特定の哺乳類を標的にして死滅させるGMウィルスを開発
UPI 科学ニュース:シドニー・オーストラリア
2002年8月9日
訳 山田勝巳
標的とする野ネズミや野ウサギなどの害獣を不妊化する事によって死滅させるウィルスを作る遺伝子組み換えプロセスが研究者によって開発された。 キャンベラにある害獣対策共同研究センターの研究者が10年掛かりのプロジェクトで開発した方法は免疫避妊法と呼ばれ、感染した雌は自分の卵子に抗体を作り、卵子を傷つけ受精するのを防ぐ方法だ。
免疫避妊法は既に主要な害獣であるヨーロッパ家ネズミに試験されている。組み換えされたヘルペスウィルス(ミュリン・サイトメガロウィルス)は、ラボ試験では100%避妊を達成している。
この発想は地球規模の重大な意義があると研究者は話す。「オーストラリアでは、ネズミの被害が去年7500万ドルに登る。」とプロジェクト部長のトニー・ピーコックは、UPIに話した。 海外ではネズミの被害はさらに大きい。「アジアの稲作では90億ドルに相当するイネが毎年喰われている。これはアジアの米の1/3に当たる。 マウスで上手くウィルスが開発できれば、今のところ出来そうだが、ネズミでも出来るはずだ。」
この研究チームは、オーストラリアの第一害獣で広い地域で浸食の原因になっている野ウサギのウィルスも開発中で、51年前に初めて現れた時ウサギの数を激減させた粘液腫ウィルスに遺伝子を組み込んでいる。 この間、多くのウサギが粘液腫に抵抗力を獲得し、また毒性の弱い株も出現してきた。このため研究者は、1990年代にウサギのカリシウィルス病と呼ばれるウィルスを放ち、ウサギの数を激減させた。 しかし、現在約3億羽のウサギがオ−ストラリア南部に生息している。
ピーコックは、組み換え粘液腫ウィルスが元の株よりもっと効果的だろうと期待している。今年の2度の実験では、11羽中8羽、成功率70%、の不妊に成功している。「我々はウィルスを魔法の銃弾として推進しているわけではなく、必ず生き残りが出るはずで、これは総合駆除の一つの方法として使うべき物だ。」という。 彼の狙いは明らかに「ウサギのように増える」を過去の物にすることだ。
ピーコックによると効力もさることながら、このウィルスは数日発熱するだけで、毒薬や撃ち殺す方法よりも人道的だという。蚊や蚤で媒介され、標的以外の生き物にも影響を与える毒薬は一切要らず、ウサギの穴を掘ることを考えると遥かに安い費用で効果が出る。
生物学的駆除はオーストラリアでは珍しくない。 近年、バクテリア、寄生蜂、樹液を吸う昆虫、寄生虫などが自然界に放たれている。 多くは成功しているが、それ自体が問題になっている物もある。サトウキビカエルは、サトウキビを食い荒らす甲虫を駆除するために1935年に導入されたが、手に負えないほど増えた悪名高い駆除生物になった。 このような経験があるため、学者、政治家、そして一般にも新たな生物駆除導入には慎重になっていた。
しかし、このチームは同業の専門家から支持を得ている。「この研究は我々や動物愛護団体の支持が強い。」ニューサウスウェールズ国立公園野生生物サービスの州害獣調整員のアンドリュー・レィスは「ウサギの数が50%減るだけでもすごいことだ。」と言う。
国立哺乳動物駆除計画のクェンティン・ハートは、もっと慎重だ。「不妊駆除は上手く行って安全なら良いだろう。しかし、組み換え生物を環境に放つとなれば政治的にも技術的にも困難が多々ある。これらの困難を越えられたとしても、効果を得るためには目標羽数の相当な割合を不妊にしなければならない。」と話す。