平成17年(ヨ)第9号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分事件

原  告  山 田   稔 ほか11名
被  告  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (5)

2005年8月1日

新潟地方裁判所高田支部 民事部 御中
債権者ら訴訟代理人弁護士 神山美智子
弁護士 柏木 利博
弁護士 光前 幸一
弁護士 近藤 卓史
弁護士 馬場 秀幸
弁護士 柳原 敏夫



目  次
第1
裁判の進行について――時期に遅れた攻撃防御方法の却下
第2
事実関係の整理
第3
その他の事実関係
第4
本野外実験の違法性について――法律関係――

第1
裁判の進行について――時期に遅れた攻撃防御方法の却下
 最初に、本裁判の進行について、一言述べておきたい。
 かねてより、債権者は、本裁判は、本野外実験の安全性の有無という真相解明のためには、証拠が債務者の元に完全に偏在しているため、必要な証拠の提示を再三再四、債務者に要請してきた。にもかかわらず、債務者は、債権者が必要と考える問題点解明のための資料(準備書面(2)33〜34頁)を、今までのところ、ひとつも提出していない。
 しかも、本裁判は、事件の性質上、終わりの時期が最初から決まっている。よって、本裁判のほぼ終わり間近である今日まで、債務者から、上記資料が証拠として提出されなかったということは、万が一、この期に及んで、上記資料が債務者から提出されたとしても、それは明らかに、時期に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきものである。なぜなら、債権者がかねがね提出を求めてきた資料はいずれも裁判前から存在していたものであり、したがって、時期に遅れたことは明らかであり、なおかつそれは債務者の故意またはこれと同視できる重大な過失によるものであることも明白だからである。
 この点の怠慢について、裁判所は債務者に厳しく処置していただきたい。
第2
事実関係の整理
 ここでは、本野外実験の性格上多岐にわたらざるを得なかった債権者のこれまでの主張を、その重要性の観点から、全体を整理しておきたい。
はじめに
 基本的なことであるが重要なことなので、はじめに、再度、確認しておきたい。つまり、債権者が本裁判で求めているのは、GM推進の是非でもなく、またGM作物の野外実験一般の是非でもない。あくまでも、債務者の今回の野外実験の危険性・問題点という具体的、個別的な問題だけを問うている。それゆえ、例えば、定型文書に署名しただけで、GM作物の野外実験一般の推進を要望したにとどまる疎乙38〜103の研究者の要請書といったものは、本裁判と無関係である。
本野外実験の問題点
 そこで、事実関係において、債権者がほかならぬ本野外実験を問題だと考える根拠は、大別して次の3つにまとめられる。
第1に、室内実験において本GMイネの安全性・問題点を十分に詰め、解決していない現段階で、野外実験に移行するのは時期尚早であり、その危険性の点から許されないこと。
第2に、その本野外実験の交雑防止やイネ花粉防止などの安全対策の点において見過ごすことのできない不備があり、その危険性の点から許されないこと。
第3に、他方で、こうした問題の多い本野外実験を敢えて推進する積極的な必要性・有用性が認められず、またそれを実証するデータもないこと。
 以下、順次、その要点を拾い上げる。
第1の問題点
 第1の問題点とは、債権者が準備書面(2)の9〜19頁にわたって主張した、主に以下の論点である。
(1)
ディフェンシンの作用機構(人体へ害作用がないかなど)が依然、未解明であること
 それゆえ、《ディフェンシンについての知見の蓄積を待ち、ディフェンシンの影響を合理的に推察できる程度の実験事実が集まった後に、再度の検討してから野外実験の是非を考えるべきである。》(金川陳述書疎甲19)
(2) 「ディフェンシンが食用部分には絶対に移行しない」かどうか、依然、未解明であること。
