遺伝子組換えの「光る魚」がブラジルの小川に侵入
水族館は養魚場からの脱出後による繁栄が、
地元の生物多様性を脅かす可能性があるかも知れないと懸念している


訳:河田昌東(NPO法人チェルノブイリ救援・中部)
原文:science news 2022/02/11
(Sicence Vol 375, Issue 6582)


暗闇で青、緑、または赤く光るように遺伝子操作された魚はこの何年もの間、水族館愛好家の間で大ヒットしてきた。しかし、この蛍光ペットはもはや水槽の中だけで住んでいるわけにいかなくなっている。自然の光の中でも通常のゼブラフィッシュより鮮やかな赤と緑に光るこの魚は、ブラジル南東部の養魚場から逃げ出し、大西洋岸森林の河川で繁殖していることが新しい研究で分かった。これは、遺伝子操作動物が誤って自然界に定着したまれな例であり、外来魚が地球上で最も生物多様性のある場所で地元の生物を脅かす可能性があることを心配する生物学者にとっては大きな懸念である。

「これは深刻です」と、クリチバのパラナ連邦大学の生態学者JeanVitule は言う。 この研究の関係者ではなかった Vitule は、この生態学的影響は予測できないと言う。彼は、例えば繁殖池から逃げたこのゼブラフィッシュの蛍光遺伝子が他の在来魚に導入されれば、その捕食者にとって餌がより見やすくなる可能性を心配している。「それは暗闇の中でのショットのようなものです」と彼は言う。

遺伝子組み換えゼブラフィッシュは赤、青、緑の蛍光色で販売されている。
PaulodeOliveira / Minden
この歓迎されない訪問者は、何十年にもわたって発生および遺伝学の研究にゼブラフィッシュ(Daniorerio)を使用してきた科学者によく知られた存在である。東南アジア原産の小型のこの淡水魚は、研究目的で1990年代後半に蛍光クラゲ(青と緑の色)とサンゴ(赤)の遺伝子を導入し光るように設計・製造された。 2000年代、企業はこのネオンフィッシュがペットとして売れると見ていた。結局、この光るゼブラフィッシュは Glofish として商標登録され、市販された世界初の遺伝子操作動物になった。

現在、この魚は自然界に脱出し繁栄した最初の例である。早い段階で、環境保護論者はその可能性を心配し、これを繁殖させている米国のカリフォルニアや他のいくつかの国で Glofish の販売は禁止された。
2014年、米国フロリダ州タンパベイ地域の観賞用養魚場近くの運河で1匹の Glofish が発見された。しかし、おそらく東部の硬骨魚カダヤシ(Gambusia holbrooki)やオオクチバス(Micropterus salmoides)等の在来の捕食者がこの侵入者を食べたため、それは増殖しなかったと、この遺伝子組換え魚を発見した生物学者、フロリダ大学のクエントンタケットは述べている。

しかし、ブラジルはこの魚にとってより親切だった。サンジョアンデルレイ連邦大学のメインキャンパスの生物学者であるアンドレ・マガリャエス(Andre Magalhaes)は、2015年にパライーバドスル川流域の流れの遅い河川で泳いでいるこの遺伝子組換えゼブラフィッシュの群れを最初に発見した。この水域はラテンアメリカ最大の観賞用養殖センターである地域ムリアエに隣接しており、マガリャエスによると、この魚は川に水を放流している養殖センターの 4500 の池の一部から逃げ出した、とのことである。

米国のフロリダとは異なり、ブラジル河川には在来種でゼブラフィッシュを捕食する動物がいない。その結果、彼らが今繁栄しているとマガリャエス信じている。2017年、彼と同僚は3つの自治体で5つの河川の調査を開始し、すべての自治体で遺伝子組換えゼブラフィッシュを見つけた。 彼らは1年以上にわたり2か月ごとに、この魚とその卵を収集して測定し、胃の内容物を分析して何を食べているかを確認した。

このGMゼブラフィッシュは一年中繁殖しており、アジアの在来ゼブラフィッシュと同じように、梅雨の時期に繁殖のピークを迎える。しかし、遺伝子組換え魚はその先祖よりも早く性的に成熟しているようで、その結果彼らはより多くの繁殖し速く拡散している。この魚による在来の昆虫、藻類、動物プランクトン等の多様な食餌について、研究者たちは今週、新熱帯動物の動物相と環境に関する研究で報告した。「彼らは外部への侵略の初期段階にあり、今後この拡散は継続する可能性がある」とマガリャエスは言う。やがて、魚は餌を求めて競争したり、それらを捕食したりすることによって、地元の種に直接影響を与えるのに十分なほど豊富になる可能性があると彼は言う。

ブラジルでは遺伝子組換え魚の販売は禁止されているが、地元の農場では飼育が続けられており、全国の店舗でペットとして販売されている。 彼らはすぐにブラジルの他の地域を植民地化するかもしれない:実際、Glofishの1個体ずつが2020年にブラジル南部と北東部の池と小川で発見されている。

米国のフロリダで数十万匹の光る魚を育てる農場の近くに研究所があるタケットは、ブラジルでの検出はブラジルの魚生産者と天然資源管理者にとって「問題に対する目覚めの呼びかけだと捉えるべきだ」と言う。 しかし、彼は影響についてはそれほど心配してない。彼は、遺伝子組み換え魚がより大きな水域に移動する際に捕食者に遭遇するのではないかと疑っている。そして、その魚の明るい色は彼らを捕食者に対してより脆弱にする可能性がある。

今のところ、光る魚は「コンクリートに生えている小さな雑草にようなものだ」とタケットは言う。マガリャエスは比喩が好きだが、少しの雑草でも成長して多くの損害を引き起こす可能性がある、と指摘している。

数十万匹の光る魚を育てる農場近くに研究所があるタケットは、ブラジルでの検出はブラジルの魚生産者と天然資源管理者にとって「目覚めの呼びかけだと捉えるべきだ」と言う。しかし、彼は影響についてそれほど心配してない。 彼は、遺伝子組み換え魚がより大きな水域に移動する際に捕食者に遭遇するのではないかと疑っている。そして、その魚の明るい色は彼らを捕食者に対して脆弱にする可能性がある。



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