モンサントと闘うカナダの農家 シュマイザーさん

       名古屋講演 要約版  03. 7. 2

 遺伝子組換え作物を栽培するカナダの悲痛な実態

 
 

 

 

 

 


私は西カナダのプレーリーの出身で、妻と2人で1947年に農業を始め、小麦、オーツ麦、キャノーラ(ナタネ)などを作って参りました。また、シードセイバーという側面もあり、毎年採れた種を保存して次の年に蒔くという世界中で何千の農家がそのような農業を行なっていると思います。

他にも、議会の議員、地域の自治体の市長として25年間勤め、その間に国レベル、州レベルの農業委員会で法規制とか、政府の政策に関して農民の代弁をして参りました。

この遺伝子組換え(以下GM)作物というのは3つの部分に分ける事が出来ると思うのですが、一つは、農家の権利・特権に対して巨大な多国籍企業の特許権や知的所有権という問題です。2番目は安全性、健康への影響はどうかという事。そして3番目が環境への影響という事です。                        

 自然交配でGM汚染しても特許権の侵害?!

 

今から申し上げる事は農家の権利に関わる問題で、私の身の上に実際にふりかかった事です。'98年にモンサントが私を相手取って訴訟を起こした事から端を発します。私が「GMキャノーラをライセンスなしで作付けして、特許権を侵害した」というのが彼等の主張です。私はそれまで一切モンサント社とは関わりがなく、種子を買った事もありません。この裁判に訴えられて、最初に私と妻が一番心配になったのは、私達が50年間ずっと培ってきた純粋な種子が、モンサント社のGMキャノーラに汚染されてしまったのではないかという事です。「被害を被ったのは私達の方であって、非はあなたの方にあるのではないか」と訴えました。この裁判は連邦裁判所に持ち込まれました。その後モンサント社は、私が不当に種子を入手したという主張は取り下げ、その代わりに「私の農場の溝の部分にGMキャノーラを発見した、そこにある以上は特許権の侵害だ」と主張しました。2週間半の公判が開かれ、判決が下されましたが、この判決に世界中の農家の人達が非常に驚き、懸念を抱きました。

まず第一にこの判決では「どのような経緯でこのGM遺伝子が混入したかは問題ではない」と言いました。例えば花粉が飛んできて自然交配するとか、種子が鳥や小動物やミツバチによって運ばれたり、水害によって流れるとか、いかにしてGM遺伝子が混入したかは問題ではないと。しかし「混入が起こった場合その農家の持っている種子、収穫は全てモンサント社の所有物になってしまう」と。この判決の中で、私の'98年度の農場からの収穫も種子も全てモンサントの物であると下されました。この判決で、私はもはや自分の家で採れた種子や苗を使う事はできなくなってしまいました。

カナダの連邦法の中では農家の権利は保証されており「毎年自家採取した種子を使う権利を持つ」と述べられています。しかしながらこの裁判の判決で、『特許法』が『農家の権利の法律』に優先する事になってしまいました。

私はすぐに控訴し、一年後に再び敗訴してしまいました。昨年の12月に今度はカナダの最高裁に上訴し、この5月に上告の申し立てが受け入れられ、来年の1月20日から裁判が始まる事になっています。

 

契約書で農家をがんじがらめ、私設警察で監視!

 

今、私が手に持っておりますのは、モンサント社が農家との契約に使う契約書です。これは皆さんが企業や政府関係者から全く聞く機会のなかった情報だと思います。

まず自分の家で採れた種子を使う事はできない。次に毎年種子はモンサント社から買わなくてはならない。第三に農薬も必ずモンサント社から買わなくてはならない。第四に毎年ライセンス料として1haの作付け当たり40ドルを支払わなくてはならない。そして最後に機密保持契約という条項にもサインしなくてはなりません。これはもし何らかのトラブルがあった場合、農家の方は友人にも隣人にも誰にも話をする事は出来ないというものです。農家にとって言論表現の自由まで奪われ、報道関係者にも隣人にも言えない、どんなひどい事をされてもそれを公表する事が出来ないんです。

そして最後に申し上げる条項は、本当に悪質だと思うのです。契約を交わしてから向こう3年間、モンサント社の私設警察が農場に立ち入る事を許さなくてはならない、たった1年の契約であっても3年間の立ち入りを許すという条項です。

モンサント社は非常に大規模な私設の警察機構を持っており、アメリカでもカナダでもその警察でもって契約の徹底を行なっています。この契約書の裏にもあり、他のパンフレットにも広告を出していますが、「もし近隣の農家がライセンスなしでGM作物を栽培している事が疑わしい場合には情報提供をお願いします」と書いてあります。もし情報提供を行なった場合は見返りとして、例えば“革のジャケットを差し上げます”という事までしています。