 それゆえ、《ひとまず本野外実験は中止し、実験室内で、その作用機構が「不明の点が多く」「まだまだ未知の領域が多い」ディフェンシン蛋白質について、玄米の外側の皮や胚芽部分も含めた食用部分への発現および移行について、知見を蓄積する研究に励むべきである》
(3) ディフェンシンに対する耐性菌が出現した報告が出たこと。
 これは、《ディフェンシン耐性を獲得した菌が病原菌ではなくても、この菌が人類にとって致命的な影響を与えるおそれがある。そもそも、人類の皮膚には多数の細菌が付着しており、また、腸内には100兆個以上の細菌が存在すると推定されているのであって、これらの細菌のいくつかは、ディフェンシンによって活動を抑えられているがゆえに、皮膚の表面や腸管上での繁殖が抑えられて、これまでのところ病原菌になりえないのかもしれない。ところが、ディフェンシン耐性を獲得することで繁殖が可能になり、今までは病原性を示さなかった菌が、病原菌に変身する可能性は十分に考えられる。そうなると、人類が未経験の病原菌が出現することになるわけで、抗原抗体反応による防御もすぐには働き得ず、大きな被害を出す可能性がある。》(金川陳述書疎甲19)それゆえ、この人類および植物に対する脅威の可能性の重大性にかんがみ、《本野外実験は即刻中止し、実験室内において、この耐性菌の問題について、知見を蓄積する研究に励むべきである。》
(4) 土壌微生物に対し、重大な影響があること
 これは、《本GMイネが産出するカラシナ由来のディフェンシンも、いもち病菌だけでなく、様々な土壌微生物に対して抗菌効果を発揮することが予想される。‥‥葉緑組織である茎と土壌が接する部分において、微生物数の減少が予想される。また、イネは湛水して栽培される植物であり、ディフェンシンが細胞外へと分泌される物質であることを考えると、水中に浸かっている茎からのディフェンシンや、雨などで葉や茎から落ちたディフェンシンが、水中へ移行して広い範囲にいる微生物に影響を及ぼすことが予想される。》(金川陳述書疎甲19)そして、《本GMイネにおいては、常時、抗菌性たんぱく質を作り続け、これを水中へ撒き散らす》が特性を持つがゆえに、《土壌微生物への影響は、今まで以上に大きいと予想され》、それゆえ、本野外実験は即刻中止し、《実験室内において、詳細な検討が必要である。》
第2の問題点
 本来であれば、第1に指摘した様々な重大な問題点を詰め、解決をした上で、本野外実験に移行すべきである。ところが、債務者は、これをやらないまま本野外実験にくり出した。しかも、その本野外実験たるや、以下に指摘する通り、交雑防止やイネ花粉防止などの安全対策の点において見過ごすことのできない不備があり、その結果、このままいけば、交雑等によりGM汚染の回復不可能な事態が発生する危険性が極めて大きい。
(1)
交雑の可能性について
 まず、本野外実験における交雑防止とは本来いかなるものでなくてはならないか。
 この点、天明伸浩作成の陳述書(疎甲71)が、GM米のたった1%の交雑(100粒の米のうち1粒が交雑すること)でも、或いはたった1粒の交雑からでも、GM米がいかに爆発的に増殖する可能性があるかを説明したくだり(4〜5頁)からも明らかな通り、いわゆるGM汚染の被害拡大を防止するためには、100%交雑しないこと、つまり文字通り完全に交雑防止するしか方法はない。
 しかし、債務者は、これが不可能なことを既に自認している(疎甲72に収められたTV番組中において、債務者の田中宥司氏は、「交雑が起きることは、まずない」としか答えられなかったからである。その解説である疎甲73の報告書1〜2頁参照)。
 また、債務者の交雑防止の拠り所にする疎乙9の矢頭レポートの結語
《実際に一般圃場において交雑可能な距離は大きく見積もっても26mとするのは科学的に十分合理的である》
