アメリカのゲノム編集作物と有機認証
河田昌東(かわたまさはる)
遺伝子組換え情報室
2019/10/12

この間アメリカ産の高オレイン酸大豆が有機認証されるかどうかが問題になっています。この件について少し情報を集めてみました。その結果、この問題は今、アメリカでも大きな問題になっていて、政府や大規模農家はゲノム編集作物が、「外来遺伝子がない」ことを理由に、「表示不要」「安全審査不要」、有機栽培されれば「有機表示可」といった流れが加速しています。

以下、アメリカ産の高オレイン酸大豆関連の情報を整理しました。

(1) ゲノム編集で作った高オレイン酸大豆には二つのゲノム編集企業が関わっている。最初に高オレイン酸大豆を作ったのはミネソタ州のゲノム編集企業 Collectis 社(本社はフランス)で、同社は大豆のオレイン酸をリノレン酸に変化させる酵素を作る遺伝子(FAD2-1A と FAD-1B)をゲノム編集酵素 TALEN で破壊し、高オレイン酸大豆を作った(2014年)。この大豆のオレイン酸濃度は大豆油の20〜80%、リノール酸は本来の50%から4%まで減った。

今回、問題になっている Calyxt 社は同じくミネソタ州のゲノム編集企業で、Collectis 社の子会社である。Calyxt 社は Collectis 社が開発した、この高オレイン酸大豆のオレイン酸濃度をさらに高めるために、同じくオレイン酸をリノレン酸に変える別の酵素を作る遺伝子(FAD3A)をゲノム編集酵素 TALEN で壊して、オレイン酸濃度80%の大豆を開発した。これがアメリカで最初に商品化されたゲノム編集作物である。

尚、Collectis 社は白血病治療に使うゲノム編集 CAR-T 細胞の開発で有名な企業でもある。
(2)Calyxt 社は2018年9月に、アメリカのアイオワ州に拠点を置く大手の有機加工業者 American Natural Processor 社と提携し、ゲノム編集で作った高オレイン酸大豆の油を nonGMOの「Calino Oil」の商品名で販売を開始した。アメリカ農務省と食品医薬品局(FDA)は、この大豆には「外来遺伝子が入っていないので安全審査不要、表示も不要」とお墨付きを与えた。今ではレストランなどでオリーブ油と同様、健康に良い食用油として使われている。 Calyxt 社はこれを皮切りに小麦やその他の農産物にも進出する、と発表した。 Calyxt 社は更に2019年2月19日に、南ダコタ州に本拠を置く大手の農産物流通業者 Agtegra 社と提携し、この高オレイン酸大豆を全国の消費者に届けるための拡販手段にする、と声明した。
(3)実は Calyxt 社は2016年にモンサント社の前CEO(最高経営責任者)だったフェデリコ・トリポジ(Federico Tripodi)をCEOに迎えていた。トリポジは17年間にわたってモンサント社の経営責任者として世界市場の開発に寄与した。 Calyxt 社は彼をゲノム編集関連の特許取得や市場開拓の責任者として期待している。