」と呼ばれる細菌由来の抗生物質耐性遺伝子が入っている。培養細胞で遺伝子組換えを行うに際して、組換えが起きた細胞と起きなかった細胞を選別するために必要な技術だ。この餌を食べた家畜やヒトの腸内では、この遺伝子が腸内細菌に取り込まれて耐性菌が誕生する。これは「遺伝子の水平伝達」として古くから知られてきた現象だ。

だが、遺伝子組み換え作物の安全審査を行ったアメリカの食品医薬品局(FDA)はその危険性に長い事目をつぶりモンサントなどの遺伝子組換え企業を優遇してきた。この点は日本の厚労省の食品安全委員会も同じだ。結果的に遺伝子組換え作物を食べた家畜やヒトは耐性菌に感染し、その糞尿や肥料、食肉の汚染などあらゆる経路を通じて耐性菌は広がったと考えられる。

原発を世界に拡散し遺伝子組換え産業を育てたアメリカはその付けを払わなければならない。モンサントやFDAはこうした指摘に対して危険性は認め「マーカーは削除する」と主張してきたが未だにその技術はない。更に、除草剤耐性大豆やトウモロコシでは残留農薬やその添加物による癌の発生が今、アメリカを中心に世界中で大きな問題になりつつある。この件でモンサント社は現在アメリカで13000件に及ぶ訴訟を起こされ、相次いで敗訴している。

ゲノム編集の未来
連載123号でも指摘したが、今、日本やアメリカ、中国ではゲノム編集で沸き返っている。だがゲノム編集でも抗生物質耐性遺伝子マーカーの使用は必須だ。来年中にも商品化するGABAトマトや多収穫米はじめ殆どのゲノム編集には抗生物質耐性遺伝子が使われている。これが安全審査もなく、表示もなく市場に出回るとどうなるか。

日本は高齢化問題どころではない。薬剤耐性菌に侵された子ども達までが死に直面させられる。安倍政権はゲノム編集の市場は今後600兆円にもなる、と期待しているが、経済を発展させる人間の存在が危ぶまれる事こそが喫緊の課題ではないのか。

アメリカの今日は日本の明日なのだ。



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