も端的に間違っている。なぜなら、既に海外で、イネの交雑可能な距離は43.2mという報告例が出ているからである(疎甲30.655頁。表8左下。2003年、2004年)。しかし、これは別に不思議なことでもなんでもない。なぜなら、前記矢頭氏も認める通り、《イネにおいて風力と花粉飛散距離の関係はこれまでに報告が少ない》(疎甲13の同氏の論文17頁右下から3行目)のであり、その結果、実験データが増えれば増えるほど、最大距離が長い結果がでてくるのは当然のことだからである(2004年、わずか5つの検出例から交雑防止に必要な距離を算出した農水省の栽培実験指針検討会が、翌年、新しい交雑距離の検出結果が出たという理由で、すぐさま20mから26mに延長されたエピソードはそのことを端的に物語る)。したがって、ここから導かれる結論とは、「今あるデータを基に花粉飛散距離を普遍化することは禁物であり、それを守ったからといって、交雑を完全に防止することはできない」ということである(植物育種学と受粉生物学の専門家生井兵治氏の疎甲30。657頁右20行目以下参照)
 さらに、開花時期の点においても、本野外実験場の周辺農家の一般水田の状況を調査した債権者山田稔作成の陳述書(疎甲62)から、もともと一般農家のイネと5日しか開花時期のズレを予定していない(答弁書10頁(4)A)本GMイネが、一般農家のイネと開花時期が重なることを完全に否定することは不可能であることが明らかである。
 また、債務者は、袋がけで交雑防止すると言うが、これで交雑を完全に防止できないことは、疎甲72に収められたTV番組中において、司会が台風の例を挙げてそれが不可能なことを指摘していたくらい明白なことであり、要するに「交雑の完全な防止」からみて、ただの気休めでしかない。
(2) イネ花粉防止について
 準備書面(2)でも指摘した通り、カルタヘナ法で「人の健康に対する影響を考慮する」ことが要求されているにもかかわらず、本野外実験において、債務者はその対策をひとつも講じていない。 
 この点は、先日、新潟県の市長会が本野外実験中止を求める決議を行なった際にも、その理由のひとつとして「導入遺伝子が新たなアレルギー物質にならないのか‥‥県民の不安は高まっている」と指摘され(疎甲69)、大きな社会問題になっている。
 したがって、このまま本野外実験が続行され、花粉が飛散した場合に、人に対する新たなアレルギー物質にならないという保証はなく、この点からも、本野外実験は即刻中止されるべきである。
第3の問題点
 他方で、本件においては、こうした問題の山積した本野外実験を敢えて推進する積極的な必要性・有用性も認められず、またそれを実証するデータもない。そのことは、準備書面(2)で、主として次の通り指摘した。
(1)
ディフェンシン遺伝子導入イネがどの程度有用性なのか、その有用性を証明した実験データがないこと。
 つまり、今までのところ、《いもち病菌を制圧するに足りるディフェンシンの必要濃度がはたして本GMイネで実現されているのかどうか、本実験を通して、発現データ(ディフェンシンタンパク質の動態)が殆ど示されておらず、不十分と言うほかない。》
(2)
いもち対策として従来の品種改良イネで十分であること(19〜20頁)。
 また、《白葉枯病は、少なくとも新潟県では、《近年、発病事例が極めて少なく》、もはや「確認」することすら困難な病気であ》(準備書面(4)6頁)り、これを強調する前提がもはや存在しない。
(3)
いもち病の被害の程度は《イネ収穫量全体のわずか1.8パーセントにすぎない》(20頁)。また、債務者は、本野外実験の有用性として主張する《本GMイネによりいもち病の被害がどの程度回復することになるのか、或いは農薬がどの程度軽減されることになるのか、債務者はその具体的な数値を全く明らかにしていない。》
(4)
債務者は、本GMイネの早急な実用化を、公的な文書で表明している(疎甲2115頁3行目。疎甲81頁1(1)@とA)にもかかわらず、未だ食品安全性の審査を受けておらず、その意味で、カルタヘナ法に抵触するのみならず、実験の手順としてもこのまま多額の研究費と時間を費やすべきではないこと。
(5)
もし「「食用部分にはディフェンシンは発現しないもしくは移行しない」としたら、それは、もみいもちタイプのいもち病菌対策としては全く無意味な本野外実験であること(24頁)。
第3
その他の事実関係
実験中止により債務者に回復不可能な損失が発生するか否か
 この点、債権者は、既に有機農家の金谷陳述書(疎甲18)で、債務者に回復不可能な損失が発生しないことを具体的に立証した。