情報が寄せられたらまず2人のモンサント私設警察官をその農家に送り「ライセンスなしでうちのGM作物を作っているのではないか」と言います。農家の方は、「とんでもない、お宅から種子を買った事は一度もない」と言います。すると「お前は嘘をついている。正直に言わなければ裁判沙汰にするぞ。そして裁判が終わる頃には農地を全て失う事になるぞ」と脅します。するとその農家は一体誰が情報提供したのだろうかと考え込んでしまいます。このような猜疑心が農家の間に起こって、これまで長い間に培って来た地域社会の絆とか連帯が崩れてしまう事になります。これはモンサントがやった事の中で、本当にひどい、最悪の事だと私は思います。

私自身は農家としては3代目で、私の祖父母はヨーロッパから北米に約100年以上前に渡って来ました。私の祖父母も父も母も、地域の人達と協力して国を築いてゆこうと学校や病院を建てたり、道を造ったり本当に大変な努力をしてきました。モンサント社の狙いはこういった地域社会の連帯や絆を崩してしまおうという事なのです。

 

ゆすりの手紙? 巨大企業が恐怖によってコントロール

 

もうひとつここに書類を持って参りました。これは農家の間ではゆすりの手紙と言われているものです。この手紙は、「お宅が私達のGMキャノーラなり大豆をライセンスなしで栽培しているという証拠を持っているぞ」と言っています。更に「お宅の作付け面積は、だいたい何haだと思われるので、(それぞれの場合によって)何万ドルを我々に送れ」という手紙で、それを受け取った農家の気持ちは大変なものです。これはまさに巨大企業が恐怖によって農家をコントロールしようという事に間違いないと思います。我々農家の間では、こうした戦々兢々とした恐怖の文化というのが新たに広がってしまったと話しています。

ではちょっと遡りまして、96年に認可が降りて以来、このGMキャノーラおよび大豆をなぜ農家が作付けするようになったのかという理由をお話ししたいと思います。当時モンサント社のうたい文句があって、第一に非常に栄養価が高い、第二に収量が増える、そして三番目に農薬の使用量が減りますよと。「農薬の使用量が減る」と言われた事が、非常に農家の関心をひいたのではないかと思います。そしてまたモンサント側は、「環境に優しい持続可能な農業を実現する」と、そして「世界中の飢餓を救う事にもなるのだ」と言ったのです。

 

収量は減り、品質は落ち、農薬使用量は3倍に!!

 

ではそのGM作物の作付けが始まって2年後3年後に一体どのような事になったでしょうか。まず第一に収量ですが、特に大豆は15%も落ちてしまいました。そして品質もガクッと落ちてしまいました。三番目の点、これが申し上げる中で一番重要ですけれど今や農薬の使用量が少なくとも以前の三倍以上となってしまいました。何故かという理由ですが、キャノーラそのものがスーパー雑草と化してしまったからです。

実際にGM作物を作り始めて、収量は落ち、品質も落ち、農薬の使用量は増えたという事はカナダだけに関わらず、アメリカでも同じ事が起きていますので、モンサントのうたい文句は全部ウソだったという事がわかります。経済的な面で、農家が被った被害は甚大なものです。

まず一つには価格が落ちこんでしまったからですね。このGMキャノーラに関してEUに輸出する事は1ブッシェル(1bushel=約35リットル)たりともできませんので。カナダでは現在農家が育てられない2種類の農作物があり、それは大豆とキャノーラです。全ての種子が汚染されてしまいました。意志に反して、農家の選択肢は奪われてしまいました。

 

近縁種の野菜やハチミツにも広がるGM汚染!

 

もう一つ重要なポイントは、ただ一つの品種の農作物に留まらないんですね。例えばキャノーラはアブラナ科の植物です。アブラナ科に近縁種があり、ラディッシュやカブ、カリフラワーなどですけれども、自然の交配によってこういった市場向けの野菜畑にも汚染が進んでしまうという事があります。有機農家が育てられない農作物、先程大豆とキャノーラと申しましたが、それ以上に他の品種にも今広がってしまっています。近縁種に留まらず、もうちょっと遠い種類の作物にも、例えばホールマスタードにも広がってしまいました。

我々農家も被害を被っていますが、例えばハチミツを作る養蜂家の方達にも影響が及んでいます。西カナダからEUに輸出されたハチミツは、受け取りを拒否されるという状況になってしまっています。GM汚染はハチミツにまで広がってきてしまっています。というのもミツバチにとっては、どの花がGMで、どの花が非GMかとは見分けがつきませんよね。

