GMイネ生産者ねっとNo.430

2003年8月16日

農業情報研究所(WAPIC)

インド:Bt毒抵抗性害虫種が増殖

GMワタ拡散に警告

 

 インドでは、ワタ作に毎年大きな被害をもたらす綿実蛾幼虫(bollworm)を殺す毒素を出す土壌細菌・Btの遺伝子を組み込んだモンサント社開発の遺伝子組み換えBtワタの一般栽培が昨年から始まった。その結果は農学的成績の観点からしても、農民経済への影響の視点からしても散々なものであったとする調査研究報告が既に発表されてきたが、最近、こうした報告がさらに追加されることになった。インドの「遺伝子キャンペーン(Gene Campaign)」が特定の害虫に対して抵抗性をもつ遺伝子組み換え(GM)作物の危険性を改めて浮き彫りにする調査結果を発表したのである。8月8日付のそのプレス・リリースによれば、これまでの観察によると、特にアンドラ・プラデーシュとグジャラートのコトン・ベルトで、このBtワタが殺虫効力をもたないピンク綿実蛾幼虫(pink bollworm)が主要害虫として出現しつつあり、Btワタは「グリーン綿実蛾幼虫」にしか効かないという。科学者・農民・NGO・種子産業・ワタ取引業者の代表者によるBtワタに関する現状と将来について判断するための協議がハイデラバードで開かれたが、この協議から戻ったキャンペーンのディレクターであるスーマン・サハイ(Suman Sahai)博士が明らかにした。科学者はピンク種の発生率が上昇、これによる被害が年々大きくなっていることを確認、農民はこのピンク種の防除のために農薬散布を続けねばならないから、農薬使用削減は期待できないという。

 

 標的害虫がBt毒への抵抗性を発達させることは最初から知られていた。Bt作物に常時曝される害虫にはBt毒抵抗性が発達する。それはこの作物に曝されていない害虫との交雑によって防ぐことが可能とされている。このような害虫の近隣での保存のための害虫「避難地」として、Bt作物栽培に際しては、圃場の20%ほどに非GM作物を栽培することが勧奨されている。しかし、小規模農家にはそんな余裕はないし、大規模農家も非GM作物の栽培によって農薬使用量や手間の削減といったGN作物導入の利便が減殺されることを嫌う。米国では、Btコーン栽培に際しては、生産者と種子企業の契約で栽培地の20%は「避難地」とすることが義務付けられているが、先月発表された農務省農業統計局(NASS)のコーン栽培主要10州に関する調査報告によると、Btコーン栽培農場の21%以上が80%以上にBtコーンを栽培しており、100%をBtコーンに当てている農場も15%に達する。この比率は200エーカー未満の農場で高く、それぞれ34%、28%となるが、200エーカー以上の農場でも100%をBtコーンに当てる農場が6.6%あり、20%ルールを守っていない農場が13%ある。ましてインドのような小規模農家の多い国では、このようなるルールを守るのは難しいと指摘されてきた。

 

 従って、インドにおける標的害虫の抵抗性の発達は当然予想されたことだ。ところが、今回の発表は、このような「ルール違反」が別経路でBt作物の有効性を奪う可能性があり得るという新側面を明らかにした。ピンク種綿実蛾増加の主因は、ここ数年の“Navbharat 151”と呼ばれるBt品種の違法な普及ではないかと推測されている。避難地なしでのBtワタ栽培でグリーン綿実蛾はBt毒に常時曝されている。

これがピンク種の増殖に有利に働いているというのである。農民と育種家は、これと地方に適応したワタ品種を掛け合わせ、自身のBtワタを作り出してきた。これらの違法品種は、非公式な販売ルートを通じて多くの州に拡散しているという。

 

 キャンペーンのフィールド研究では、モンサント社のBtワタのピンク種に対する効き目は非常に弱く、農民は多量の農薬を撒き続けている。サハイ博士によると、科学文献は、圃場のピンク種集団はBt毒への抵抗性を与える三つの遺伝的変異を宿しており、どれか二つの変異遺伝子をもつ綿実蛾は抵抗性をもつと報告している。抵抗性をもつ蛾は、怪しげな他の個体よりも抵抗性をもつ同種の蛾と“つがい”を組み、その子はBt毒に完全に抵抗するようになる。従って、Bt抵抗性は永続し、ピンク種綿実蛾集団中に拡散するだろうという。プレス・リリースは、これはワタ科学者とそのBt害虫防除戦略に対する深刻な挑戦を突きつけると警告している。

 

 ここに示されたような単一の効果を強調する「機能作物」の広範な拡散がもたらす危険性は、例えば乾燥に強い作物、洪水に強い作物といった開発が目されている特定の「ストレス」に強い作物にも共通しているのではないかと恐れることができる。それらは、標的外の「ストレス」にはまったく効かないどころか、却って弱いことがあり得る。乾燥と多湿の両方に耐える作物はあり得ない。乾燥に強い作物は、多湿の条件では全滅するかもしれない。逆は逆である。ところが、一作季の間に干ばつかと思えば集中豪雨が突然襲って大洪水、こうした気象現象がますます頻度を増している。地球温暖化とともに異常気象の頻度と強度がますます増加し、また新種の病害虫も多発するだろうと予想される将来(というよりも現にそうなりつつある現在)、GM技術に依存した「機能作物」が世界中を支配することは、持続的で安定した農業・食糧生産の深刻な脅威となる恐れがある。地域の風土に適応し、自然と地域の農民が作り出し、作り出していくであろう多様な作物・家畜・農法がますます重要性になるのではなかろうか。GM技術の拡散は、こうした多様な作物・家畜・農法の存続を危うくし、遺伝子汚染により、その基盤となる遺伝資源さえ失わせる恐れがある。

 

 なお、「遺伝子キャンペーン」は、発展途上国の遺伝資源とそれに依存する農村・部族コミュニティーの食料と生計に対するWTO−TRIPs(知的所有権の貿易関連側面)のような国際的発展の影響を警戒するサハイ博士(遺伝学)と人々のグループが1993年に創設したインド17州にまたがる草の根レベルの組織である。

 

詳しくはWAPICのHPをご覧ください

http://www.juno.dti.ne.jp/~tkitaba/GMO/news/03081601.htm