 今回、大学時代、農学部でイネの研究をした有機農家の天明伸浩の陳述書により、この点をさらに明らかにした。
債権者の被る損失は回復容易なものか否か
 この点も、既に金谷陳述書(疎甲18)で、債権者の被る損失は回復容易なものではなく、その反対の回復不可能なものであることを具体的に立証した。
今回、上記天明伸浩の陳述書により、この点をさらに明らかにした。
同じ主食の小麦について、GM小麦商品化事件の顛末と教訓
 米と並んで世界の主食である小麦について、昨年5月に、GM小麦の商品化が断念されたという本件にとっても貴重な事件が存在する。
 2002年12月、モンサント社が、米国とカナダにGM小麦の商業栽培の認可を申請したのに対して、米国は認可したが、カナダでは国内に猛反発が起き、カナダの小麦生産者からGM小麦を拒否する広告が打たれ(疎甲66)2004年1月16日、カナダ農務省はモ社との共同開発を断念すると発表した。また、小麦輸入国はいずれも、もしGM小麦の商品化がされれば、買い付け先を変更すると警告し、最大のバイヤーである日本の食糧庁と製粉業界が警告し(疎甲65)、米国の小麦生産者からも強い不安がだされ、ついに2004年5月、モンサント社が世界中でGM小麦プロジェクトを断念すると発表された(疎甲63(10))。
 これまで飼料用が主な用途だったGM作物と異なり、主食であるGM小麦の商業栽培については、消費者のGM懸念が非常に強いため、売れるはずもなく、さらに、GMではない普通の小麦もGMとの完全な分別流通が不可能なため混入が避けられないことから、GM小麦生産国では普通の小麦についても輸出市場を失うことから、GM小麦のプロジェクトを断念するに至ったものである。
 これまでGM作物が曲りなりにも受け入れられてきたのは、何よりもまず、それが主食以外の作物だったからであり、ことがいったん主食に及べば、生産者、消費者の多くの反対の声があがり、現状では、GM作物の商品化は断念せざるを得ないということである。そうだとしたら、小麦と並ぶ主食である米についても、同様の帰結が相応しい――これがGM小麦事件の教えである。
第4
本野外実験の違法性について――法律関係――
GM作物の安全性の評価についての基本原則
 GM作物の安全性の評価についての基本原則とは「予防原則」である。このことは、農水省の外郭団体(社)農林水産先端技術産業振興センター作成のハンドブック「バイテク小事典」にも、次のように明記されている(疎甲70)。
《バイオの分野では、遺伝子組換え食品の安全性に関して、予防原則を基に話し合いが進められている事実。》(111頁)
 また、EUカルタヘナ法においても、その前文の22で、次のように明記されている。
《本規則の適用にあたっては、予防原則が考慮されなければならない》(疎甲75)
 もっとも、もともとカルタヘナ法の元になったカルタヘナ議定書、その第1条で明らかにされた、
「この議定書は、環境及び開発に関するリオ宣言の原則15に規定する予防的な取組方法に従う」
という基本原則からすればこれは当然のことである(申立書13頁。疎甲5)。
カルタヘナ法の不備について
 ところで、わが国のカルタヘナ法が生物多様性の保全という基本理念に照らし種々の点で不十分なものであり、具体的に、保全すべき「生物」の範囲を、《栽培植物や飼育動物を除外し、基本的に野生生物だけを対象とした(4条5項参照)》(29頁)ことは、準備書面(2)で主張した通りである。
 今、そのことを明らかにした環境省作成のカルタヘナ法の解説文を書証として提出する(疎甲67)。また、EUでは、同じカルタヘナ議定書に基づいて制定されたカルタヘナ法が、保全すべき「生物」の範囲を文字通り「すべての生物」とし、栽培植物や飼育動物を除外しなかったことを、わが国のカルタヘナ法と対比するために参考文献と条文を書証として提出する(疎甲68、75)。
地元住民の同意またはそれと同等の「地元住民の十分な理解」の不存在