我々は純粋な種子、在来の種子を失いつつあります、もちろんGM作物の導入によって。GM作物というのは生き物です。一旦環境の中に放出してしまえば、それを回収するのは不可能です。環境に放出してしまったGM作物がどのような影響を与えるかという例として、メキシコにはいろいろな種類の在来種のコーンがあるのですが、もはやその50%くらいはアメリカ産のGMコーンによって汚染されてしまっている状況です。同じ事がボリビアでも起こっており、ジャガイモが原産としてあったんですけども汚染されてしまっています。

 

安全な距離はない!カナダのナタネ・大豆種子は全て汚染

 

日本でGM作物が導入されれば、私達がカナダで経験した事と同じ事になってしまうと思います。二つのとても重要な事がありますが、1番目はいわゆるGM作物の封じこめは不可能であるという事。風を止める事は出来ませんし、自然交配を止める事もできません。例えば導入する時に、試験用の圃場を作りますよね。緩衝帯として50m離すとか、100m離す、500m離すと言いますが、決して安全な距離はない、それはカナダで事実として起こっている事を見て頂ければお分かりになると思います。科学者の多くは、花粉はそんなに遠くまで行かないだろうと言うんですね。でも風で花粉が飛ぶという事以外に、例えば鳥の羽にくっ付いて運ばれる事もありますね。鳥に限らず、ウサギとか鹿とか、そういった動物の毛に付いて何kmという別の畑に運ばれる事もありますから、交配というのは何kmも離れた場所でも起こりうる事です。世界中の国でモンサントがもし試験栽培を行なえば、そこから何らかの形で花粉なり種子が逃げてしまいます。

そして第2番目のポイントは、GMと非GMとの共存はあり得ない事です。一旦そのGM遺伝子を環境中に放出してしまいますと、GM遺伝子は優生遺伝子ですので、どんどん広がってしまうんですね。同じ国の同じ地域でGM作物を作付けする農家と、従来農法の農家と有機農家、この三種類の異なる農家が共存するのは不可能で、GMの農家しか作付けできない事が、私達の住んでいる西カナダで起こっているのです。

農家はまた選択肢を失った事になります。もはや作りたい作物は汚染をされてしまっているからです。世界中の農家がその土地の気候や土壌にあった農作物を努力して開発して来ていますが、モンサント社のように種子の供給を大手が牛耳ってしまうと、農家が独自にその地域にあった品種を開発していくという権利までも奪ってしまいます。

 

日本はまだ選択できる!GM作物を導入するのか、否か

 

私はアフリカの大勢の農家と話した事がありますが「自分の種子を使う権利を失ってはいけない」と主張してきました。もし自分の種子を使う権利を奪われてしまえば、農家の人たちは封建時代の農奴と同じ、奴隷と化してしまう、そして多国籍企業の支配下におかれてしまうのだと。種子の供給をコントロールする者が権力を持ち、そして食糧の供給を行なう国が権力を持ち、支配するという構図ができてしまいます。

でもまだ日本の皆さんは、まだ幸運だと思います。というのは今の時点では皆さんはGM作物を導入するか、しないかを選択する事ができるからです。でも'96年、カナダでは、GM作物の導入によって一体どんな事が起こるのかを説明してくれる人は誰もいませんでした。私達農家はただ企業や政府の言う事を聞いてGM作物を導入した訳ですけれども私達が支払わなくてはならなくなった代価というのは大変なものです。

もう一つモンサントがどのような事をしたかについてお話ししたいと思います。モンサント警察が農家に立ち入った時、ヘリコプターか小型飛行機で、私達はモンサントの『ラウンドアップ(除草剤)スプレー爆弾』と呼んでるんですが、だいたい直径10m位のエリアをスプレーして、ラウンドアップの効き目が出るまで待ちます。そして10日後にもしそのスプレーした場所の農作物が全部枯れていたとしたら、それはラウンドアップ耐性キャノーラを栽培していなかった、もし枯れていなければ、栽培していたという事が判ります。そんな事までしてスパイ活動をしています。

では最後に今回私を日本にお招き下さいまして、本当にありがとうございました。本日お話し致しました事は、実際に起こった事だという事をどうか心にとどめておいて頂ければと思います。カナダのような自由の国でですね、こんな事が起こるなんて私達は思ってもいなかった、実際には起こってしまったというのは非常に残念な事です。

(文責 中部よつ葉会 03.8)

 

 

 

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