平成17年(ヨ)第9号 遺伝子組換え稲の作付け禁止等仮処分事件
原 告  山田 稔 ほか11名
被 告  (独) 農業・生物系特定産業技術研究機構

債権者準備書面 (1)
2005年6月27

 新潟地方裁判所高田支部 民事部 御中
債権者ら訴訟代理人弁護士神山美智子
弁護士柏木 利博
弁護士光前 幸一
弁護士近藤 卓史
弁護士馬場 秀幸
弁護士柳原 敏夫




申立書の理由につき、債権者らは、次の通り、主張・立証を補充する。
本実験の必要性について
申立書の「第7、本GMイネ野外実験の検討」の「1、実験の目的の正当性」において、次の通り、主張した。
@
本GMイネ野外実験の目的のひとつは、「いもち病に強いイネの栽培」とされる(疎甲3。プレスリリース「本GMイネ野外実験説明会の案内」)。しかし、既に、従来の品種改良により同一の目的を達成したイネ(たとえば新潟県の開発品種「コシヒカリBL」疎甲6)が存在しており、わざわざ危険性のあるGM技術を用いる必要など全くない。
今般、このいもち病に強い新潟県の開発品種「コシヒカリBL」の誕生を裏付ける新潟県作成の疎明資料を追加提出する(疎甲10)。
実験の危険防止手段の正当性について
申立書の「第7、本GMイネ野外実験の検討」の「2、危険防止手段の正当性」の「@.本GMイネ野外実験の危険性・問題点」において、さらに次の問題点を追加する
(4)、交雑防止措置とイネの花粉の飛散距離について
債務者作成の栽培実験計画書(疎甲8)の「5、同種栽培作物等との交雑防止措置に関する事項」の中で、債務者は、次のように言う。
《指針および通知(平成17 年4 月12 日)に示されている組換えイネの栽培実験に必要な隔離距離26m を確保するため‥‥最も近接した一般農家水田は東側にあり,事業所境界に接した高架の道路を挟んで隔離圃場境界から約220m の距離にある.》(2頁)
しかし、現場の研究により、実際のイネの花粉の飛散距離は最大で900mにまで達するという論文(疎甲13)があり、ましてや、本実験場は、夏には北東からの風が強く吹く地域にあり(そのデータは近日中に提出予定)、こうした状況に照らしてみたとき、本実験の上記交雑防止措置では不十分極まりないことは言うまでもでない。
本実験に対する地元自治体および市民の反応
本年4月、債務者より、本実験の実施が表明されるや、地元住民から、
「北陸研究センターが実験説明 県内農家反対相次ぐ」(4月30日新潟日報。疎甲9の5)
「屋外実験延期の声続出 北陸研究センターの遺伝子組み換えイネ“風評被害”懸念」(4月30日上越タイムス。疎甲9の3)
の声が上がり、それを受けて、新潟県、上越市をはじめ多くの自治体からも、
「県側は『地元農家らの理解を十分得られるよう慎重に進めてほしい』と要望」(5月11日日新潟日報。疎甲9の3)
「上越市は16日、安全性や風評被害を不安視する市内の生産者や消費者に対し十分な説明を行なうよう同センターに要請した」(5月18日新潟日報。疎甲9の3)
隣町の津南町や五泉市では、議会が、「遺伝子組み換えイネの栽培実験の中止を求める意見書」提出を求める請願と陳情を採択し、国と債務者に提出された(疎甲11)。
そして、上越市から出荷されている米を購入している生活協同組合では、本実験の危険性・問題点を憂慮し、これに反対する声明を表明している(疎甲12)。
さらに加えて、本件において憂慮すべきこととして風評被害の問題がある。新潟県は、従来の品種改良により長年かけて開発した品種「コシヒカリBL」(BLコシヒカリとも呼ばれる)を、本年度から、いもち病に強いコシヒカリとして全面的に導入を決めた(疎甲10参照)。その結果、もし、このまま本実験が強行されれば、いもち病に強いGMイネが、上記2で指摘した通り、新潟のコシヒカリと交雑する恐れがあり、「BLコシヒカリは危険だ」という風評が広がるのみならず、さらに、一般消費者の間に、いもち病に強いBLコシヒカリというのは、本実験のうたい文句である「いもち病に強いGMイネ=GMコシヒカリ」のことではないかという(なぜなら、うたい文句が同じBLコシヒカリとGMコシヒカリとでは一般消費者にとって殆ど同じようにしか聞こえないから)風評が容易に広がり、その結果、BLコシヒカリの全面導入を決めた新潟県の生産者に、風評被害の常として、ほぼ回復不可能な莫大な損害をもたらす恐れが大いにあるからである。これに対し、債務者は、
「(風評被害を)前提にしていない」(4月30日上越タイムス。疎甲9の3)
ともっぱら開き直りの姿勢に終始している。よって、回復不可能な莫大な損害をもたらすおそれのある風評被害を回避するためにも、本実験を差し止める必要性が極めて高い。
結語
 以上述べたことからも明らかな通り、本実験は、一方で、「コシヒカリBL」が誕生した現在、もともと様々な危険性・問題点を抱えている本実験を今さら強行する何らの必要性もなく、他方で、一般イネとの交雑の危険性や回復不可能な損害をもたらすおそれのある風評被害といった深刻な問題を抱えている。よって、債権者としては、29日に予定されている本GMイネの田植えの実施は、本実験の危険性・問題点の重大さにかんがみて、また、にもかかわらず、裁判所がそれを十分に審理する時間的余裕のないことからも、少なくとも、その後、イネが開花し、実がつくことが可能なタイムリミットと思われる7月10日まで延期されるべきであることを、強く要請する。

以上

証拠方法
疎甲9号証の1〜5市民・自治体の反応を取り上げた新聞記事
疎甲10号証新潟県作成の「BLコシヒカリ」のパンフ
疎甲11号証の1〜3請願と陳情に対する津南町議会の審査結果
疎甲12号証の1〜3生活協同組合の本実験の反対声明
疎甲13号証の1、2イネの花粉の飛散距離についての論文



以上