ラウンドアップは安全だと主張していた
モンサント社支援の論文が撤回された

by Jess Cockerill
訳:河田昌東
原文:science alart / environment:2025/12/09

除草剤グリホサート(商品名ラウンドアップ)は「人体への健康被害をもたらさない」と主張し、物議を醸した科学論文が、業界の関与をめぐる深刻な倫理的懸念から、発表から25年を経て今回正式に撤回された。

この決定は、モンサント社の従業員が除草剤の安全性評価に関する論文の代筆に関与していた事が判明した2017年のモンサント相手の裁判から8年後に下された事になる。
「ラウンドアップが癌や内分泌かく乱など人体に有毒だという証拠はない」と報告したこの論文はグリホサートに関する科学論文の中で最も多く引用されている論文の一つである。この論文は2000年にゲイリー・ウィリアムズ、ロバート・クローズ、イアン・マンローの3氏によって『Regulatory Toxicology and Pharmacology』誌に掲載された。この内容が覆されたという事実は、ラウンドアップの安全性について深刻な疑問を投げかけている。モンサント社は1974年にラウンドアップを発売開始し、後に2018年にドイツのバイエルに買収された。バイエルはこの化学物質は指示通りに使用すれば安全であると今も主張し続けている。
2018年、カリフォルニア州の金物店で販売されているラウンドアップ製品。
(ジョシュ・エデルソン/AFP/ゲッティイメージズ)
「今回のこの論文の撤回は、本論文とその結論の学術的誠実性を損なうと考えられる、いくつかの重大な問題に基づいている」と、同誌の共同編集長マーティン・ファン・デン・ベルグ氏は2025年11月に発表された撤回通知の中で述べている。ファン・デン・ベルグ氏は、この論文の唯一の存命著者であるウィリアムズ氏に連絡を取ろうとしたが、返答はなかった。「この論文は、グリホサートとラウンドアップの発がん性をめぐる議論に関して、象徴的な論文として広く引用されている」とファン・デン・ベルグ氏は述べている。「しかし、論文のどの部分がモンサント社の従業員によって執筆されたのかが明確でないため、導き出された結論の信憑性については不確実性がある。」これらの「重大な問題」の中には、化学物質のがんや遺伝毒性への影響の評価がモンサント社の未発表の研究に基づいており、レビューが書かれた時点で完了していた他の多くの長期研究が省略されているという事実がある。

論文の著者の独立性の欠如は「本論文の著者の独立性と説明責任に関して深刻な倫理的懸念を生じさせる」と、ファン・デン・ベルグ氏は撤回通知の中で述べている。彼は、モンサント社の従業員の関与に関する開示の欠如、そして著者が同社から受け取った可能性のある金銭的報酬を問題として挙げている。

グリホサートは世界で最も広く使用されている除草剤の一つで、産業規模の農家や家庭菜園愛好家が不要な雑草を駆除するために購入している。

農業において、この化学物質は「ラウンドアップ耐性」作物、つまりグリホサートの影響に耐えられるように遺伝子組み換えされた植物と一緒に販売されてきた。現在、これらラウンドアップ耐性作物には大豆、トウモロコシ、キャノーラ、テンサイ、綿花、アルファルファが含まれる。遺伝子組み換えにより、農家は畑全体にグリホサートを大量に散布することが出来、耐性を持たない植物を枯らしながらも、作物には影響を与えずに済んでいる。この化学物質が人間の健康に及ぼす影響、そして自然界と人間の生態系の他の要素への広範な影響に対する懸念が高まっている。

ハーバード大学の科学者ナオミ・オレスケスは調査の結果、今回、撤回された論文が800以上の学術論文、数十の政府文書、そして複数のウィキペディアの記事で引用されていることを発見した。彼女は、現在多くの大規模言語世界が情報源としてこれらの論文に依存していると指摘している。

ラウンドアップでくん蒸消毒されるアルゼンチンの大豆畑
(Pablo Aharonian/AFP)
2015年、世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)は、主に動物実験に基づき、グリホサートは発がん性がある可能性が高いと結論付けたが、他の保健機関や団体はこれに異議を唱えています。グリホサートがヒトに真のリスクをもたらすかどうかを判断するには、厳格かつ真に独立した研究が必要である。

バイエルは、2020年時点で係争中だったラウンドアップの潜在的な発がん性に関する訴訟で、これまでに100億ドルを支払っており、今後67000件以上の訴訟が提起される予定だ。撤回通知と原論文は、Regulatory Toxicology and Pharmacology 誌に掲載されている。撤回された論文の影響に関するレビューは、Science 誌に掲載されている。

訳注(河田):除草剤ラウンドアップの安全性については販売当初から問題が指摘されてきた。例えば、フランスのカーン大学のセラリーニ教授らがラウンドアップ耐性コーンをラットに長期間食べさせた結果、GМの安全審査で行われている1〜2か月間は何も起こらなかったが、6か月以降から乳がん始め様々な癌などが多発したという結果を科雑誌 Food and Chemical Toxicology(2012年9月)発表したところ、モンサント関連と思われる世界中の多数の研究者から異論が殺到し、雑誌社がこの論文の掲載を撤回した、という事件が起こった(2013年11月)。しかし、別の学会誌(Environmental Sciences Europe: 2014年6月)が同じ内容で再掲載している。今回の論文撤回は除草剤ラウンドアップの安全性を証明したとして、日本の食品安全委員会や推進派も引用してきた論文だが、実はその論文の一部がモンサント関係者によって書かれていた事や、モンサントからの資金提供で実験が行われていた、等倫理的にも大きな問題があった。


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