(1)
 | つとに知られている通り、一般に、原子力事故、バイオハザード(生物災害)、医療過誤といった高度の専門的領域をめぐる事故・紛争においては、一方にのみ証拠が偏在するという問題が宿命的に伴う。従って、そのような紛争の迅速かつ適正な解明のためには、当然のことながら、専門的な証拠を保有する側が積極的にこれを開示することが要請され、また、それによって初めて、当事者間の実質的な公平な裁判が確保される。 |
(2) |
本件のようなGM作物の栽培実験においては、本実験がそれに従うことになっている(疎甲3末尾参照)農林水産省の栽培実験指針において、
「計画書について意見が寄せられた場合には、計画書に記載した内容について、科学的根拠や関連する情報をわかりやすく説明するなど、情報提供と意見交換に努めること。」(疎甲14の2)
(http://narc.naro.affrc.go.jp/inada/def-rice6/jikken-shishin.pdf)
と情報提供に努める責務を認め、よって、本実験の計画について、最も真剣な疑問を表明した債権者らに対して、債務者は、速やかに「科学的根拠や関連する情報をわかりやすく説明する」よう努める義務があることは言うまでもない。 |
(3) |
また、債務者自ら、本実験に関して、「より積極的で透明性をもった情報提供に努める」必要性を認め、最新のセンターニュースでも、
「適切な情報開示・提供
GM作物及びこれらを利用した食品について、国民の皆様のご理解が十分に得られているとは言い難い面もあり、例え研究段階の実験であっても、農林水産省の栽培実験指針では、より積極的で透明性をもった情報提供に努めることがうたわれています。
そこで、‥‥本実験は一般に公開しながら進めていくことを原則としており、今後も見学会を開き、実験の経過の公開など、適切な情報公開・提供に努めます」
と表明している(疎甲15)。 |
(4) | ましてや、債務者は本実験を国家的なプロジェクト=全国民の利害に深く関わる公益的なプロジェクトと自負する以上、債務者が、その公益的な事業内容を、積極的に国民の前に開示することを躊躇する理由は何一つない。 |
(5) | さらに、債権者は、本裁判でGM推進の是非を問うているのでは全くなく、あくまでも、本実験の危険性・問題点という具体的、個別的な問題だけを問うている。 |
(6) |
したがって、先月28日の答弁書の提出時には、てっきり、本実験の全体にわたってその内容を具体的に詳細に説明した書面が債務者より提出されるものとばかり思っていたが、驚くべきことに、そうした書面はひとつも出されなかった。これが本実験に関し「適切な情報開示・提供」の責務を標榜する債務者の対応とはとても信じられない。他方、本実験の危険性・問題点という具体的、個別的な問題を問おうとしている債権者としても、前提事実が明らかにならない以上、問題点の本格的な解明に進めない。なぜなら、例えば、次のようなやり取りになってしまうからである。
《そもそも本実験においてはいもち病菌等の噴霧試験は行わず、病菌に罹患した苗をGMイネの苗に隣接して栽培する方法により、罹患可能性を検証する方法で行うのであり、そもそも債権者の主張する前提において明白な誤りがある。》(答弁書11頁4行目)
つまり、債務者は、前提事実について債権者に明白な誤りがあると鬼の首でも取ったように主張するが、仮にこれが真実だとしても、こんな前提事実は債務者があらかじめ、いもち耐病性の検定方法の具体的な内容を明らかにしておけば、債権者も誤りようがなかったのである。それをしないで、債務者が、単に「隔離圃場内でいもち病抵抗性‥‥の評価‥‥を行ない」(疎甲8。栽培実験計画書1、(1)A)としか情報公開しなかったから、こうした無駄な事態になってしまった。
よって、限られた時間内に、本実験の危険性・問題点を可能な限り吟味するためには、その前提となる本実験の具体的な内容を早急に正確に把握しておくことが必要不可欠である。それゆえ、元来、GM実験に関し「適切な情報公開・提供」の責務を負う債務者は、本実験の全体にわたってその内容を具体的に詳細に説明した書面(もともとそうした書面が存在する筈だから、その提出に何ら困難はない筈である)、少なくとも本実験の以下の諸点について具体的に詳細に説明した書面を至急、提出されたい。 |