 前述した通り、様々な不備を抱える我が国のカルタヘナ法が本件において「地元住民の同意」を要求しないのは、本法の目的が野生生物の多様性を保全することに限定し、栽培植物を除外したためである。もし「生物多様性条約」やEUカルタヘナ法のように、本来の姿=「栽培植物も含めたすべての生物の多様性の」保全を目的とするなら、本件のようなケースでは、当然、農家である「地元住民の同意」が不可欠となる。
 そのような観点から本件を眺めた時、債務者が行なった地元住民の同意またはそれと同等の「地元住民の十分な理解」に関する手続は不十分極まりないことが明らかである。そのことは、既に準備書面(2)31頁で指摘したのみならず、この間、さらに、
(1)知事が「『関係者の理解が十分に得られているとは思えない』とセンター側の説明不足を批判した」((7月5日新潟日報)
(2)
新潟県の市長会が本野外実験中止を求める決議を行なった際、センターの対応について、その決議の中で、「説明責任が十分果たされているとはいえない」「十分な説明もない中、遺伝子組み換え稲の屋外田植えが行なわれたことはまことに遺憾」と厳しく批判(7月22日新潟日報。疎甲69)。
と、債務者の説明責任の著しい不履行が次々と指摘され、つい先ごろ、本野外実験を特集した7月31日のTBSの番組でも、債務者の説明責任の放棄を明らかにする近隣農家のインタビューが放送された(疎甲72、同73)。

 したがって、カルタヘナ法本来の理念に照らし、地元住民の同意またはそれと同等の「地元住民の十分な理解」の点は、本野外実験の適法性を基礎づける上で極めて重要なものであるにもかかわらず、以上の諸事実からして、債務者のこの点の不備は際立ったものがあり、ゆえに、この点からしても、本野外実験の違法性は大きいと言わざるを得ない。
被保全権利
個人の生命、身体、健康、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、この総体を人格権ということができ、何人も、この人格権を侵害されることなく、また、総体としての人格権のひとつとして、今日、
(1)良好な生物多様性が維持された良好な自然環境の中で平穏に日常生活を営む権利及び
(2)
良好な生物多様性が維持された良好な自然環境の中で安全に安心して食する権利
が極めて重要になってきており、これらが侵害されたときは侵害行為を差し止めることができる(昭和50年11月27日大阪高裁「大阪空港公害訴訟」判決参照)。
 また、何人も職業選択の自由があり、たとえば農業における有機農業に端的に見られる通り、その人格権的な側面として、良好な生物多様性が維持された良好な自然環境の中で生産(農業)を営む権利があり、これを侵害されたときもまた侵害行為を差し止めることができる。

本件において、前述した通り、本野外実験は様々な危険性、問題点をはらんでおり、このまま続行されれば、現在または将来にわたって、良好な生物多様性が維持された良好な自然環境が失われる高度の蓋然性が存在する。とりわけ、疎甲58の番組中で、遺伝子汚染にやられた海外の農家が語っていたように、一度、GM汚染にやられてしまった農地は、二度と従来の自然環境の下で農業を行なうことができず、回復不可能な侵害を被る。また、主食である米が「GM汚染にやられてしまったのではないか」という高度の蓋然性は、いとも容易に風評被害を招き、これによっても、農家(の債権者)は回復不可能な経済的損害を被る(そのことは、GM小麦の商業化の事件で経験済みである。疎甲63)。さらには、GM小麦の商業化の事件で世界中の消費者がそうしたパニックに陥ったように、主食である米が「GM汚染にやられてしまったのではないか」という高度の蓋然性により、消費者(の債権者)は、主食を奪われるという強度の不安に襲われ、著しい精神的苦痛を受ける。つまり、本野外実験により、債権者の生命、身体、健康に関する利益のみならず職業選択の自由等にわたって著しい危険にさらされている。
 したがって、本野外実験の実施により、債権者のこうした生命、身体、健康に関する利益および職業選択の自由等が侵害され、回復不可能な侵害及び経済的、精神的損害を蒙らせるおそれがあり、よって、債務者の本野外実験を事前に差し止める必要があることは言うまでもない。

以 上