『パーシー・シュマイザーの最高裁裁判傍聴記』
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私は感激屋ではないが、サスカチュワンの農家パーシー・シュマイザーの代理人、若いテリー・ザクレスキーがカナダ最高裁で04年1月20日行った弁論は素晴らしかったの一言に尽きる。彼の主張は独創的であるばかりかレーザーのように切れ味が良いが、しかし話しぶりは静かで焦点がはっきりし、用意周到で明確であった。 9名の最高裁判事は赤い法衣を着てファイルを抱え、法廷の端の席に着席した。サスカツーンの背の高い細身の色白の弁護士は控訴人(シュマイザー)側の通路の席に座り、受け手側のモンサントの3名の弁護士が通路の反対側の席に着いた。ザクレスキーの後ろには二組の弁護士がおり、残りの席は空席だった。この二組はシュマイザーの立場を支持する二組の仲介者の代表である。第一は6つのNGO(カナダ議会、侵食・テクノロジー・集中反対運動、シエラクラブ、全国農民連盟、科学・テクノロジー・エコロジー研究財団、テクノロジー・アセスメント国際センター)代表であり、他の一つはオンタリオ州司法長官である。モンサントの代表団の後ろには、モンサントを支持する許可を得た他の仲介者の2、3人の弁護士の一団が連なっていた。モンサントの支持団体とはカナダ・キャノーラ委員会、バイオテク・カナダ、カナダ種子貿易協会である 法廷の後ろの聴衆は50名の堅固な精神の持ち主に限られていた。というのはその大部分は最高裁の階段で傍聴券を手に入れるために、骨も凍るような寒さの中で何時間も待った人々だからである。裁判は形式どおりで、まず控訴人と受けて側がそれぞれの主張を1時間ずつ行うことを認め、5人の仲介者らにはそれぞれ7.5分から15分の発言が与えられた。裁判官は弁護士の発言をいつでもさえぎることが出来る。控訴人は反論に5分が与えられた。判事が引き上げたのは午後1時すぎだった。 カナダ最高裁の審理に当って、ザクレスキーは3つの論点を示した。
1998年の汚染の程度については意見が対立し、モンサントは試料を採取した27の畑で95〜98%に混入があったと主張した。しかし、同じ試料をカナダ・マニトバ大学が分析したところ、混入は0〜68%で試料によっては測定不能なほど少ないものもあった。もし、畑にRR植物があるというだけで特許の侵害を構成するに十分というなら、大半の西カナダの農家は特許の侵害をしていることになる。それが無関心な傍観者であれ、不本意ながら汚染されたRR遺伝子を歓迎しない受身の農家であれ、特許侵害者である。だから、彼らの固有の権利を認めるために、農民には特許侵害の免責を認めるべきであり、自分の種子を保存し再利用するという―――法律に適いシュマイザーの農場では従来からやってきた農法の利用であるのだが―――ことを許すべきである、その混入が自分でコントロールできないものであろうとなかろうと、とザクレスキーは主張した。 彼はさらに、シュマイザーが汚染で如何なる利益も受けず、実際にはそれを防止する手段も無かったのであるから、RR遺伝子が農場に見つかったからという理由だけで、シュマイザーの作物の全ての価値がモンサントに属するというのは間違っている、と主張した。 作物の全ての価値が特許のついた汚染遺伝子の所有者に帰属するということのおかしさを示すために、ザクレスキーは仮定の、しかし実際に起こり得る例をあげた。それは、ある農家のキャノーラが意図せずに二つの異なる遺伝子によって汚染された場合である。恐らく隣接する二つの異なる遺伝子をもつ畑からの汚染が起こった場合である。それぞれの遺伝子の特許所有者はどちらもこの作物の全価値に対して権利を主張出来るのか?言い換えれば、この農民はどちらの特許所有者にも100%の代金を支払わなければならないのか、という問いである。 ザクレスキーが着席すると、あたりは静まり返り、威厳にみちた法廷内は電気で打たれたようだった。彼の弁論がカナダ最高裁の判事達にも私に対してと同様に力強く説得力があることを祈る。
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