米国FDA(食品医薬品局)が遺伝子組換え豚を認可


河田昌東
2025/4/26

はじめに

 うかつにして知らなかったが、米国のFDAが2020年12月15日にGМ豚を認可していた。
今時、ゲノム編集ではなく遺伝子組換え(GМ)というのも驚きだが、GМも依然として利用されている事を改めて知らされた。動物の遺伝子組換えの認可は一昨年、撤退した遺伝子組換えによる巨大サーモンに続く2例目である。カナダでも遺伝子組み換えで豚糞にリン酸が少ない豚が開発されたが、カナダ政府は認可していない。
1)GМ豚の目的

 米国の企業 Revivicor(株)が開発したGМ豚は豚肉のアレルギー対策だという。豚肉のアレルギーはあまり聞きなれないが、子どもの頃は食べられた豚肉が大人になるとアレルギーで食べられなくなる人がある、という。αガル・シンドロームというらしい。マダニにかまれると、その唾液に含まれる α-gal(化学名:ガラクトース-α-1,3-ガラクトース)という糖分に対する抗体が作られるようになり、そのアレルゲンは豚の細胞膜にもあるためアレルギーになるという。これを合成する豚の遺伝子を外来遺伝子の挿入(後述)で破壊し、α-gal を合成出来なくした。この豚を GalSafe 豚という。実は、GalSafe 豚には別の目的がある。豚の細胞表面の糖 α-gal はヒトにアレルギーを起すが、その抗原抗体反応が豚の臓器のヒトへの移植を妨害する。その結果、ヒトへの豚臓器移植が出来ない原因の一つである。今回の GalSafe 豚の本来の目的は、異種臓器移植らしい。
2)GalSafe豚はどうやって作る?

 豚細胞のα-gal合成遺伝子 glycoprotein galactosyltransferase alpha-1,3(略称GGTA1)を破壊するために、pPL657 という合成DNAと抗生物質耐性遺伝子 nptll(ネオマイシン耐性)を挿入したベクター(遺伝子の運び屋、ウイルス)を培養した豚の細胞に感染させ、α-galが出来ない細胞を選別した。その細胞核を豚の卵細胞の核と入れ替えて子宮に戻した。詳細は Revivicor社の特許で不明だが、要約すれと以上のような手法でGМ豚は生まれた。勿論、この豚肉はアレルゲンは含まないが、抗生物質ネオマイシン耐性遺伝子を含み、この豚肉を食べれば、腸内細菌がこの遺伝子を取り込んで腸内細菌がネオマイシン耐性になる危険性が高い。その結果、耐性菌が感染してもネオマイシンが効かないリスクがある事は、これまでの遺伝子組換え作物の場合と変わらない。
3)安全性評価は行われていない

 この GalSafe豚は現在、まだ市販されてはいない。Revivicor 社はネット販売を行っているらしいが詳細は不明である。問題は、従来のGМ作物は厳重な安全性評価が行われ、その結果は公開されてきたが、今回のGМ豚についてはFDAは安全性評価を行っておらず、動物実験なども行われていないようだ。FDAのホームぺーにアクセスしても安全性評価の記録は見当たらない。かつては遺伝子組換え生物の安全性評価の詳細なデータが公表されていたが、何時から、何故、非公表になったかは不明である。



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