1 | 「交雑が発生する理論的可能性がない」という債務者の主張は,農業の現場に日常的に交雑を経験している農業従事者からすれば,余りに非現実的な理論といわざるを得ない上,その他の主張部分も首を傾けざるをえないものが枚挙にいとまがない。 |
2 |
たとえば,GMイネの開花予測時期の点である。債務者はみずから答弁書でGMイネの開花予測時期を8月20日から9月3日としていながら、ここにきて、変更の根拠を示さないままいきなり「過去のデーターから8月24日と想定される」と主張を修正してきた。
思うに、周辺イネの開花時期との間隔を広げるための主張と思われるが,出穂期を8月24日の一日だけに限定すること自体,稲作を知らない証であり,論外の論といわざるをえない。
ちなみに,星川清親(ほしかわきよちか)著の「新編 食用作物」66頁以下には,
「出穂:1株全体の茎が出穂を終わるのに約1週間、圃場全体では約2週間を要する。ふつう、圃場の周縁部の株が最初に出穂する。これを出穂始めといい、圃場全体の50〜60%が出たときを出穂期、そして90%が出穂したときを穂揃期と規定している。」,「開花:一般に出穂直後または出穂途中で開花が始まる。1穂の全花が開花し終わるのには4〜10日、平均7日を要する。」
と記載されている。 |
3 |
また,「上越地域の平成17年度の田植えは5月22日で終了しており,周辺農家のイネの出穂時期は最もおそいものでも8月10日とされる」という点(別紙5)も,債権者らが僅か1日の間で調査した限りでも,上越市の農家で6月に入って田植えを終了した農家が散見されており,実態を無視した報告となっている。
しかも,債務者はみずから答弁書では、「本件近隣農場のイネの予想開花時期は8月1日から15日」とされていたものが,上記のとおり,今回の書面では,何らの根拠を示すことなく,出穂時期は最もおそいものでも8月10日とされる」と変更している |
4 |
さらに,交雑防止の袋かけについても,債務者はみずから、栽培実験計画書(疎甲8の2頁末尾)、で,「組換え個体に袋掛けをするかまたは組換え栽培区を不織布で覆うなどして」と表明しておきながら,今回、変更の根拠を何も示すことなく,「組換え個体に袋掛けをし、なおかつ組換え栽培区を不織布で覆う」と修正してきたが,しかし、二重にも被覆措置を施してまでやる野外実験にそもそもどのような実験の目的・意味があるのか,誰しも疑問に思うほかない。
ここから明らかなことは、今の債務者の頭にあることはただひとつ、本来の実験の目的をかなぐり捨ててでも、とにもかくにも野外実験をやったという既成事実を残すことにしかない――それは、取りも直さず、本来の野外実験の事実上の中止にほかならない。 |
5 | このように,債務者の交雑防止措置に関する主張は,あまりに場当たり的で,実効性に疑問が残るものである。債務者において人知を尽くして交雑防止措置を取ったとしても,それでも交雑の可能性を否定できないのであれば,本野外実験が室内実験から野外実験に移行するために本来解決しておかなければならない重要な安全性・問題点について全く対策が示されず、なおかつ本野外実験の有用性・必要性も極めて疑わしい本野外実験は即刻中止すべきである。 |